FNSドキュメンタリー大賞

FNSドキュメンタリー大賞

2018.9.16更新

変わりゆく山と向き合うマタギの思いは

第27回FNSドキュメンタリー大賞 ノミネート作品
変わる山の変わらぬもの~玉川マタギのシカリとして~

9月28日(金)26時35分~27時30分

秋田県仙北市田沢湖玉川地区。山あいに位置し、山の恵みと共に生活を営んできました。生きていくため、根付いた“マタギ文化”。しかし、進む少子高齢化と人口減少により、手入れの行き届かない森林が増え、人とクマとの境界線があいまいになってきました。相次ぐクマ被害、爆発的に増える目撃情報。山に生きる命と向き合ってきたマタギは、変わりゆく山とともにどう生き、その文化や精神をいかに次世代へ継承していくのでしょうか。苦悩しながらも、奮闘する“玉川マタギ”の頭領“シカリ”の姿を追いました。

クマの生息頭数が爆発的に増加

全国的に増える、人の生活圏でのクマの目撃情報。秋田県は2017年まで、クマの目撃件数、捕獲頭数ともに2年連続で過去最多を更新しています。民家の周辺、公園や学校でクマの出没が増えたことに加え、登山や山菜採りなど、人々が四季折々のレジャーを楽しんできた山の状況にも変化が起きています。
 2016年、秋田県鹿角市では山菜採りをしていた男女6人が相次いでクマに襲われ、4人が死亡、2人がけがをしました。周辺で捕獲したクマの体内からは人体の一部とみられるものが見つかり、付近は現在も立ち入りが制限されています。これまで有効とされてきた“クマよけ鈴”を持っていても襲われてしまいます。一歩山に入れば、いつどこでクマに遭遇するかわかりません。秋田県は、2017年の春先に県内のクマの推定生息数を約1000頭としていましたが、2018年には約2300頭へと大幅に上方修正しました。クマの生息頭数が爆発的に増えているとされているのです。

“玉川マタギ”の文化と精神の継承

こうした中、必要性が見直されているのがハンターです。山で遭難者が出ると、警察と消防が連携しながら捜索を行いますが、ここ数年、警察官すらクマに襲われる可能性が高く、ハンターの護衛なしには山に入れません。山あいに位置し、多くの人が山菜採りに訪れる、秋田県仙北市の玉川地区で、遭難者の捜索の様子を取材していた際に出会ったのが、地元猟友会に所属する一人の男性、中島秀美さん(68歳)。

玉川地区では2017年、山菜採りをしていた女性がクマに襲われ、亡くなっています。人命がかかっており、一分一秒を争う捜索現場で厳しい表情を見せながら指揮を獲る、中島さんの存在感に自然と引き込まれました。クマは人に被害を及ぼすもの、という世間の認識が強くなり、有害鳥獣として、クマを捕獲・駆除するハンターとしての役割を求められ、その要求に応えようと奮闘する中島さん…。
 しかし、取材を重ねる度、中島さんは単なるハンターではないことを知りました。命がけで狩りを行い、野生動物や山菜などを、山の恵み、授かりものとして頂いています。山の神に感謝しながら、山とともに生きる“玉川マタギ”の精神を受け継ぐ者です。一説には戦国時代から続くともされる歴史を誇る、“玉川マタギ”の頭領“シカリ”として、山とそこに生きる命と向き合って生きてきたのです。
 誰にでも門戸を開き、温かく受け入れる中島さんの元には、若手ハンターが集まってきます。時折厳しさを見せつつも、愛情深く、決して偉ぶらないのが慕われる理由です。
単なるハンターではなく、真の“マタギ”へと若手を育てるためには、若手を連れ、山に入り、自身の姿を見せ続けることで、これまでの経験を伝えます。中島さんは、玉川地区に根付くマタギの文化と精神を次世代へつなげようとしていました。「マタギの醍醐味、面白さを理解してもらいたい、自分の手でクマを撃てるようになって欲しい、そして、玉川マタギの伝統を途絶えさせたくない」果たして、中島さんの思いは若手に伝わるののでしょうか…、そして“玉川マタギ”の未来は…。
 2018年、山の変化は加速しています。鉄砲を持って山に入ったハンターでさえもクマに襲われるなど、これまでにないペースで人身被害が増え、山だけでなく、民家や公共施設の周辺での目撃情報が後を絶ちません。山を取り巻く環境と、ハンターとして世間から求められる役割が変わりゆく中、中島さんは、いま何を思うのでしょうか。受け継いできたマタギの文化と精神を守り抜くことが出来るのでしょうか。

コメント

ディレクター・田中英里(秋田テレビ報道部)

「獲物を求め、山に入り、道なき道をどこまでも登っていく彼らに同行する取材は、とても厳しいものでした。でも、彼らとともに山で過ごし、生活に触れるたび、私たちの生活ととても近いものだと思うようになりました。当たり前にスーパーに並んでいる野菜や肉を買い、調理し、きれいに盛りつけたものを私たちは食べています。生きていくためです。“マタギ”は同じように、命をつなぐために先人が築いた文化です。いま私たちが、当たり前のようにしていることの原点であるのかもしれません。
野生動物を捕獲し、さばくなど、番組内には目を覆いたくなるような場面も映し出されています。でも、彼らのその姿をみて、私は『生きること』を改めて考えさせられました。日常で出会う機会はなく、私とは縁のない世界の話だと思っていた“マタギ”の頭領との偶然の出会いのおかげで、たくさんのものを得ることができました。番組を通じ、皆さんにも何かを感じていただければ幸いです」

番組概要

タイトル
第27回FNSドキュメンタリー大賞 ノミネート作品
『変わる山の変わらぬもの~玉川マタギのシカリとして~』(制作:秋田テレビ)
放送日時
9月28日(金)26時55分~27時50分
スタッフ
ナレーター
杉卓弥(秋田テレビ)
構成
関盛秀
撮影
佐々木弘樹(秋田テレビ)
ディレクター
田中英里(秋田テレビ)
プロデューサー
相川努(秋田テレビ)

※掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。