FNSドキュメンタリー大賞

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2017.8.7更新

多くの困難の先にある”生きている証”

第26回FNSドキュメンタリー大賞 ノミネート作品
泳げないイルカ ~海洋楽者 10年の軌跡~

8月8日(火)26時10分~27時5分

愛知県豊橋市在住、自称「海洋楽者」の林正道さんは、10年前からイルカやウミガメなど本物そっくりの海の生き物ロボットを自作し、それをリアルに動かしながら子どもたちに海の魅力を伝える活動を続けてきました。さらに体の不自由な人たちのため、海に浮かんで自在に進む“泳ぐ車いす”も開発。そのきっかけは肺がんを患ったことから。残りの人生を全力で生きようと不眠不休で活動を続けます。そんな海洋楽者の10年を追いました。

“海を楽しむ”と書く自称、海洋“楽”者の林正道さんは、幼いころから海に親しみ、大学では海洋学を学び、その後ダイビングショップを営みながら大好きなイルカと一緒に泳ぐなど、海と共に生きてきました。

そんな彼が15年前、突如肺がんを患い、“海と遊ぶ”という生き甲斐を失ってしまいます。失意のどん底の中、療養中の沖縄で子どもたちとビーチのゴミ拾いした際、ある子どもの「このゴミが魚になったらいいのに」という言葉がきっかけで、ペットボトルなどのゴミで魚のフィギュアを作ってみました。子どもたちの喜ぶ顔を見て、彼らに海の魅力を伝えることが生き甲斐となり、イルカやウミガメ、ジンベイザメなど次第にリアルな魚ロボットを作るようになりました。

作った魚ロボットたちを車に積み、全国各地の幼稚園やイベント会場に小さなプールを持ち込んで、“海の教室”と題してみんなの前で魚ロボットを本物そっくりに泳がせます。「本物は100倍1000倍すごいぞ!かわいいぞ!」が彼の決め台詞、子どもたちを魅了しました。その海の教室は人気を呼び、年間200回を超えるほど。声がかかれば全国どこでも車に乗り一人で出向きました。

彼のこだわりは、この活動はあくまで趣味の一環であるということ。そのため、交通費や滞在費などはほとんどが自前。アルバイトでの収入だけではやりくりが厳しい状態でした。活動を続ける中、まだ完治はしていない体が時々悲鳴をあげ、背中や胸を襲う激痛や手足のしびれなど病魔に負けそうになることがありました。しかし、そんな彼をいつも奮い立たせてくれたのは子どもたちの笑顔でした。

海洋楽者は魚ロボット以外にも体の不自由な人のため、海に浮かんで自在に動く“泳ぐ車いす”の開発にも取り組んでいました。始めは失敗の連続でしたが、海の教室で出会った車いすの少女といつか本物の海で泳がせてあげるという約束を果たすため改良を重ね、4年を費やし完成させました。そして少女を沖縄に連れて行き、見せたかった海の魅惑の世界を体感させました。

一人で馬車馬のように駆けてきた彼にとっての悩みは後継者の問題でした。ロボット作りから海の教室を開くまで全て一人で作業し、取り仕切ってきました。誰かにこの想いを継承したいと考えるようになった彼は、台湾に渡ります。ここで工学系の学生たちに魚ロボット作りを教える機会を得たためです。

しかし彼の魚ロボットは設計図が無く、海を知り尽くした彼が自分の感覚だけで作ってきた高度なもの。見よう見まねで作っていくしかありません。言葉の壁もあり困難を極める中、1カ月に渡る教室でイルカやウミガメが作れるまでになりました。学生たちの誰か一人でも受け継いでくれることを願い帰国します。

さらに、“泳ぐ車いす”はさらに進化し、手足を使わず動く究極バージョンを開発しました。筋肉のわずかな動きでセンサーが反応して自在に動く。歯をわずかにかむだけで前後左右に車いすが泳ぎだす。これで重度な障害者でも海を楽しむことができるというものです。林さんの夢がまたひとつ実現しました。

10年近く活動を続ける中、海洋楽者は突然活動の引退宣言をします。長年の活動で魚ロボットたちは老朽化し、活動資金も底をつき、その捻出の術も尽きたといいます。加えて林さんの体も限界に来ていました。足の痺れがひどく、歩くのもままならずに歩行器を使うこともしばしば。一人でやってきた海の教室もサポート無しではできないまでになっていました。

人生のすべてであった10年の活動にピリオドを打つ重い決断。生き甲斐を失った海洋楽者は、無気力となり抜け殻状態に。そんな中、彼は沖縄の離島に向かいます。その理由とは?

番組では海洋楽者の姿を10年間追い続けてきました。不眠不休で魚ロボットを作り、一人で教室を全国各地で行い、病魔とも闘いながら全力疾走する様には“生きる”ことの尊さ、素晴らしさが見えてきます。そんな彼も10年の活動で、様々な限界が見え少しずつ失速していきます。そこには、人間だれしもが直面する“老いと病”がありました。その問題とどう向き合い、受け入れていくのでしょうか?葛藤の先に海洋楽者の出した答えとは?

コメント

プロデューサー・川瀬隆司(東海テレビ)コメント

「10年前に地元メディアに突如現れ、子どもたちの前で海の楽しさを伝える海洋楽者。そのパフォーマンスの凄さとキャラクターに魅せられその姿を追っていくことにしました。密着していくうちに、その人間味にどんどん引き込まれ、どうしてこんな大人が目を輝かせ、ピュアな心で子どもたちと接することができるのか不思議に思いました。さらに、不眠不休での魚ロボット作りや海の教室の活動。
教室はお願いされれば全国どこでも自分一人で車にロボットを乗せて向かいます。謝礼なども受け取らず、費用はほとんどが自腹。借金まみれでも献身的に活動する裏には、海洋楽者の“生きている証”がありました。
15年前に患った肺がんで人生が一変し、絶望の中で生き甲斐として見つけた海の活動、
”生きていることの素晴らしさ”を実感するためと本人はいいますが、その全力ぶりに
こちらも心配になるほどでした。いつ研究所を訪ねても、笑顔を絶やさない林さん、
10年かけ、ようやく彼の奥底にある心のひだに少し触れることができました」

番組情報

タイトル
第26回FNSドキュメンタリー大賞 ノミネート作品
『泳げないイルカ ~海洋楽者 10年の軌跡~』 (制作:東海テレビ放送)
放送日時
8月8日(火)26時10分~27時5分
スタッフ
プロデューサー
川瀬隆司
ディレクター
久保田孝(プロアップ)
川瀬隆司
構成
久保田孝(プロアップ)
ナレーター
鉄崎幹人
撮影
重田英之
音声
岡田康弘
編集
森本哲之
効果
今井志のぶ
MA
澤田弘基
デスク
石川敏江

※掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。