Story #004

 藍沢(山下智久)は、指導医の黒田(柳葉敏郎)から退院係を命じられる。退院係は、快方に向っている患者から順に退院や転院をさせていく仕事だった。翔陽大学附属北部病院の救命救急センターは現在3床しか空きがなく、新たな患者を受け入れるためには早急にベッドを開ける必要があった。黒田は、患者との会話を勉強するいい機会だ、と言うと、少しでも多くのベッドを空けるよう藍沢に指示した。

 白石(新垣結衣)は、極度の貧血とめまいを訴えてやってきた宮本茂(井田國彦)という男を診察する。だが、聴診器を当てるために宮本の腹部を見た白石は愕然となった。彼の腹部には、何ヵ所も手術跡が残っていたのだ。次の瞬間、突然激しく吐血し倒れる宮本。白石は、宮本をベッドに寝かせると輸血の準備を急いだ。

 一方、緋山(戸田恵梨香)は、黒田に嫌われてしまったのではないか、と悩んでいた。藤川(浅利陽介)は、そんな緋山に、黒田から呼ばれたことを話す。ついにフライトドクターだ、と大はしゃぎする藤川の姿に、緋山はショックを隠せなかった。

 そんな折、散歩中に胸の痛みを訴えて動けなくなった老人が救急車で運びこまれる。藤川は、ドクターヘリに乗る前の腕ならしだと張り切り、黒田、冴島(比嘉愛未)とともにその老人の治療に当たった。黒田は、心停止状態の患者に除細動を施した。その際、患者の手がベッドから落ちた。反射的にその手をつかんでしまった藤川は、通電し、意識を失ってその場に崩れ落ちてしまう。

 そこに、ドクターヘリの出動要請が入った。男性が、川に飛び込んだ際に川底で頭を打ち、意識不明の状態だという。黒田は、緋山に現場に向かうよう命じた。

 三井(りょう)とともにドクターヘリで現場に急行した緋山は、患者を触診する。21歳の大学生だというその患者・飯田敏夫(金井勇太)は、友人たちと一緒に遊びにきていて水深1メートルほどの川に飛び込み、頭を強く打ったらしい。飯田は意識を取り戻していたが、脳挫傷の疑いもあるため、救命センターに搬送することになった。

 同じころ、藍沢は、ひとりの中年女性に声を掛けられ、その相手をしていた。それは、藤川の母・静子(山本道子)だった。息子のことを心配して、こっそりようすを見に来たのだという。するとそこに、藤川が心停止状態だという連絡が入る。
幸い藤川は、黒田らの処置で心拍が戻り、入院することになった。安堵した藍沢は、冴島に頼んで、今回の一件を静子に説明してもらった。静子は、息子のことを心配するが、説明をしてくれたのが冴島だと知ると、手を握って礼を言った。いつも仲良くしてくれている、と藤川から聞かされているのだという。藍沢は苦笑していた。

 病院に到着した飯田は、意識を失っていた。緋山は、黒田に命じられて、初療室に運び込まれた飯田にファイバー挿管を施す。駆けつけた脳外科の西条(杉本哲太)は、脳ヘルニアを起こしている飯田をその場で穿頭する。その後、飯田はオペ室に移されて、オペを受けた。だが、飯田はけい髄を損傷しており、四肢麻痺の後遺症が残ることが判明する。緋山は、飯田への告知を任せられるが、すぐにはそれを切り出すことができなかった。

 黒田は、宮本の内視鏡検査をする。しかし、吐血の原因はまったくわからなかった。

 エレベーターで藍沢と一緒になった黒田は、藤川のことをどう評価しているか尋ねた。藍沢は、別に何もない、としながらも、緋山は難しい気管挿管をやり藤川はできなかったということだと思う、と答える。外科医は才能と経験しかない、という藍沢の言葉に、黒田も「その通りだ」と頷いた。

 あくる日、宮本の血管造影検査が行われたが、異常は見つからなかった。白石は、彼が頭痛や虚脱感を訴えていることなどから、脳腫瘍ではないかと考える。しかし、MRI検査でもやはり異常は見つけられなかった。

 藍沢は、またもや静子に捕まっていた。息子のことが気になって仕方ないらしい。困惑していた藍沢は、聞きたいことがあるなら本人から直接聞くよう言い残して、その場を立ち去ろうとした。が、そのとき、ふいに静子が倒れてしまう。

 静子は、軽い熱中症を起こしていた。冴島は、藍沢が運んできた静子に点滴の処置をすると、「藤川先生は幸せですね。こんなにお母さんに愛されて…」と声をかけた。静子は、母親なら当たり前だと返すと、冴島に親のことを尋ねた。冴島は、両親とはずっと離れているがもう会わないかもしれない、と答え、出来の悪い子ども顔を見たくない親もいる、と続けた。すると静子は、そんな親はいない、と冴島の言葉をきっぱりと否定する。

 そんななか、宮本が今度はけいれんを起こす。低血糖ショックのようだった。宮本に、けいれんの既往歴はなかった。藍沢は、消化器ガンが脳に転移したのではないか、と推測した。一方、白石は、もう一度、胃や腸を精査すべきだと提案する。
そこに、ドクターヘリで出動していた三井と緋山が戻ってきた。緋山は、脳外科に戻ろうとしていた西条を呼び止め、オペによって少しは飯田の機能回復が見込めるのではないか、と問いかけた。西条は、そんな緋山に、医者にできることなどたかが知れている、と言い放った。世の中には、なす術もなく受け入れるしかないことがあるということを患者も医者も知るべきだ、というのだ。

 宮本は、藤川の隣のベッドに移された。そこで宮本は、白石にそうしたように、藤川にも身の上話をしていた。

 藤川のもとを訪れた黒田は、翔北を辞めて自分に合った新しい病院を探すよう命じた。ドクターヘリに乗ることはないのだから違う病院に行ったほうがいい、と告げる黒田。体調を取り戻し、藤川に会うべきかどうか迷いながら病室の前まで来ていた静子は、偶然その会話を聞いてしまい、ショックを受けていた。

 緋山は、飯田と彼の両親に、首から下の機能回復が見込めないことを告知する。飯田も両親も大きなショックを受けていた。

 静子は、藤川のPHSに電話した。が、電話に出た藤川は、静子に悪態をつき、2度とかけてくるな、などとわめき散らして電話を切ってしまう。

 藍沢は、うなだれたようすで座っている静子の姿に気づく。そんな藍沢に、藤川が生まれたときの話を始める静子。藤川は、生まれたときからぜん息があり、体も弱かったのだという。「医者でもなんでもいい。あの子が頑張っていたらそれでいいんです」。静子は、藍沢にそう話すと、両親のことを尋ねた。そこで藍沢は、幼いときに両親が離婚し、父親も、自分を引き取った母親もすでに他界していることを打ち明ける…。

 黒田は、白石とともに、宮本の検査について話し合っていた。そこにやってきた冴島は、病室のゴミ箱で見つけた化粧水入れのようなものを持ってくる。その中には血液が入っていたようだった。

 退院の準備をしていた藤川は、床に落としたドクターヘリに関する本を拾おうとした際に、ふと宮本のベッドの下を覗き込む。ベッドの裏側には、ビニール袋に入れられた薬瓶のようなものが貼り付けられていた。そこにやってきた黒田たちは、何も言わずに宮本のベッド周辺を探し出し、そのビニール袋を見つける。実は宮本は、自分に関心を引き寄せるために虚偽の話をしたり病気を装ったりするミュンヒハウゼン症候群だった。吐血も脳障害も低血糖ショックもすべて嘘だったのだ。宮本は、何もしらない、などと必死に弁明しようとした。そのとき、寝ている間に知らずに薬を飲んでしまうこともある、といって宮本に助け舟を出したのは藤川だった。

 復帰した藤川は、自分と宮本が寝ていた病室を訪れる。そこに、田所(児玉清)がやってきた。藤川は、迷惑をかけてしまったことを田所に謝った。すると田所は、宮本の件を持ち出し、藤川を褒めた。追いつめられるとエスカレートする場合もあるミュンヒハウゼン症候群の患者の心を、藤川のひと言が溶かしたというのだ。

 白石と緋山は、落ち込んでいた。そこにやってきた藤川は、黒田に引導を渡すのが自分の役目だ、などと強がってみせた。そのとき藤川は、ふたりが自分の郷里のお菓子を食べていることに気づく。藍沢は、そんな藤川をICUに連れて行く。2週間以上、抜管のめどが立たない患者の気管切開をさせるためだった。「お前ができないと、いつまでも俺がやらされるんだよ」。藍沢は、そう言って藤川にメスを持たせた。

 処置を終えた藍沢と藤川がナースステーションに戻ってくると、看護師長の大原(池田貴美子)や看護師の村田(金田美香)らが投書箱の中身を見て大笑いしていた。藤川宛てで、女子高生のラブレターが入っていたというのだ。「藤川先生はとてもいい先生だと思います。フライトドクターになればいいのになと思います」という達筆の手紙――それを見つめていた藤川の目からは、大粒の涙が溢れ…。

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