ドクターヘリのパイロットとは? リアル、パイロットにお話をうかがいました!小泉慎一郎氏 プロフィール 朝日航洋株式会社 東日本航空支社 運航部 乗員第2グループ グループリーダー(機長)

2017.8.28 MON. UPDATE SPECIAL INTERVIEW #3 特別編 小泉慎一郎氏(ドクターヘリ パイロット)

ヘリコプターのパイロットを目指すきっかけは?
大学で海洋学部だった私は4年の時に船に乗っていまして、長期遠洋航海に出ました。その時の給油地の沖縄でアメリカ軍のパイロットを見たんです。その時に、彼らの格好良いヘルメット姿を見て、旅客機ではなく戦闘機かヘリコプターのパイロットになろうと思いました。すでに就職は決まっていたんですけど、そちらを断って航空大学校を受験したんです。航空大学校入学時には、ヘルメットをかぶることが出来るヘリコプターのパイロットを目指していました。
現在の会社へは?
2年半の航空大学校を卒業して(現在はヘリコプター操縦士の課程はありません)、平成8年に入社しました。以来、ずっと勤務しています。
すぐにドクターヘリに乗務しようと思われたのですか?
そういうわけではありません。そもそも、ドクターヘリのパイロットには新人がすぐに乗務出来るわけではないのです。ヘリコプターでの飛行時間と仕事の経験をある程度こなしてからでないと、ドクターヘリには乗務出来ないルールになっています。とは言え、“ドクターヘリパイロット”という公式のライセンスはありません。経験を積んだパイロットが、社内の審査を経て乗務出来るようになるのです。ですので、自分からなりたいというよりも…もちろん、社内で意思表示することは出来ますが、会社側が、その人の経験・実績から判断し、乗務してくださいという打診をしてくるのです。私は、現在弊社がドクターヘリとして使用しているMD900というヘリコプターの操縦ライセンスを持っていました。弊社ではMD900に加え、BK117という機体もドクターヘリとして使用しています。そのどちらかのライセンスが必要になるのです。MD900は『コード・ブルー』で使用されているヘリコプターです。
そうして、ドクターヘリのパイロットになられて
意識されることはありますか?
私はそれまでの仕事と大きくスタンスは変わってはいません。どんな仕事でも私の目的は、安全に出発地を離陸して、安全かつ予定通りに目的地に着陸することです。その過程で乗客…ドクターヘリであれば、医療クルーに働きやすい環境をいかに提供するか?  そういう意味では、ドクターヘリも報道も物資輸送も全部同じという考え方をしています。ただ、もしドクターヘリが他と違うとすれば、仕事が直接誰かの命に関わっているということです。その一点だけ、思いは変わりました。
ドクターヘリでのパイロットと医療者の関係は?
機内でコミュニケーションは取ります。例えば重複要請が入った時に、地上とのランデブーポイントが2つ設定されたら、どの順番で向かうか?  を、決めるのはドクターなんです。そういったやりとりはとても大切で、機内ではいつも話しています。ただし、ランデブーポイントを2つこなしたら燃料が持たない…というような運航に関する私のデシジョン(判断)に対してドクターが反対したりするようなことはありません。逆に私がドクターの治療に関して、こうした方が良いのでは?  などと口を挟むこともあり得ません。プロフェッショナルとしてのお互いの領域には踏み込まないんです。
ですが、患者によっては医師も急いでもらいたいと思うのでは?
気持ちというか、医師からの熱を感じることはあります。患者の重症度が感じられるほどの熱量ですね。だからと言って、“急いでくれ!”と言うドクターはいませんし、私は背中に感じる熱量をいい意味で“無視”します。そこに感情を入れてしまったら、例えば、急いだばかりに目的地に安全に到着出来ないという事態になりかねません。
ドクターヘリの勤務体系はどのようになっているのですか?
(小泉氏は日本医科大学千葉北総病院、君津中央病院を担当)
パイロットと整備士、CS(コミュニケーションスペシャリスト)が1人ずつ、基本的に3人が常勤しています。ドクターヘリは日本では夜間運航がありませんので、朝7時半ごろに勤務について夜6時ごろまでの待機となります。
待機中のみなさんの様子は?
ドラマではドクターやナースがCS室で
雑談をしたりするシーンもありますが…。
あります(笑)。ただ、ドクターもパイロットもいろいろな職域がありますし、待機中も勤務時間ではあるのですが…。私は管理職なので待機中は業務連絡を作成したりデスクワークをしています。担当業務を実施する傍ら息抜きをする方法をそれぞれ持っています。読書をしたり、筋トレしている人もいます。状況によってはドクターと話をしたりしています。ですけど、私たちは待機ですが、ドクターは救急外来で常に気を抜けない仕事をしています。だから、気を抜きたい時にスタンバイルームに立ち寄ることがあってもいいんじゃないでしょうか。私が料理を振る舞うこともありますよ。
ドクターヘリのパイロットをしていて大変だったことは?
これは大変と言うより、ドクターヘリが特化しているのは離陸する直前まで、どこに着陸するかがわかっていないことなんです。旅客機も弊社が行っている他のヘリコプターの仕事も、事前の運航計画、目的地の方位、飛行高度、途中に飛行場など注意すべき空域があるか?  はしっかりとわかっているんです。ドクターヘリは、もちろんざっくりとした〇〇町とかは知らされますけど、着陸ポイントに何があるか?  どんな状況なのか?  はわかりません。勝負は着陸ポイントの消防の段取りなんですが、あくまで着陸は機長判断となるので、そこが大きく違います。そういった状況下で、想定と実際が異なった事例としては、着陸地点に行ってみたら運動会の練習をしていてテントがたくさんあったことです。テントはヘリコプターの風圧で飛んでしまいますからね。消防もドクターヘリ要請の経験が浅いところでは、そういうこともあり得るんです。この時は、テントがすべて撤去されるまで上空で待機していました。
最近、ドクターヘリのパイロットが減少しているようですが…。
運航に関するシビアさは先にお話ししましたが、パイロットの減少も大きな問題です。その要因は、ドクターヘリに乗務するためには、まずプロのヘリコプターのパイロットにならなければいけません。そこを目指す方が減少していることから始まっています。パイロットのライセンスを取得するためには莫大な費用がかかってしまうんです。ですから敬遠されてしまう、ということがあると思います。ドクターヘリや防災ヘリのパイロットを目指す方には、しかるべき補助が必要かと思います。今なら、ドクターヘリのパイロットになるのに一番のお薦めは民間の運航会社に入ることです。ただし、ライセンスを取得するのに1000万円以上かかるところがネックですね。昔は私のように航空大学校がありましたが…。そこで、例えば私どもの朝日航洋では訓練費用のうち1000万円を貸し付け、条件次第で返還無用となる制度を作り後進の育成に力を入れています。費用負担がかかる、とお困りの方には大変お薦めな制度ですよ。とにかくパイロットの裾野を広げて、プロのパイロットの質を上げていかなくてはなりません。
では、プロのヘリコプターパイロットになるための資質は?
もちろん、プロのパイロットにもいろいろなタイプの人はいますが、共通するのはインスピレーションと情熱だと思います。インスピレーションとは、危険に対する嗅覚です。これは先天的に持ち合わせているものではなくて、ヘリコプターのパイロットを目指した時点から培われていくと思います。
常に冷静であることも大切ですね?
はい。私がこの仕事をしていて、唯一感情的になったのは東日本大震災の時です。発生翌日に現地に飛んで、自衛隊や消防の指示系統も確立していない時に自分たちの判断でドクターとともに人命救助を行いました。あの時はフライトに関する冷静さは失いませんが、感情的には熱くなってしまいました。そして、帰って来た時に、気持ちの整理のつけどころがない感じも経験しました。ある意味、自分も被災してしまったかのような感覚…。ですが、そういう経験があるから、今の私があるとも思っています。
それでは、ドクターヘリのパイロットで良かったと思うことは?
人命に直面する医療クルーが肩に乗せている重みは、私たちの重みとは違うものがあると思います。ドクターは患者はもちろん、その家族、消防、もしかしたら私たちパイロットの重みを感じられているかもしれません。私がそんなドクターたちを見ていて、いつも素敵だと思うのはスタンバイ(待機)を終えた後にヘリコプターに搭載していた医療機材を回収しに来た時です。ドクターやナースが今日の話をしながら、ふと微笑んだり…肩の荷を降ろす瞬間ですね。この瞬間は、本当に彼らに“良くやった!”と心の中で感謝しています。その後ろ姿も格好良いですよ。あの感じは好きですね。
『コード・ブルー』をご覧になっていてリアルさを感じる部分は?
私たちは治療を見ることはないのですが、ストレッチャーでヘリコプターから患者を運ぶシーンなどはリアルですよ。3rdの2話で、重複要請が入って移動しながら救急車とのランデブーポイントを変えて…というシーンがありました。ああいったことは実際にもやるんですよ。数分を削るため、いかにして搬送する病院に近づくか?  ドクター、ナースが患者の治療を最優先に行うためにランデブーポイントを変えるんです。あの緊張したスピード感を見事に西浦監督が表現されていたのも、すごいなと感動しました。

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