FNSドキュメンタリー大賞

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2018.10.25更新

26歳のディレクターが見た、ふるさとの姿

鹿児島県南大隅町の海岸

鹿児島県南大隅町の海岸

第27回FNSドキュメンタリー大賞 ノミネート作品
ふるさとは生きている

11月3日(土)26時55分~27時50分放送

番組でとりあげた鹿児島県南大隅町は担当ディレクター自身のふるさとです。思い出深い地で半年にわたり伝統行事・御崎祭りを取材しましたが、久しぶりに訪れたふるさとは過疎高齢化が進み、疲弊した集落となっていました。同じ場所で生まれ育った同級生たちはみな故郷を離れ、都会で暮らしていました。その一方で、一度離れたふるさとに帰ってくる人や、地元で生きていくと決断した人もいて、そこには地元の伝統を守るため必死に汗を流す若者の姿がありました。取材を通して見えてきたふるさとの姿を描いた作品です。

本土最南端、佐多岬がある鹿児島県南大隅町。主な産業は漁業と農業で、鹿児島市からはフェリーと車を乗り継いで3時間ほどかかります。人口およそ7000人、高齢化率は46%と鹿児島県内でも最も高く、町に活気は無くなり、集落は疲弊していました。ディレクターをかわいがってくれていたおばあさんの家は取り壊され、6年間通った母校は閉校していました。よく通っていた駄菓子屋のおじさんはもうおじいさんになり、「ここはもう無くなる集落だ」悲しげに笑いながらそう話してくれました。

今回の取材の目的はふるさと・南大隅町佐多地区に1300年続く伝統行事、御崎祭りでした。本土最南端・佐多岬に鎮座する神様が、約20キロ離れた近津宮神社の神様に新年のあいさつに行くという祭りです。一行は御崎神社から近津宮神社までの間にある7つの集落を練り歩きます。一行を構成するのは矛・神輿・傘。矛は神様が通る道のおはらいをする役目があり、その後ろを神輿が歩きます。そして傘は神様の日よけ・雨よけの意味があります。一行が通ると神風が吹き、その1年を健康に過ごせるとされています。

本土最南端・佐多岬

本土最南端・佐多岬

御崎祭りの様子

御崎祭りの様子

御崎祭り、最初の会合で議論されていたのは「祭りの後継者がいない」という問題でした。昭和30年代には2000人いた祭りの参加者は、今では4分の1ほどになっていました。外部の人手を借りるべきだという声や、地元の者だけでやらなければ祭りをする意味がないという声など割れる意見。年々進む高齢化が1300年の伝統にも、影を落とし始めていました。

白熱する会合の中にたったひとり、若者の姿がありました。集落の青年団、唯一の20代、若松将志さん(24)。若松さんは同級生が都会に出ていく中、中学卒業後も地元に残り、農業で生計を立てていました。「人のためになりたい」。そう話す若松さんに、御崎祭りの大役が任されることになりました。祭りの一番の花形、「傘納め」です。近津宮神社に矛、神輿が奉納され、祭りのクライマックスを飾るのが「傘納め」。これまでベテランが担ってきた大役を若松さんが務めることになったのです。町に残る若者にみんなが期待を寄せていました。

若松さんのように地元に残り、暮らしている若者はほとんどいません。ディレクターの同級生も全員がふるさとを離れ、都会に出て行きました。過疎化し、活気が無くなったいまのふるさとをどう思うのか。ある同級生は「ふるさとは好き。でも仕事が無いから暮らすことはできない」と語り、ある同級生は「ふるさとには絶対戻らない。思い出もない」そう言い切りました。それが彼の本心だったのか。ディレクターは、それ以上聞くことができませんでした。

町では御崎祭りに向けて、着々と準備が進んでいました。大役を任された若松さんは「傘納め」の練習を必死に続けますが、なかなかできず、伝統の重みを感じていました。不安が残るまま迎えた御崎祭り当日。集落には祭りのために帰ってきた若者が大勢いました。100キロもの重さがある神輿を担ぎながら、歩きづらい海岸沿いや、険しい山道を下っていくのです。「ふるさとの伝統を守りたい」その思いが彼らを動かしていました。

大勢の住民に歓迎され、7つの集落を巡った祭りの一行はいよいよ最後の儀式を迎えます。観客が見守る中、大役を任されていた若松さんはクライマックス「傘納め」を無事に終えました。達成感に満ちたさわやかな笑顔で、「来年も頑張るしかない」と彼は話しました。1300年続く伝統の祭り、御崎祭りはふるさとを大切に思う若者の気持ちによって、受け継がれていました。

高齢化が進み、過疎の町となったふるさと。ディレクターは「町は疲弊していく一方だ」と感じていましたが、そうではありませんでした。ふるさとを思い、汗を流す人が大勢いました。地元で生きていくと決め、人のためにと懸命に働く若者がいました。
「ふるさとを大切に思う気持ちがあれば、離れていても出来ることはたくさんある」。 26歳の番組ディレクターが見た、今のふるさとの記録です。

コメント

ディレクター・田中ゆかり(鹿児島テレビ)

10代のころ、私は田舎が嫌で仕方がありませんでした。本土最南端・佐多岬がある町、鹿児島県南大隅町佐多地区で私は生まれ育ちました。過疎高齢化が著しく進んでいて、いわゆる「限界集落」のひとつです。都会に憧れを抱いていた私は15歳でふるさとを離れました。それから10年が経ちふるさとへ帰ってみると、空き家が増え、小学校は閉校し、活気のない疲弊した集落になっていました。そんな町が1年に1度、大いに沸く日があります。それが今回取材した「御崎祭り」です。「御崎祭り」の取材を通して見えてきたふるさとの現状がありました。疲弊していく一方だと思っていた町には、ここで生きていくと決断した青年や、ふるさとのために必死で汗を流す若者たちが大勢いました。「あなたにはふるさとがありますか?」これを見終わったあと、田舎に住む家族に電話してみようかな、そう思ってくれたら。そんな願いを込めて制作しました。

番組概要

タイトル
第27回FNSドキュメンタリー大賞 ノミネート作品
『ふるさとは生きている』(制作:鹿児島テレビ)
放送日時
11月3日(土)26時55分~27時50分放送
スタッフ
ディレクター
田中ゆかり
撮影
  • 濵田和義
  • 小松将也
音声
富永直樹
MA
  • 大町龍平(VSQ)
  • 河野梨沙(VSQ)
プロデューサー
  • 槐島栄一
  • 加治屋潤

※掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。