2017.9.7更新
被災から立ち上がる二人の息子の姿を追って
第26回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
じゃあな、親父。~あの川が奪ったもの~
9月26日(火)26時10分~27時5分
2016年8月、わずか半月の間に4つの台風が襲った北海道。死者・行方不明者は計6人、被害額は2800億円を超え、北海道では過去最悪の水害となりました。
十勝の清水町。行方不明となった父を捜し続ける息子。父が築いた牧場を失った息子。二人の人生を大きく変えたのは、どこにでもあるような「小さな川」でした。追いつかない災害対策の現状と課題を検証するとともに、被災から立ち上がる二人の姿を追いました。
北海道・十勝の清水町旭山地区。台風が北海道に最接近した2016年8月末、近くを流れる小さな川が氾濫しました。川のそばに「終のすみか」として建てたログハウスで暮らしていた長山誠教さん(当時63)は家ごとのみこまれました。
行方不明から1カ月半後に町の捜索は打ち切られましたが、長男の亮さんは諦めきれませんでした。自ら重機の免許を取得し、捜索を続けることにしたのです。
亮さんは捜索で見つかったものを実家のガレージに保管していました。そこには、父・誠教さんが愛用していたデジタルカメラもありました。土砂崩れに巻き込まれたカメラは、中に砂が入り込み、写真を記録したカードを取り出すことすらできませんでした。
十勝から1000キロ離れた大阪市。ハードディスクやSDカードなどの復旧を行う業界の第一人者が協力してくれることになりました。砂を落としながら、慎重な作業でカメラからカードを取り出すと、約2時間でデータを復旧することができました。出てきたのは父が被災前に撮影した333枚の写真。そこには、夫婦二人で6年の月日をかけて手作りしたログハウス、流木の中で死んで見つかった誠教さんのパートナー・愛犬の「じん」、ウッドデッキにやってくるエゾリス…亮さんが知らない、自然を愛した父・誠教さんの姿が残されていました。「自分で区切りをつけたい」。亮さんはきょうも重機で父を探し続けます。
同じ清水町で酪農を営む岩田宏さんも、小さな川の被害に遭った一人です。亡き父が戦後のどん底から造り上げた牧場を、一夜で失いました。牙をむいたのは牧場の中を流れる、普段は穏やかな「小林川」でした。父が牛の生育に良いと惚れ込んだ川が、皮肉にも牧場を襲ったのです。再建か、廃業か…。年間4000万円の収入があった牧場は一夜で無くなり、搾乳をしても出荷ができないため、搾った乳を廃棄する毎日…岐路に立つ宏さんにとって、希望は生き残った牛。出産を控えたお気に入りの赤牛「レッド」に、親子で牧場を支えてきた岩田牧場の歴史を重ねます。
牧場の高台には濁流に流されずに残った、父が建てた石碑があります。父が理想とする酪農の姿と開拓者の魂が刻まれていました。北海道の厳しい冬を乗り越えた宏さんは石碑の前で、今度は自分が歴史を刻む番だと改めて心に誓います。
あの日、父を奪われた息子。あの日、父が築いた牧場を失った息子。いつか「じゃあな、親父」と言える時を目指して―。被災から立ち上がる二人の姿を追うとともに、小さな川の対策の現状と課題を検証します。
コメント
ディレクター・井戸和也(北海道文化放送報道部)
「2016年8月31日早朝。日が明けるにつれて、台風10号の甚大な被害が明らかになりました。濁流に飲み込まれ水没した街…下水のにおいが垂れ込めていたのを、いまでも思い出します。取材を続ける中で出会ったのが、父が行方不明となった長山亮さんと、父が築いた牧場を失った岩田宏さんです。猛威をふるった自然に、二人は怒るでもなく“仕方がない”と受け止めていました。失ってなお、前を向こうとする姿が印象的で、その後も通い続けました。
これは台風からの復興の物語ではありません。肉親との“別れ”をどう受け入れていくか、その姿を追ったものです。『父が見つかっても、区切りではない』と話す長山さん。岩田さんにも、本当の区切りはないのかもしれません。『じゃあな、親父。』というタイトルは、それでも歩こうとする2人を思ってつけました。いつの日か、二人が笑顔になれる日を願って。これからも取材を続けていきたいと思っています」
番組情報
- タイトル
- 第26回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『じゃあな、親父。~あの川が奪ったもの~』(制作:北海道文化放送)
- 放送日時
- 9月26日(火)26時10分~27時5分
- スタッフ
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- プロデューサー
- 上杉幸生(北海道文化放送)
- 構成・ディレクター
- 井戸和也(北海道文化放送)
- ディレクター
- 斉藤健悟(北海道文化放送)
- 撮影
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- 高谷響(ノーステレビ)
- 尾崎友則(エスティープロダクション)
- 撮影助手
- 楠木大樹(ノーステレビ)
- ナレーター
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- ゴブリン(大沢事務所)
- 鈴木渢(青二プロダクション)
- 編集
- 濱潟淳(オーテック)
- ライン編集
- 中澤出(オーテック)
- 音効
- 山﨑夏穂(東京サウンド・プロダクション)
- MA
- 大出典夫(東京サウンド・プロダクション)
- タイトル
- 南部竜之介(トップ・クリエーション)
- CG
- 小泉真魚(トップ・クリエーション)
- TK
- 青木志保子(ユープロダクション)
※掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。