Special ドクターヘリの現在、そして未来
本格的に医療ドラマの監修をさせてもらったのは今回が初めてなんです。『救命病棟24時』の3作目のときに1回だけスタジオにお邪魔したことはあるんですけど、今回はそれこそ脚本を作っていく段階から医療に関する監修をさせてもらって、撮影が始まってからはお芝居の中での動きに関する指導もしていますので、かなり全体的に深く関わらせていただいているので、戸惑うことも多かったですね。
医療のシーンについては、嘘がないこと、それからもっと僕らが本当にやっているようにリアリティーの質を高くしたい、と個人的にはかなり意気込んで現場に入ったんです。最初からそういう部分はよく理解してもらって撮ってもらっているわけですが、やっていく中で、演出的にこうしたい、というリクエストもあるわけです。その中には、我々のリクエストとバッティングする部分もあるので、どこに落としどころを見つけていくか、ということが、実は撮影を進めていく上ではもの凄く大事だということが段々わかってくる。僕らは、いまでもそうなんですけど、「同業者にどう見えるか?」ということを凄く気にしているんです。一般の視聴者のみなさんにはわからないこともたくさんあるだろうと思うんですけど、我々は同業者が見たときに「あれは変だ!」と言われたくないんです。ですから、常にそれを意識して医療指導をやっていくんです。その一方で、演出する側やお芝居する側は、僕らの同業者が見ていることも大事にしつつも、それよりもはるかに多い一般の視聴者の方々を相手にしているわけですから、僕らが「こうすべきだ」「こうありたい」と思っていることと、演出家のみなさんが「こう見せたい」と思っていることには多少なりともギャップも出てくるわけです。その落としどころを見つける…いや、見つけるのが大変なのではなく、僕らがそういうことだと理解するのが大変だったのかもしれません。
それは僕も嬉しいです。我々の目的にはふたつあって、ひとつは医師としてのプロらしい動きをすること、もうひとつは、脚本の段階かもしれませんし、それ以前にプロデューサーさんとお話をさせてもらったときからかもしれませんけど、僕らの思いをどうお話の中に織り交ぜていくか、ということだと思うんです。いままでの医療ドラマの多くは患者さんが中心で、「患者さんがこうだから…」という視点がずっと続いてきたと思うんです。だから、我々医療側の事情だとか、医療側の思い…もっと言えば医療側の本音だとか、そういう部分はあまりテレビには出てこなかったと思うんです。でもこのドラマはそうじゃなくて、医療側の思いっていうものがもの凄く出ているんですよ。例えば、2話目に白石(新垣結衣)が、患者に向って「いい加減にしてよ。こっちだってひどい目に遭っているんだから」「治療を拒否してこれ以上、悩ませないでよ」って言ってしまったり、3話で冴島(比嘉愛未)がわがままな患者を怒鳴りつけたり、あるいは冴島と白石の間で、「仲良くやろうよ」「じゃあ、言わせてもらいますけど…」みたいなことがあったりとか、普段は思っててもあまり口に出さないようなことをスパッと言っている…言ってもらっているところもありますね。1話の最後で、藍沢(山下智久)が現場で手術をして「おもしろかった…」って言いましたよね。あんなことも公に言うことはないですよ。でも、僕らには、そういう思いもあるわけです。手術が好きだとか、手術が楽しいだとか、そういうことを思っている人もいるんです。でも、患者さんにしてみれば「ちょっと待ってくれよ!こっちが生きるか死ぬかのときに『おもしろい』とは何事だ!」となるので、いままではタブーになっていたんですけど、それをスパッと言ってもらえるというのは、僕らの思いを代弁してくれているので嬉しいですね。僕らが興味を持って仕事が出来ないと、患者さんにもよい結果をもたらすことができないとも思いますし…。

<後編へ続く>