FNSドキュメンタリー大賞

FNSドキュメンタリー大賞

2017.10.18更新

病を受け入れ、ありのままの私を生きる

第26回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
ママは乳がん~若年性患者たちの今~

11月4日(土)28時~28時55分

34歳の時に突如、「10年生存率50%の若年性乳がん」と告知された福井県坂井市在住のヨガインストラクター・髙橋絵麻さん。乳がんは日本人女性のがん罹患率1位ですが、34歳以下で発症する若年性は全体の2.7%、全国でもわずか2400人です。自治体検診の対象外で、患者会の多くの年齢層も40代以上です。絶望をフェイスブックに綴ると、若い患者から同じような叫びが返ってきました。絵麻さんは若い患者が悩みや思いを共有できる場所を作ろうと立ち上がります。

2015年秋、フェイスブックで頭を丸刈りにした美女に出会いました。福井県坂井市のヨガインストラクター髙橋絵麻さんです(当時34歳)。彼女はそこで、進行性の“若年性乳がん”であることを公表。さらにそこには、“しこりに触ってねキャンペーン”という言葉が…。自分のがんのしこりを触らせて、早期発見を呼びかけるというのです。私と彼女は同世代。今まで遠かった乳がんが、一気に他人事ではなくなりました。なぜ彼女は乳がんであることを堂々と公表し、自分のがんのしこりを触らせるという驚きの行動に出たのでしょうか。なぜ、過酷な運命を告げられながらも素敵な笑顔を見せられるのでしょうか…。それを知りたくて、取材を始めました。

番組の狙いは、乳がんについて正しく知ってもらうことです。乳がんは長く付き合わなければならない病気です。特に若年性世代は女性としての幸せが数多く訪れる時期に乳がんを抱えながら生きていかなければならない。なったから終わりではないのです。

子育て世代は育児に追われ、自分の体を後回しにしてしまい、発見が遅れることが多いといいます。絵麻さんはそんな実情を憂い、自らのしこりを同世代に触らせて、自己検診の必要性を周知しました。

乳腺外科の権威は、乳がん検診で使用しているマンモグラフィーで全てのがんが見つかるわけではないといいます。100%でない検診を補うためには、自分の乳房に関心を持つことが大切だと話します。しこりを触らせて早期発見につなげる絵麻さんの行動は、今の乳がん検診問題をカバーする“自己検診”の一役を担っていました。彼女の勇気ある行動から、乳がん、そして自分の体に関心を持ってほしいと思います。

もう一つの狙いは、若年性乳がん患者が孤独に悩んでいる実情を知らせることです。アンケートによりますと、患者たちが一番求めているものは患者同士で体験談や悩みを共有できる場でした。抱えた悩みを吐き出す救いの場となるはずの患者会は年齢層が高く、脱毛を隠すカツラや乳房切除などを相談できるような同世代の患者はほとんどいないのです。

こうした状況を感じていた絵麻さんは、「ないなら作ればいい」とフェイスブック上に若いがん患者が気軽に集まれる場所を立ち上げました。「病を受け入れ、ありのままの私を生きる」との思いを込め『I am』と名付けました。吸い寄せられるように次々と同様の悩みを抱えた若い女性たちから悩みや不安の声が寄せられました。

『I am』の初会合には、福井県内外から10人が集まりました。自己紹介の中で、今日に至った経緯をそれぞれに告白していきました。若くして乳がんを告知され、身体にメスを入れられ、抗がん剤治療の副作用にも悩まされている。それでも残された人生を楽しみたいという想いや、やり場のない胸の内を誰かに聞いてほしいという思いは同じでした。

みどころは、絵麻さんがつないでいく“縁”です。遅れてやってきたある女性は15年間、家族以外誰にも打ち明けられず、孤独と闘ってきました。不安を感じながらも、「同じ若年性乳がんの患者と話してみたい」と勇気を出して出席しました。

すかさず、絵麻さんが声をかけます。つらい話も明るく、時には笑い話として話す彼女達の姿を見て、女性は「ここなら病気のことも、悩みも話してもいいんだ」と安堵します。そして彼女は、「親友」と呼べる存在と出会うことになります。

髙橋絵麻さんという若年性乳がん患者と、彼女が立ち上げた患者会『I am』を通して、若くして乳がんを闘う女性たちの姿を伝えます。

コメント

ディレクター・井上愛梨(福井テレビ報道部)

「私は私の時間をちゃんと生きているだろうか…。小学生の頃からの夢であるアナウンサーという仕事に就き、常に仕事優先でがむしゃらに走り続けてきました。それはそれで恵まれた環境ですが、絵麻さんと出会い、もっと今の自分と向き合う必要があるのではないかと思い始めました。

今まで周りにがん患者はいなかったので、“がん=死”のイメージしかありませんでした。しかし彼女は“乳がん“というマイナス要素をプラスに変え、乳がんである自分を受け入れることによって、新たな生き方を見つけました。

いつも明るく、その瞬間を楽しみ、すぐそばにある幸せにたくさん気づくことができる絵麻さんは素敵だと思いました。11人に一人が乳がんになる時代。他人事ではありません。がん社会の中で、がんになることを恐れるよりも、なった時にどうするのか、どう生きていくのかということを考える必要があると思います。そのためには、周りのサポートが不可欠です。乳がんを正しく理解し、がん患者と共に生きていける世界になることを切に願っています」

番組情報

タイトル
第26回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『ママは乳がん~若年性患者たちの今~』(制作:福井テレビ)
放送日時
11月4日(土)28時~28時55分
スタッフ
プロデューサー
横山康浩
ディレクター
井上愛梨
構成
井上愛梨
ナレーター
井上愛梨
撮影
斎藤佳典
編集
斎藤佳典
MA
伊藤嘉貴
CG
浦島美早紀
音効
  • 久保田吉根
  • 長谷川花歩(東海サウンド)

※掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。