遠隔地の学校教育 〜ラオス〜
ユニセフラオス事務所 副代表 Dr. アン・ディクストラ
 ユニセフのスタッフとしてラオスに赴任してからまだ数週間しか経っていないころ、私は2つの地域への現地調査に参加しました。国の東側、ベトナムとの国境に接するホアパン県と、南側、中国との国境を接するルアンナムタ県です。

 都市部から遠く離れた農村地域での暮らしには、生き生きとした印象がありました。まだラオス語がよく分からなかったせいで、視覚的なイメージの方が強く印象に残ったのかもしれません。道端に佇む女性たち、子どもたち…。お母さんたちはおんぶひもで小さな子どもを背負っていたり、あるいは、薪や水、食糧などの重い荷を運んでいました。

 山腹に村々が点在する様は荘厳な風景でもありましたが、その分、子どもたちには遊び場が少なく、家族が自給のための作物を栽培する場所さえ限りがあるようでした。
 村の集会では子どもたちも大切な参加者で、親や、大人たちの膝に心地よさそうに抱っこされていました。幼稚園や小学校の教室には教材があまりなく、子どもたちであふれかえっていました。女性や子どもたちは、手動式の脱穀機を使って米を叩いていました。そんな光景は挙げれば切りがないほどです。

 私たちは、村の集会に参加した人たちから、いろいろな話を聞きました。親たちは、子どもの病気のこと─どの子がまだ生きていて、どの子がもう亡くなってしまったか─を引き合いに出して自分の子どもの話をするのです(ほとんどの家庭で、一人以上、防げたかもしれない病気で子どもを亡くしているのです…)。あるいは、村を出て、町の縫製工場で働いている子どものことを話す親もいました。親たち、大人たち、村長、村のボランティアたちは、子どもの保健、栄養、教育を向上させたいという話もよくしていました。
 FNS28社によるご支援は、村人たちの努力を支えるという重要な役割を担ってきました。育児方法については、“プラスの変化”をもたらすきっかけを作ること、また、その変化を、伝統的な育児方法の中に存在してきた強みの部分と一体化させることに多いに役立ちました。ホアパン県シャムヌエア郡で6年前から進められている幼児開発(ECD)とよばれるプロジェクトでは、それが特に顕著です。今では他の6県にも拡大されましたし、このECDプロジェクトに対する村人の反応はとても心強いものでした。例えば、免疫のある初乳を以前のように捨てず、きちんと飲ませるお母さんが増えましたし、適切な離乳食を子どもたちに与える親も増えました。その結果、子どもたちの健康状態は良くなってきましたし、幼いうちに亡くなる子どもは減りました。それに、子どもたちの発育状態のチェックに欠かせない体重・身長測定も、頻繁にそして継続的に行なわれるようになりましたし、衛生的なトイレもたくさん作られました。お父さん、お母さんが畑仕事をしている間、放って置かれる子どもは減り、おじいちゃん、おばあちゃんか、近所の人に面倒をみてもらえるようになりました。学校に通う子も増えました。このような結果を踏まえて、ECDや育児に関する情報をもっと欲しいと思う大人たちが増えてきたのでした。
 FNS28社のご支援をいただいている間、ラオスでは、一定の地域内の学校を“クラスター(地域の学校ネットワーク)”にし、その中の学校間で子どもたちの学習を相互支援するシステムを導入するようになりました。ひとつのクラスターは、1年生から5年生までの全学年校と1年生から3年生までの学校数校から成り立っていて、全学年校の一つをコア・スクール(中心となる学校)としています。この方法の利点は、まず、学校同士で学用品や教育資材の共有ができることです。また、先生や親たちが、地域の中で集まることです。通常、多くの学校では、先生が使える教材が少なく、勉強を教えるのに必要な手助けもありません。大抵、教室は子どもたちで過密状態で、勉強をしようにもノートを取るための文房具や、教本・読本が不足しているのです。

 この2年間というもの、ユニセフとラオス教育省(MOE)は、学校間の教材・資材の共有、助け合いができることを願って、このクラスタースクール制度を発展させる努力をしてきました。しかし、クラスター制度は、まだ、初等学校全体のおよそ15%にしか適用されていません。
 ルアンナムタ県には47の小数民族が、山岳地帯の孤立した5つの地域に暮らしています。子どもを学校に通わせるため、親たちがどれだけ経済的な犠牲を払っているのか、数知れない話を聞きました。先生たちは、自分の地元コミュニティを遠く離れて教えることの辛さ、それを乗り越えるための努力をどれだけしているか、よく話してくれました。こうした話に、この土地を調査に訪れた私たちは皆勇気づけられたものでした。

 ユニセフは、支援者の皆様からお預かりした資金で、各コア・スクールに教材センターを建設しており、それが地域参加、教育普及の拠点となっています。村長たちは互いに協力して、教材センターの建設作業を行い、また、校舎や教室などの修理も行いました。先生や親が教材を製作します。親は先生に食と住を提供し、先生はカリキュラムに必要な教材を開発できるよう、週に1回、会合を開きます。子どもたちの学習が順調かどうかフォローするために、テストも行います。クラスターでは、スポーツ大会、芸術・文化デー、歌と民族舞踊の交流会など、様々な活動、コンテストを行っています。クラスターで共同参加によって得られる成果が、問題を解決し、ひいては子どもたちの学習、教育の改善につながるのです。
 しかし、クラスター制度に属さず、孤立した小さな学校もあります。このような学校の先生は、大抵、十分な訓練を受けておらず、努力をしていてもなかなか良い成果が出ません。ある先生などは、屋根だけの小さな建物で1年生から3年生までの合同クラスを一人で受け持っていました。クラスには、5歳から18歳までの45人の児童がいました。先生は、子どもたちと仲良くなって学習の手助けをしたい一心で、子どもたちの使う地元の言葉を懸命に覚えたという人でした。1年生には算数の教科書が1冊しかなく、教室にある他の本は、親たちが持ち込んだものです。この若い先生は、わずか2ヵ月の訓練を受けただけですが、チャンスがあれば、もっと訓練を受けたいと望んでいました。この先生の学校のように孤立した僻地の小さな学校と、クラスターに属する学校とでは著しい格差があります。ラオスの遠隔地域の子どもたちが教育を受けられるよう、より一層の支援が求められているのです。

 幼児開発や基礎教育の分野では、ユニセフの支援に対して、家庭、村、学校などから良い反応がたくさんあります。皆様のご支援があればこそ、ユニセフはラオスの子どもと家族の暮らしを改善する努力を続けて行けるのです。

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