Story #006

 左前頭葉の脳腫瘍と、脳ヘルニアを起こしていた松原秀治が死亡した。藍沢(山下智久)は、秀治の死を知った家族が年金をもらえなくなって悔しがっていた、と白石(新垣結衣)に話す。それを聞いた白石は、家族の気持ちを理解しようとは思わないのか、と藍沢を非難する。

 同じころ、翔陽大学附属北部病院の救命救急センターには藍沢の祖母・絹江(島かおり)が運び込まれていた。買い物途中に転倒し、大腿骨を骨折したのだという。藍沢は、ドクターヘリで搬送されてくる患者の受け入れ準備をしている最中に、黒田(柳葉敏郎)から絹江のことを知らされた。しかし藍沢は、治療が終わっているのなら搬送されてくる患者の処置を終えてから絹江のところに行く、と答える。

 ドクターヘリで現場に向かい、患者を搬送してきたのは、緋山(戸田恵梨香)森本(勝村政信)だった。患者の名前は小田浩一(大高洋夫)。家の2階屋根を修理している最中に転落したらしい。黒田たちは、ヘリが着陸した直後にショック状態に陥った小田を初療室に運んで処置する。

 藤川(浅利陽介)は、微熱と腹痛を訴えて救急外来にやってきた上村(北見敏之)という中年男を診察していた。そこに冴島(比嘉愛未)がやってきて、藤川を外へと呼び出す。上村に付き添ってきた高校生の息子・久志(熊谷知博)が藤川に話があるのだという。久志は、廊下に出てきた藤川に、動揺したようすで奇妙なことを話し始める。何と彼は、呪いの人形を使って父親に呪いをかけたというのだ。

 小田の処置を終えた森本と緋山は、あることに気づく。小田は、2階屋根から転落したにも関わらず、手足にケガを負っていなかった。森本たちは、脳梗塞などで落ちる直前にすでに意識がなかった可能性も考慮してCT検査を行うことにする。するとそこに、小田の娘・有美(伊藤麻里也)がやってくる。だが、有美は放心したようすで、自分は悪くない、などとつぶやいていた。
ほどなく、緋山と森本は、小田が屋根から落ちた原因を知る。小田が、やってきた有美と激しく口論を始めたからだった。実は小田は、突然結婚したいと言い出し、すでに式場まで予約していた有美と口論になったらしい。が、話を一方的に打ち切って屋根の修理を始めたところ、カッとなった有美に突き落とされたのだった。

 藤川は、白石や緋山を相手に、藍沢の噂話をしていた。藤川によれば、藍沢は幼いときに両親が離婚し、彼を引き取った母親も他界したために、ずっと絹江に育てられたのだという。

 藍沢が絹江のもとを訪ねると、そこに藤川と緋山がやってくる。白石も、藤川たちに半ば強引につき合わされていた。藤川たちは、絹江に藍沢の同僚だとあいさつした。仕方なく、絹江に藤川たちを紹介しようとする藍沢。ところが絹江は、何故か藍沢にも「初めまして」とあいさつする。
  絹江を診察した西条(杉本哲太)は、ケガのショックによる一時的な健忘症か認知症だと判断する。藍沢も同じ意見だった。藍沢は、その事実を冷静に受け止め、しばらく絹江の様子を見ることにする。

 そのころ三井(りょう)は、田所(児玉清)春日部(田窪一世)とともに会議室にいた。弁護士の相馬(隈部洋平)を相手に、裁判の本人尋問に備えて、主張すべき点を確認していたのだ。相馬は、想定される質問に反論しない三井に対して、正しいことをしたのだからキチンと反論しなければダメだ、とアドバイスする。

 藤川は、冴島とともに、久志から事情を聞いていた。久志は、勉強しろと口うるさい父親に対して不満が募り、黒魔術を使ったのだという。ネットで黒魔術のやり方を調べたという久志によれば、上村は意味不明な行動を取った挙句、1週間後に狂い死ぬのだという。
  上村の病気が何であるのかわからない藤川は、黒魔術をかけたという久志の証言を完全に否定することもできず、冴島を呆れさせる。するとそこに、上村が奇妙な行動を取り始めたという知らせが入る。上村が、植木鉢の土を美味そうに食べ始めたのだ。

 そんな中、ドクターヘリの出動要請が入る。ヘリ担当は三井と藍沢だった。するとそこに、絹江が急に苦しみだしたという知らせがあった。白石とともに絹江の元に向う藍沢。絹江は、小銭を誤嚥した可能性があった。藍沢は、絹江のことを白石に任せると、ヘリポートへと急いだ。

 藍沢たちは、現場での処置を終え、患者を近くの病院まで搬送した。その帰り、藍沢は、パイロットの梶(寺島進)から、絹江のことを知らされる。絹江は100円玉を誤嚥していたが、白石がそれを取り出していまは安定しているという。

 白石は、西条の指示で、絹江の荷物を片付ける。絹江は、せん妄がひどくなっていた。白石は、戻ってきた藍沢にそれを報告すると、認知症を軽減するためには身近な人間が側にいて安心させてやることだと言おうとした。藍沢は、そんな白石の言葉を途中でさえぎると、何年も離れて暮らしていたのだから絹江にとっては身近ではない、と返す。

 森本と緋山は、小田のCT検査をする。そこで緋山は、小田がガンに侵されていることに気づく。緋山から告知を受けた小田は、有美を呼んで自分がガンであることを打ち明けると、結婚を許すと告げる。「思っている以上に難しいぞ、人と一緒に暮らすっていうのは。せめて半分くらいは相手の言うことを聞いてやれ。それと…母さんを頼むぞ」。小田は、突然の告白に激しく動揺する有美にそう話すと、緋山に向って、有美が式を挙げる12月に一緒にバージンロードを歩けるかどうか問いかけた。緋山は、小田の思いを受け止め、全力を尽くす、と答える。

 上村のカルテを見ていた冴島は、ふと何かを思い出し、資料室を訪れる。そこには白石がおり、老人病関係の本を読んでいた。そのとき白石は、手元にある本の著者が冴島という姓であることに気づいて、冴島に声をかけた。白石が何を言おうとしているか察した冴島は、問われる前に、父親が岳南大の医学部教授であること、兄姉ふたりも優秀な医者だが自分は医学部の受験に失敗したことなどを話す。

 藤川は、冴島の助言により、上村が髄膜炎であることを知る。上村は2週間ほど前に歯の治療を受けており、その際に入った細菌と仕事の疲れが重なって髄膜炎を起こした可能性が高かった。藤川は、久志にそれを伝えた。久志は、父親の病気が自分のせいではないことを知って安心する。藤川は、そんな久志に、父親が厳しく接するのはそれだけ心配しているからだ、と声をかけた。

 その夜、絹江が暴れだした。「私のお金を返せ!」と叫び、駆けつけた藍沢に、お前が盗ったんだろう、などと怒りをぶつける絹江。藍沢は、そんな絹江を押さえつけて鎮静剤を打つと、抑制帯を使って彼女の体を固定する。

 黒田は、上村が髄膜炎であることによく気づいたな、と藤川に声をかける。正直に冴島のことを話そうとする藤川を止めたのは、冴島自身だった。そこに藍沢がやってきた。黒田は、リハビリ病棟に移るまで絹江のことを見るよう藍沢に指示した。

 あくる日、絹江は、再び金を返せと言い始めて、藍沢を困らせる。必要なものがあれば買ってくる、と藍沢が言っても、絹江は、自分で行きたい、と譲らないのだ。藍沢は、そんな絹江を車椅子に乗せて、一緒に買い物に行く。
  田所と一緒にいた三井は、絹江を売店まで連れて行こうとしている藍沢の姿を見つける。藍沢が、絹江のことに動揺することもなく淡々と業務を遂行しているのに比べて、2年前の自分はそれができなかった、と自分を責める三井。あのとき自分が引き受けなければ、真壁朋子は死ぬこともなかったかもしれない、というのだ。

 絹江は、売店で手当たり次第に菓子をカゴに入れていた。藍沢は、そんなに食べられない、といって、絹江を止めようとした。絹江は、その手を払いのけると、菓子を胸に抱え込んで、「買わしておくれよ」と懇願した。白石や緋山たちは、藍沢たちのようすがおかしいことに気づき、ふたりを見つめていた。床には、絹江が落とした財布からこぼれ出た小銭や菓子が散乱していた。藍沢がそれを拾おうとすると、絹江は、こう言った。「約束したんだよ!耕作にお菓子を買ってやるって約束したんだよ!」。たったひとりで頑張っている孫に自分ができるのはこんなことしかない、と…。藍沢の目から涙が溢れた。藍沢は、なおも菓子を手に取ろうとしている絹江に抱きつき、嗚咽していた。 

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