Story #007

 藍沢(山下智久)は、大腿骨を骨折して翔陽大学附属北部病院の救命救急センターに運び込まれた祖母・絹江(島かおり)のことで心を痛めていた。絹江は、ケガのショックが原因で認知症になり、藍沢の顔すら覚えていなかったのだ。絹江は、個室に入院していた。その前を通りかかった藍沢は、藤川(浅利陽介)に食事の世話をしてもらっている絹江のことを気にしつつも、いつもと同じように淡々とした表情で職務をこなす。黒田(柳葉敏郎)は、そんな藍沢に、人工血管による頚動脈の血行再建手術に加わるよう指示する。藍沢は、その手術に強い興味を示していた。

 一方、白石(新垣結衣)は、森本(勝村政信)冴島(比嘉愛未)らとともに、突然の嘔吐と腹痛を訴えて成田空港から搬送されてきた大柄な女性の処置をする。だが、実はその女性は、バンコクで性転換手術を受けてきたという大山恒夫(古本新乃輔)という38歳の男だった。大山は、手術の後、絶食する必要があったにも関わらず機内食を食べてしまい、腸閉塞を起こしたのだ。
  大山の処置を終えた白石は、電動車椅子に乗った田沢悟史(平山広行)と、その母親・俊子(大塚良重)に声をかけられる。ふたりは、冴島を訪ねてきたのだという。白石は、悟史たちにロビーで待つよう言うと、冴島のもとへと向った。だが、悟史たちが来ていることを知った冴島は、何故か動揺したようすで…。

 そんな折、ドクターヘリの出動要請が入る。千葉中央裁判所で、男性が公判中に嘔吐し、胸痛を訴えているのだという。森本とともにドクターヘリで現場に向かった緋山(戸田恵梨香)は、ランデブーポイントにやってきた救急車から、患者とともにスーツ姿の三井(りょう)が現れたことに驚く。その患者とは、三井を医療ミスで訴えていた真壁(阿南健治)だった。真壁は、三井の本人尋問が終わった直後に倒れたらしい。三井によれば、真壁はブールハーベ症候群の可能性があるという。森本たちは、ただちに真壁を救命救急センターに搬送する。
 
 俊子と悟史は、「難病患者を支える家族の会」に出席するために翔北病院を訪れていた。冴島は、ふたりの姿を確認したものの、何故か逡巡し、踵を返す。エレベーターの中で冴島とすれ違った藍沢は、彼女のようすがどこかおかしいことに気づいていた。

 真壁は、突発性食道破裂を起こしていた。三井がいなかったら命に関わる危険もあったのだ。緋山からそれを聞かされた真壁は、安堵の気持ちと憎んでいた相手に命を助けられた情けなさから、突然ポロポロと泣き出してしまう。

 そのころ三井は、田所(児玉清)の部屋にいた。三井は、弁護士の相馬(隈部洋平)や事務長の春日部(田窪一世)から、裁判での発言について責められていた。三井は、本人尋問の際に、自分が悪かった、と発言したのだ。春日部たちは、これで裁判が振り出しに戻ってしまった、と怒りを顕わにした。

 白石と緋山がカフェで休憩していると、そこに藤川がやってきて、冴島の噂話を始める。少し離れた席でその会話を聞いていた藍沢は、他に話すことはないのか、と藤川たちを非難した。

 三井は、真壁の病室を訪れた。そこで真壁は、何故裁判で急に謝ったのか、と三井に問いかけた。すると三井は、事件が起きた日…9月14日のことを話し始めた。実は、そのちょうど1年前、三井も、難産の末、子どもを出産していた。胎児を諦めて母体を優先しなかったのは、赤ちゃんを助けてほしい、と三井に訴えた真壁の妻に、1年前の自分の姿を重ね合わせたからだった。「あの晩、私は医者であることを忘れ、ひとりの女として感情で治療方針を決め、結果、ふたつの命を失いました…」。三井は、涙を流しながらそう告白すると、改めて真壁に謝罪した。

 大山の容体が急変した。大山は、絶食しなければならないのに今度はケーキを食べてしまったのだ。白石からその知らせを受けた三井は、大山のオペを行った。黒田と森本が別のオペ中だったため、田所も三井をフォローした。
 大山は、幸い、大事には至らなかった。田所は、オペを終えた三井を呼びとめると、離島で診療所をやっていたときのことを話し始めた。田所は、大学病院での張り詰めた日々から逃げてその島に行ったのだという。しかし、村人たちからは感謝され、例え失敗しても言い訳ができるような環境は楽だった、と続けた。「私がやったことは、決して島の人のためじゃない。自分のためです。結局、偽善だった」。田所は、それでも来てくれてよかったという人がいてくれたのだから意味はあったのだと思う、と言うと、あなたに会えてよかったと思っている患者は必ずいる、と三井を励ました。

 そんな最中、悟史が庭にある階段の下に倒れているところを発見される。悟史は頭を打っているようだった。冴島は、悟史が難病のALSを患っていること、そして半年前に自殺を図っていることを黒田に伝えた。俊子が目を離した際の出来事だった。頭部のケガを縫った悟史は、念のため入院することになった。

 大山は、恋人に振られたことを白石に告白した。性転換手術をした途端、恋人に振られてしまうケースはよくあるのだという。白石は、それなら何故手術をしたのか、と問いかけた。すると大山は、自分の相手だけは違うと信じるのが恋だ、と返した。

 あくる日、藤川は、絹江が今朝も食事を取らなかった、と藍沢に伝える。その際、藤川は、もう少し絹江についてやってもいいのではないか、と藍沢に意見した。すると藍沢は、家族を犠牲にしても働くのが自分たちの仕事だ、と返して立ち去ろうとした。藤川は、そんな藍沢の態度に怒り、自分を正当化しているだけだ、と言い放つ。が、振り返った藍沢にびびってしまった藤川は、それ以上、何もいえなかった。

 病室に向った藍沢は、看護師の村田(金田美香)に代わって骨折患者の相手をする。となりのブースでは、冴島が悟史のケアをしていた。悟史は、迷惑をかけてしまったことを冴島に詫びた。すると冴島は、悪いのは自分の方だ、と言い出す。冴島は、仕事の合間に悟史に会いに行くことが苦痛だったが、別れを切り出す勇気もなかったのだという。俊子のように、24時間を悟史のために使うことはできない、というのだ。悟史は、そんな冴島に、このまま死んで何もなかったようにされるのが怖い、と告白した。だから、例え冴島に憎まれても、もう一度会って、自分の生きた証を残しておきたかったのだという。冴島は涙をこらえていた。

 ほどなく悟史は、退院することになった。白石と藤川は、悟史を玄関まで見送った。悟史は、最後まで冴島のことを心配していた。

 その日、ヘリ担当だった藍沢は、要請を受けて三井、冴島とともにドクターヘリで出動し、ミッションをやり遂げる。緋山は、戻ってきた藍沢に、「私たち、誰のために医者をやっているのかな…」と問いかけた。

 ヘリポートでは、スタンバイ時間を終えたドクターヘリに、梶(寺島進)がシートをかぶせようとしていた。そこに冴島が現れ、装備の補充をやらせてほしい、と願い出る。何か事情があるらしいことを察した梶は、冴島を残して去っていく。
 ほどなく、ヘリの中に聴診器を忘れた藍沢がそれを取りにくる。冴島は、悟史の件で迷惑をかけたことを謝ると、恋人の命から逃げ出したような自分がヘリに乗ってもいいのだろうか、と藍沢に問いかける。「俺も自分が一番大事だよ」。藍沢は、そう返すと、絹江の面倒を見るよりも、自分の腕を磨きたい、と続けた。時々何が一番大事なのかわからなくなるがそれでもヘリに乗る、という藍沢の言葉を聞いて、涙が溢れてくる冴島。藍沢は、そんな冴島を思いやって、ヘリのドアを閉めて去っていく。

 藍沢は、絹江に食事をさせようとしていた藤川に、今日は自分が代わる、と告げる。しかし絹江は、箸を放り投げ手で食べ始めた。藍沢は、ベッドの横に座ると、同じように手で食べ始めた。絹江は、一瞬手を止め、藍沢に笑顔を見せた。「あなたはお医者さん? うちの孫と一緒ね」。藍沢は、そんな絹江に悲しく微笑みながら一緒に食事を続け…。

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