FNSドキュメンタリー大賞

FNSドキュメンタリー大賞

2017.9.21更新

“人のつながり”がつくる“心豊かな暮らし”

第26回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
過疎の向こうへ

9月29日(金)27時10分~28時5分

2市2町からなる能登半島の先端部・奥能登は、60年以上人が減り続けている過疎地域です。高齢化で農業の担い手も減る中、農地管理を請け負う若い世代が地域の景観や文化を守っています。2市2町全てが“消滅可能性自治体”である奥能登では、実際に集落の消滅も起きています。それでも現実から目を背けず前向きに生きる人たちがいます。日本全体が人口減少に転じた今、心豊かな暮らしを維持する過疎地域の住民の姿を通して、“過疎の向こう側”を探ります。

1970年、過疎地域対策緊急措置法が国会で成立しましました。過度な人口減少を食い止めようと、国が初めて過疎問題と向き合ってからもうすぐ50年。ほとんどの過疎地域は、人口減少を食い止められないまま今に至っています。現在2市2町からなる能登半島の先端部・奥能登も、この50年で人口が半分になった過疎地域です。ここ数年、「消滅可能性自治体」と呼ばれるようにもなりました。

過疎問題を解決するヒントを探ろうと去年夏から奥能登を回りましたが、過疎と向き合うことをとうに諦めた地区が目立ち、番組のスタートラインすら見失いかけました。そんな中、今回取材した輪島市門前町内保(うちぼ)地区にたどり着いたのは「田んぼが特にきれいだった」という単純な動機でした。

中山間地にある内保地区は典型的な過疎の農村。約120人の住民のうち、6割ほどが65歳以上。目立った産業も観光資源もありません。しかし、住民から受けた印象は諦めより明るさのようなものが勝っていました。住民の輪の中心には若者の働く農業法人があり、次々に舞い込む目の前の「仕事」を気負わずこなしていました。決して派手ではありませんが、現実と向き合いつつ将来を必要以上に悲観しない住民の姿が、求めていたヒントではないかと考え、この地区を取材しようと決めました。

田んぼと林が広がる内保地区の中心に、農業法人ファーマーの事務所兼作業所があります。創立は26年前、田畑の荒廃を防ぎたいと願う内保地区やその周辺の農家7人によって設立されました。創業メンバーが高齢で引退する中、内保で生まれ育った宮崎数馬さん(51)が12年前農協を退職し、創業者である父からファーマーを引き継ぎました。

ファーマーが受託する水田は年々増え続け、内保地区ではいまや農地全体の9割にも達しています。奥能登の将来に危機感を抱きながらも、増えゆく受託農地を気負わずに支える宮崎さん。そんな姿を見て、次男の隆司さんなど若手社員が加わり、チームで“地域”を守っています。

ファーマーの経営は決して一筋縄ではいきません。奥能登の中山間地は水はけの悪い泥田が多く、ファーマーに託される農地もそうした条件不利地が大半を占めます。一地域の取り組みでは限界があると感じた宮崎さんは4年前、奥能登の農業法人7社でつくる「煌輝奥能登株式会社」を共同出資で立ち上げました。7社はいずれも過疎地域の農業を支える担い手。同じ志や悩みを持つ担い手が互いに手を組むことで、1社では成し得ない大口の販路開拓も実現するなど、条件不利地のハンデを乗り越えています。

内保地区は7つの小集落で成り立っています。人は減り高齢化は進んでも、田の恵みに感謝する祭りは今も集落単位で残っています。だがそうした営みにも限界は迫っています。7集落の一つ、根古屋(ねごや)集落の住民は宮谷内きよさん(91)一人だけ。夫を早くに亡くした宮谷内さんは4人の子を育てながら長く農地を守ってきましたが、10年ほど前、田んぼをファーマーに預けました。今も地元の自然を愛し、俳句を伴侶に楽しく暮らしていますが、離れて生活する子どもたちが母を心配しています。

いかに住民が明るくても人は極限まで減っており、行政の支援がなければ立ちゆかない地域があるのも事実です。ファーマー代表の宮崎さんは、集落を消滅させまいと奮闘する一方で、企業誘致などによって過疎からの“脱却”を目指す取り組みには異論を投げかけます。「今を楽しく生きること」。飾り気のない、それでいて決して容易ではない宮崎さんの姿勢が、過疎地域に新たな人の流れを生み出そうとしています。

2015年の国勢調査によると、ついに日本全体の人口が減少に転じました。1920年の調査開始以降、初めてのことです、全国どこでも人が減る時代を迎えた今、長く過疎と呼ばれ続けた地域がこれからどうあるべきかを問いかけたいと思います。

コメント

ディレクター・山本岳人(石川テレビ報道部)

「“居住、移転及び職業選択の自由”が保障されている日本には、“どこで暮らすか”という選択肢がたくさんあります。働き盛りの世代なら、選んだ職業を優先して住む場所を決める人も多いと思います。地方都市に住む私もその一人です。

今回取材した奥能登は、職業の選択肢が決して多くない地域です。家を継ぐことや家族の介護などを優先して住んでいる方にも多く出会いました。そこで感じたのは、『楽しく暮らしている』方が想像していた以上に多いということ。楽しい暮らしのベースにあるのは、ふるさとという場所よりも、人が少ない地域ならではの温かくて強い“人のつながり”ではないかと思います。だから奥能登にゆかりのなかった私も住民の皆さんのおかげでしばしば取材を忘れ、楽しい時間を過ごすことができました。

過疎の“先進地区”でいきいきと暮らし、働く方々の姿を通して、過疎と向き合うことを諦めかけた全国の皆さんに少しでもエールが届けば幸いです」

番組情報

タイトル
第26回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『過疎の向こうへ』(制作:石川テレビ)
放送日時
9月29日(金)27時10分~28時5分
スタッフ
プロデューサー
今井一秀
ディレクター
山本岳人
撮影
和田光弘
構成
川上伸一

※掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。