FNSドキュメンタリー大賞

FNSドキュメンタリー大賞

2018.9.24更新

高校生が演劇で問う、母校の未来と福島の今

第27回FNSドキュメンタリー大賞 ノミネート作品
サテライトの灯~消えゆく“母校”~

9月30日(日)25時55分~26時50分

福島県内に唯一残されたサテライト校、相馬農業高校飯舘校。今も福島市のプレハブ校舎で学んでいます。長引く避難の中で、通う生徒は、飯舘村以外の出身者が9割以上に。そんな飯舘校で輝きを放った演劇部。全国大会にも出場した彼女たちが舞台のテーマとしたのはいつかきっと無くなる母校への思い。芝居を通して痛みと向き合った演劇部の生徒たち。その姿から見えた、もう一つのサテライト校の意味、そして、福島の今とは。

2018年、あの日から丸7年が経過した福島県。大部分での避難指示の解除や、帰還困難区域の除染が始まるなど、時間をかけながらも、復興の道を進み、先を見据えることができるようになってきました。だからこそ今、福島では若い世代に希望を託し、あの日から10年、50年先の福島を思い描いています。ニュース報道でも、若者たちに未来を見出そうとするものがほとんどです。しかし、それは同時に、若者たちに“震災”“復興”といった言葉の中で生きることを、強いているに過ぎないのではないか…。日頃の取材活動で感じたそんな疑問・葛藤が、今回の制作の第一歩でした。

取材を進め、知ったサテライト校の現状。震災直後、福島県では、サテライト校制度を導入。避難を余儀なくされた高校生のために、避難先の自治体の学校の体育館や空き教室で授業が行われました。その後、時間の経過とともに、徐々にサテライト校は役目を終え、現在、県内に唯一残されているのが、相馬農業高校飯舘校サテライトです。飯舘村にあった高校は、今も福島市のプレハブ校舎で学んでいます。そこで出会ったのが、全国大会に出場するなど活躍していた演劇部の生徒たちです。“帰還”・“再生”こそが、正義とされる中で、「サテライト校だから、通うことができた」「このプレハブ校舎が母校」と力強く語ってくれました。

演劇部の生徒の多くは中学校時代、いじめや不登校を経験。彼らにとって自分を変えてくれた場所、立ち直らせてくれた場所が飯舘校でした。飯舘村から福島市に避難した飯舘校は、村民が通わなくなったために入学者が減少。倍率が低く入りやすい学校として、いつしか福島市などの中学生たちの新たな受け皿へと変わっていきました。

演劇部の部長、菅野千那さんも福島市の出身。人間関係で悩み、中学校時代に不登校を経験。定時制高校への進学を考えていた時に、紹介されたのが飯舘校でした。「ここでやり直そうと決めた」と強い意志で歩みを進め、仲間たちと一緒に演劇に打ち込み、友達と一緒に、普通に学校に通うことができました。自分の居場所を見つけることができたのです。

本来の設置の目的とは違うところで、思いがけず新たな可能性を持つことになったサテライト校。しかし、復興が進めば、学校が本来あるべき場所に戻ろうとすることは必然。大人たちの議論が進む中、飯舘校の生徒たちは人知れずそのことを受け入れていました。理想と現実のはざまで揺れ動く7年目の福島の現在地をサテライト校の今が、映し出していると感じました。福島の人も知らない福島の今が、ここにあると感じたのです。

飯舘校演劇部の芝居『―サテライト仮想劇―いつか、その日に、』で、生徒たちは飯舘校が村に帰ることが決まり、愛したプレハブの校舎が無くなる“その日”を想像。自分たちの過去もさらけ出しながら、母校への思いを訴え続けてきました。その想像と重なり合うようにして、現実に、福島県教育委員会が飯舘校の生徒の募集停止を決定。飯舘村は校舎を村に帰し、村立での再開を模索するも、議論は混迷。突きつけられたのはプレハブ校舎が無くなる“その日”が近づいたうえに、飯舘校自体が無くなってしまうかもしれないという厳しい現実でした。大きな流れに翻弄され、母校の未来が揺れ動くそんな中、サテライトの灯に照らされた若者たちが見出したものとは…。

コメント

ディレクター・渡部暁大(福島テレビ報道局郡山報道部)

「“過去のことは今では笑って語ることができる、それは多くの人に支えられ、頑張ってきた今があるからです。そしてだからこそ、これからも頑張り続けなきゃいけない”一点の曇りもなく、プレハブ校舎の教室で、そう語ってくれたのが相馬農業高校飯舘校演劇部の部長・菅野千那さんでした。千那さんと演劇部の活動を追いかけた1年半、このような言葉にハッとさせられたことは数えきれません。復興が進む中で、“帰る”“戻る”といった言葉がいつも光を浴びる中で、原発事故によって生まれたこのサテライト校に通った私たちがいたことを忘れないでほしい…飯舘校演劇部が舞台から訴えるこのメッセージを、もっと多くの人に伝えたいと、番組作りに取りかかりました。彼らの舞台上からの叫びを通して、あの日から7年がたった今の福島を少しでも想像していただければうれしいです」

番組概要

タイトル
第27回FNSドキュメンタリー大賞 ノミネート作品
『サテライトの灯~消えゆく“母校”~』(制作:福島テレビ)
放送日時
9月30日(日)25時55分~26時50分
スタッフ
ディレクター
渡部暁大(福島テレビ)
ナレーター
福盛田悠(福島テレビ)
撮影編集
渡邉哲(福島映像企画)
構成
平和紘
MA
新國伸太郎(福島映像企画)
音声
熊谷和浩(福島映像企画)
CG
高梨美香(福島映像企画)
プロデューサー
遠藤衛(福島テレビ)

※掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。