松本 尚氏 プロフィール 日本医科大学救急医学教授。 日本医科大学千葉北総病院救命救急センター長 専門は外傷外科、救急医学。

2017.7.10 MON. UPDATE SPECIAL INTERVIEW #1 特別編 『コード・ブルー』医療監修 松本 尚氏

『コード・ブルー』3rdシーズン制作の話を知られた時は、
いかがでしたか?
そのうちやるんだろうな…とは僕も、一緒に医療監修をしている原(義明)先生も思っていました。続編を作るとしたら増本(淳)プロデューサーなら、前回と同じメンバーでやるだろうとも思いました、でも、山下(智久)さんたち5人を全員集められるのか?  なんて心配もしていました。それがクリア出来そうだという話になったので、“じゃあ我々もやります”となったんです。もちろん、そうではなくても、頼まれたら別の作品でも医療監修は引き受けますけど(笑)。だけど、モチベーションが違いますよね。やはり、ずっと携わってきた形での復活は嬉しいです。
松本先生は1stシーズンからずっと医療監修を続けられています。
はい。1stシーズンの次、すぐに2ndシーズンだったので、プロデューサーや監督といったスタッフの方々とすごく仲良くなりました。それは役者さんも同じで、浅利(陽介)くんとは年に数回、食事に行くんですよ。普通のドラマで頼まれる医療監修という立場を、超えちゃっているかもしれませんね(笑)。
医療監修の視点から、
1st、2ndシーズンと変わったことはありますか?
医療シーンについて作り手側が“こんなのどうですか?”と提示してきたものを、“あれはダメ”“それもダメ”と監修していくのは、すごく手間がかかるんです。1stの初めの頃は “これはないよね”とか“ありえない”というシーンもあったので、それを直していくのに時間がかかりました。そうして続けていくうちに、“こういう話を作りたいから、それに合う病気や怪我はありませんか?”という形になっていったんです。脚本制作の段階から関わるようになったことで効率はすごく良くなって、医療シーンがより現実に近いものになっていったと思います。
『コード・ブルー』医療監修へのこだわりは?
他の医療ドラマを見ていると、あり得ない医療シーンがたくさん出てくるんです。それは観ている方々が面白いと思えば良いのかもしれませんが、僕たち(医師やナース)の目線からだと“ダメじゃん”となってしまうんです。その点『コード・ブルー』という作品は、基本的にあり得ないことは描きません。制作陣が常にリアリティーを求めて来ますし、こちらも出来るだけリアルに近づけたい。だからこそ、脚本作りから関わることで他の医療ドラマとは一線を画していけるんだと思います。
では、松本先生が実際に体験されたことも
ドラマにフィードバックされているんですか?
もちろんです。その話のメインとなるような医療シーンは話し合いの中で作りこんだものも多くあります。ただ、もしそういう患者さんがいたら、僕たちはこういう治療をするだろうなと、考えていくので、そこに経験を活かしているのは間違いありません。例えば、現場で患者さんを手術するシーンなんかも、僕たちは実際に行っているものです。そのシチュエーションが、ドラマでは駅の転落事故や、爆発事故現場、山小屋などに変わっているだけなんです。病院内で起こる緊急手術もドラマに結構出てくるんですけど、それは普段の僕たちの行動をそのままコピーしていると思ってもらってかまいません。
リアリティーで、先生がこだわられた点は?
飛行機墜落、列車転覆、トンネル事故などが大ネタとして取り上げられましたけど、ドラマの上では主人公たちの活躍しか映りません。でも、ああいった現場には、実際には他の医療者たちもたくさんいるんです。ですので、主人公たちの前後を横切るだけでも良いから、たくさんの医師たちを出しておいて欲しいと頼みました。そうすることで、こういったシチュエーションでは同業者に“あのシーンすごいね”と言わせたいんです。医療者を唸らせる医療シーン作りを一番に考えているんです。
1st、2ndシーズンから7年が経過して、実際の救命救急、
ドクターヘリの現場で進歩したこと、変化したことはありますか?
医学的な話をすれば、もちろん救命救急センターのレベルも上がっていますし、ドクターヘリの機数も全国で当時の3倍になっていますので、当時とはまったく変わっています。一方で、社会的な問題もまだたくさんあります。例えば、ドクターヘリのパイロット不足があります。ドクターヘリの業務には経験のあるパイロットが配置されなければなりません。そのための厳しいレギュレーションをクリア出来るパイロットが減ってしまっているんです。空撮や農薬散布も、ドローンや無人ヘリなどに取って代わられていますから、若いパイロットが経験を積む環境が少なくなってしまいました。だからと言って、安易にドクターヘリを操縦するためのレギュレーションを下げるわけにもいきません。この議論はすでにヘリコプター業界の方たちも行っていますが、私たちにとっても深刻な問題です。このままだと、数年後にはパイロットがいないのでドクターヘリを飛ばせないという地域も出てくるかもしれません。せっかく機数が増えて、国民の皆さんのドクターヘリに関する認知も高まったのに、飛ばせないでは困ります。
2ndシーズン放送の翌年、東日本大震災が発生しました。
あの時は、うちのチームのスタッフが12日にヘリで福島に入りました。福島県立医大と花巻空港2カ所に全国からドクターヘリが集まりました。僕たちは福島に集まったドクターヘリをコントロールして、病院に取り残された患者さんの避難を行ったんです。おそらく、ドクターヘリがあれだけ集結して活動にあたった災害例は、世界でも初めてだったのではないかと思います。
阪神淡路大震災の時に出来なかったことが、東日本大震災ではドクターヘリによって出来ました。そして、東日本大震災の経験で、災害時にはドクターヘリが不可欠だということを僕自身もハッキリと理解することが出来ました。その後、災害時のドクターヘリの集まり方のルールや活動方法も決められ、それは昨年の熊本地震でも活かされました。今では、日本中のどこで同じような大災害が発生しても、たくさんのドクターヘリが即座に集まれますし、コントロールが出来る体制が整えられています。これは外国には絶対に真似出来ない素晴らしいシステムだと思っています。災害時はもちろんですが、ドクターヘリは今では医療現場になくてはならない存在になっています。

1stシーズンインタビュー

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