FNSドキュメンタリー大賞

FNSドキュメンタリー大賞

2017.6.27更新

歴史認識の溝は埋まるのか?日韓隣国事情

第26回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
交わらぬ視線―きしむ日韓の現場から

7月4日(火)27時~27時55分

朴前大統領のスキャンダルは韓国の「民心」に火をつけた。怒りの炎はやがて日本にも及ぶこととなった。釜山の日本領事館前には元慰安婦の少女像が違法設置され、新大統領は慰安婦日韓合意の見直しを訴えて誕生した。文化面での交流が進む一方、かつてないきしみが生じている日韓関係。隣人の叫びは何を意味しているのか。そこから見える日本人の在り方とは。元慰安婦や支援団体への取材をもとに、これからの日韓関係を考える。

2017年1月、我々日本人にはにわかに信じがたいニュースが飛び込んできた。2012年に長崎県対馬市の観音寺から韓国人窃盗団に盗まれた仏像を巡る裁判の判決だ。韓国の地方裁判所は「所有権は韓国の寺にあり、過去に正常ではない過程で観音寺に移された」との判断を下した。これは客観的な証拠もなく「数百年前に倭寇(わこう)に略奪された」と主張する韓国・浮石寺の主張を認めたもの。アジアからの玄関口である福岡の放送局として、韓国での取材が増えていた私達は、すぐさま渦中の浮石寺に向かった。寺の住職が発した言葉は「5年前の韓国窃盗団と数百年前の倭寇は同罪だ、むしろ謝罪しない日本の方がずうずうしい」。日本での犯罪を黙認する、まさに“反日無罪”。歴史認識を巡る両国の溝はなぜこうも深いものなのか、その疑問が、番組取材に取りかかるきっかけとなった。

盗難仏像問題と並行し、日韓関係の外交課題として浮上したのが慰安婦問題だった。2015年、当時のパク・クネ政権が結んだ慰安婦問題日韓合意に反対する世論が、一連のスキャンダルによって爆発したのだ。この反日感情を主導するのが、慰安婦を支援する市民団体・韓国挺身(ていしん)隊問題対策協議会、通称「挺対協」だ。挺対協は韓国国内に少女像を設置し続ける、いわば反日の急先鋒とも言える。

日本メディアの取材にほとんど応じない代表のユン・ミヒャン氏に対し、私たちは直撃取材を試みた。ユン代表は、違法設置であるソウル大使館前の少女像について「日本大使館の前だから立てた」「違法ではない」「少女像が増え続けるのは日本のせいだ」と言い切った。その言葉から透けて見えたのは、慰安婦の救済というよりも、むしろ日本を批判し続けなければならないというかたくなな姿勢。慰安婦問題が、当事者不在の政治活動と化している現状を目の当たりにした。

そうした中で、当の元慰安婦は何を思うのか。次に向かったのが、元慰安婦達が共同生活を送る施設「ナヌムの家」だった。ナヌムの家は挺対協と深い関わりを持つ施設で、ここで暮らす元慰安婦は挺対協の言わば“庇護(ひご)のもと”にあり、毎週、ソウルの日本大使館前で開かれる日韓合意に反対する集会にも頻繁に参加している。その一人、イ・オクソンさんは「挺対協を信頼しないで私たちは誰を信用しろと言うのか」とつぶやいた。元慰安婦は、反日団体の広告塔なのか、それとも自らの意思で活動に参加しているのか、そして彼らの主張が韓国人の総意なのか。その疑問が、次の取材へとつながっていった。

一方、挺対協と相反する立場にいながら元慰安婦を支援しているのが、キム・ウォントンさん。団体ではなく個人で、元慰安婦を20年以上にわたって支援してきた男性だ。キムさんは日韓合意を支持しており「日本からの謝罪は物足りないが、それを受け入れ日本を理解することに意味がある」と語る。これに呼応するように、キムさんが支援する元慰安婦イ・キニョさんは日韓合意を一つの解決として捉え、日本からの支援金1000万円を受け取ったという。

韓国と日本、それぞれの市民はどう考えているのか。双方の声は対照的だった。韓国では「私たちは元植民地として忘れられない傷がある」、「殴られた方は覚えている、でも殴った方は忘れてしまう」、「私たちは今後も笑って和解できるわけではない」とする声が大多数だった。一方、日本では「韓国人は全く理解できない」、「なぜ彼らは過去にこだわるのか」、「昔のことは忘れて前へ進んでいくべきだ」という声が大半を占めた。

きしむ日韓の現場を巡る一連の取材を通して感じたのは、文化や歴史の異なる国が交わる以上、摩擦は避けられないということ。それが韓国であればなおさらだ。しかし、翻って、私たちの方から「日本から見た韓国」という固定的な視点を一度疑ってみてはどうだろうか。それは決して、全てを分かり合えるという幻想を抱くことではない。隣人の叫びに耳を傾ける、その面倒をいとわないということだ。

コメント

ディレクター・川崎健太(テレビ西日本 報道局報道部)

「日本から見て“あの国”は“よく近くて遠い韓国”と言われます。日本への旅行客が爆発的に増え、街で多くの韓国人を目にするようになった今でもやはり“理解しがたい”“国民性が過激だ”、大半の日本人がそう感じていることだと思います。番組取材を通し私も改めてそれを実感する場面に多々出くわしました。しかしそこから見えてくるのは彼らは常に我々に向かって叫び、主張を続けているということ。当然、その叫びに耳を傾けることは多くの時間と苦労を要します。そしてもちろん、歴史と文化が異なる以上、全てを理解できるはずもありません。しかし、それを前提とした上で私たちは彼らと向き合っていかなければならないのです。現在の韓国は民主化前の、飛躍的な経済発展を遂げる前の“あの韓国”ではありません。日本にとってあまりに大きい存在となりました。この番組が、日本人として隣人との向き合い方を考える、そのきっかけになればと思います」

番組情報

タイトル
第26回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『交わらぬ視線―きしむ日韓の現場から』 (制作:テレビ西日本)
放送日時
7月4日(火)27時~27時55分
スタッフ
プロデューサー
原満幸
ディレクター 兼 構成
川崎健太
撮影
清水一郎
編集
利光英樹
ナレーション
宮本隆治
制作
テレビ西日本

※掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。