Story #011

 高速道路のトンネル内で多重衝突事故が発生し、多数の死傷者が出ていた。藍沢(山下智久)は、ドクターヘリで事故発生現場に急行し、その凄まじいようすを目の当たりにする。報告を受けた黒田(柳葉敏郎)は、タッチアンドゴーで白石(新垣結衣)緋山(戸田恵梨香)もヘリで現場に運ぶよう指示すると同時に、森本(勝村政信)藤川(浅利陽介)には患者の受け入れ準備を頼んだ。

 トンネル内の安全を確認した三井(りょう)は、トンネル内に残されたケガ人を重傷度や緊急度で分別し、トリアージタッグをつけるよう藍沢に命じた。白石と緋山も、ただちにトンネルの外に運び出されたケガ人の治療にあたった。

 藍沢は、冴島(比嘉愛未)とともにトンネル内に入った。するとそこに、腕から血を流している女性・小西(肘井美佳)が助けを求めてくる。小西の恋人・谷口(大橋智和)が、バイクで横倒しになった状態で、トラックの下に潜りこむようにして挟まれていたのだ。

 白石と緋山は、澤野良江(山下容莉枝)という女性の治療にあたる。良江は、夫と息子がまだトンネル内にいる、と叫んでいた。ほどなく、良江の息子・秀明(高木涼生)が警察官に付き添われて良江のもとへとやってくる。だが、夫の明夫(遠山俊也)の安否は依然不明だった。良江が腹腔内出血を起こしていることを知った緋山は、彼女をヘリで病院まで搬送しようした。良江は、そんな緋山に、夫が戻ってくるまではここにいる、と懇願した。緋山は、手を握ってきた良江にもう片方の手を添えて、きっと見つかるから大丈夫、と声をかけると、彼女をヘリに乗せた。そのとき、良江のポケットから携帯電話が落ちた。緋山は、それを拾ってポケットにしまった。

 トンネル内では、レスキュー隊による谷口の救出作業が始まっていた。だが、救出までにはまだ時間がかかりそうだった。藍沢は、その場で谷口の治療を開始した。十分な明かりも確保できない状況でドレナージを試みる藍沢。しかし谷口は、大量血胸で危険な状態に陥っていた。藍沢は、開胸をして止血しようと試みた。

 緋山は、良江を搬送するヘリでの中にいた。だが、翔北救命救急センター到着まであと数分というところで、急に良江の容体が急変した。心タンポナーゼだった。連絡を受けた黒田は、心嚢穿刺をするよう緋山に指示した。緋山は、エコーもガイドワイヤーもない状態で心嚢穿刺を行うのは初めてだったが、心を決めて黒田に指示を仰いだ。揺れるヘリの中で慎重に作業を進める緋山。やがて、心嚢に穿刺針が到達し、血液が吸引された。黒田も、ホッと胸をなでおろしていた。

 藍沢は、谷口の出血点を突き止めることができず、苛立っていた。すでに谷口はストーンハート状態だった。大動脈をクランプしても止まらない出血。心臓マッサージを続けていた藍沢は、やがて大動脈狭部が断裂していることを知る。この場所で谷口を助けることはもはや不可能だった。

 トンネルの外にはケガ人が増えていた。輸血用の血液などだけでなく、ケガ人搬送する救急車も不足していた。そんな状況に困惑していた三井は、1台の観光バスが移動しようとしていることに気づく。三井は、バスを救急車代わりにして黄色と緑のタッグの患者を乗せるよう救急隊員に頼んだ。

 緋山は、良江を救命救急センターの初療室に搬送した。そこにやってきた黒田は、現場では人も血液も機材も不足していること、間もなく翔北病院の救命救急センターにも大量の患者が運ばれてくることを皆に告げた。それを聞いた藤川は、現場に行かせてほしい、と申し出た。その真剣な表情見つめていた黒田は、病院内にあるRCCやアルブミン製剤などを持って現場に行くよう藤川に命じた。

 緋山とともに現場に向かった藤川は、ただちに患者の処置に当たった。一方、緋山は、良江の夫・明夫を探していた。遺体が置かれている場所に向った緋山は、そこには明夫と思われる人物がいないことを知る。そのとき、良江の携帯電話を持っていることに気づいた緋山は、「お父さん」という発信履歴をリダイヤルした。すると、電話に出たのは白石だった。いま診ている患者の携帯電話が鳴ったから出たのだという。緋山は、その場所へと急いだ。

 明夫は、トレーラーの積荷の下敷きになっていた。緋山に続いて、藍沢、冴島、藤川、三井も駆けつけた。白石によれば、明夫は一度徐脈したものの、処置によって持ち直したところだという。緋山から妻と子どもが無事であることを教えられた明夫は、安心したようすだった。
  するとそこに、消防隊長からの避難指示が入った。トラックからガソリンが漏れ、いつ引火してもおかしくない状態だという。三井は、一旦避難しようと皆に声をかけた。それを止めたのは白石だった。いまなら明夫を助けることができるが、安全確認後では助けられないかもしれないから置き去りにはできない、というのだ。

 藍沢は、レスキュー隊員に確認し、あと10分で救出できることを確認した。「10分だけやってみよう。救助終了後、至急避難します」。三井は、藍沢の提案を了承した。

 黒田は、そんな藍沢たちの決断を梶(寺島進)からの報告で知る。梶は、10分だけ藍沢たちに時間をやってくれ、と黒田に頼んだ。それでもダメなら、自分が力づくでも引きずり出すから、と――。

 藍沢たちが治療を始めて間もなく、明夫の意識レベルが低下した。明夫の頸部には打撲痕と血腫があった。頸動脈に損傷があるために、脳に十分な血液が送られていないのだ。藍沢は、すぐさま頸部を切開し、血管内の血栓を発見する。三井は、梶から電話を受け取り、黒田に指示を仰いだ。黒田は、バイパスによって血流を再開させ、ヘリで搬送するよう命じた。それを聞くまでもなく、藍沢は、点滴チューブを人工血管の代わりにして、血栓部分をバイパスしようと提案した。

 藍沢たちの処置は成功し、明夫は意識を取り戻す。ほどなく積荷の除去も終わり、藍沢たちは、明夫をストレッチャーに乗せてトンネルの外まで運びだす。

 藍沢と白石は、明夫をヘリに乗せて搬送する。白石から報告を受けた黒田たちは、ドクターたちが無事であることを知って安堵していた。

 無事オペを終えた明夫は、良江や秀明と再会する。白石は、回復後もリハビリが必要であること、麻痺が残る可能性もあることを良江に伝えた。「いいんですよ…生きてさえいてくれたら…」。良江はそういって涙ぐんだ。冴島は、明夫が書いたメモを良江に見せた。そこには、震える字で「これからもよろしく」と書かれていた――。

 今回の事故は、死者12名、重傷者6名、軽症者42名だった。

 藤川は、誰もいないロッカー室で母・静子に電話し、ヘリに乗ったことを伝えた。救えなかったことしか覚えていない、と告白する藤川に、静子は「大変だったね…ご苦労様」と声をかけた。藤川は、そんな母に、投書の件の礼を言った。電話口からは静子のすすり泣く声が聞こえた。

 黒田の息子・健一(今井悠貴)は転院の日を迎える。有里子(奥貫薫)と一緒にタクシーに乗り込もうとしていた健一は、離れた場所で見つめている黒田に気づいた。健一は、黒田の元に駆け寄ると、「お父さん、今度試合見にきてよ、バスケ」と声をかけた。有里子が、黒田のことを健一に話していたのだ。黒田は、涙をこらえながら、アメリカまで見に行くことを約束した。健一は、走り出したタクシーの窓を開けていつまでも手を振っていた。黒田も懸命に左手を振ってそれに応えた。

 翔北病院では、安全対策委員会が開かれた。レスキューの制止を振り切って治療を続けたことが問題になったのだ。そこで田所(児玉清)は、ドクターヘリには危険が伴うものなのだから、存続を前提として、どうすれば安全に運用できるのか議論を深めていきたいと強く主張した。

 冴島は、難病のALSで闘病中の元恋人・悟史(平山広行)を見舞った。明日来たくなるかどうかはわからない。でも、今日は来たいと思った。あなたの顔…見たいと思った」。そんな冴島に、「勝手だな」といいながら、優しい笑顔を見せる悟史。冴島は、悟史に抱きついて泣いていた。

 白石が医局で仕事をしていると、黒田がやってきた。そこで黒田は、もう事故のことを気に病む必要はない、と白石に声をかけた。「誰よりも多くヘリに乗れ」。黒田の言葉に、白石は大きく頷いた。
  白石は、田所の元を訪れて、提出した辞職願を返してもらった。田所は、そんな白石に、強いドクターになってください、と告げた。

 当直日誌を見ていた緋山は、14日の当直を代わる、と三井に申し出た。その日は、三井の息子の誕生日だった。ある日突然、別れを経験しなければならない家族もいるのだから大切な日くらいはちゃんと家族で過ごしてほしい、というのだ。三井は、緋山に礼を言って笑顔を見せた。

 藍沢は、屋上にいる黒田を訪ねた。名医とは何か――その答えは見つかったのか、と黒田は藍沢に問いかけた。黒田は、まだ答えが見つかっていないという藍沢に、それならまた明日から飛べ、と告げる。藍沢は、そんな黒田に、医者にできることは死ぬまでの時間をほんの少し延ばすだけではないのか、と告げた。黒田は、藍沢の言葉を肯定した。が、そのわずかな時間が、時に人生の意味を変える、と続けた。そのために腕を磨くことは決して間違っていない、というのだ。最後に黒田は、腕を切ったのがお前でよかった、と藍沢に告げた。「俺は、生きて息子に会えた」と…。

 森本はCS室で轟木(遊井亮子)と会っていた。森本は、フェローと当直を代わってやった、といって轟木に自分の優しい一面をアピールしていた。すると轟木は、恋人だった妻子持ちのアメリカ人と別れたことを森本に告白する。

 藍沢は、エレベーターの中で白石と一緒になった。藍沢は、明夫の処置をしているときに何か感じたか、と問いかけた。すると、白石は、「熱さ」と答えた。人の鼓動の熱さを感じた、というのだ。「その熱さを…いつまでも感じられる医者でありたい」。白石は、そう藍沢に告げた。

 別の日、藍沢は、祖母の絹江(島かおり)に、帽子をプレゼントする。その帽子を被って一緒に外を散歩しよう、と告げる藍沢。絹江は、嬉しそうな表情でその帽子を見ていた。そこに、またホットラインコールが鳴り響き…。

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