主要援助国ネパールからの報告
ユニセフネパール事務所 ジョアンナ・エリクソン
 ティカ・クマリ・カルキは、東ネパールのヒマラヤの麓にある、ケラパリという村に住んでいます。竹、土、藁でできた、質素で小さな家の床に座り、生まれて7ヶ月になる女の子を抱っこしています。この子はティカにとって、初めての子どもではありません。ティカはまだ25歳ですが、すでに4人の子どもを産んでいます。他の子どもたちは皆、1歳のお誕生日を迎える前に死んでしまいました。ティカは、愛する子どもたちの命を奪ったものが何なのか、よく分かりませんでした。確かではないけれど、慢性的な下痢のために、丈夫でいることができなかったためでしょう。

 数ヶ月前、ティカと夫は、ユニセフの助けを借りて、田んぼの側に簡素なトイレを設置しました。ティカは、衛生に関する自分の新しい知識や、トイレをきちんと使う習慣が、家族の健康状態の改善に役立ち、特に娘のためになるのだと期待しています。
 ティカ・クマリのようなお話は、ネパールの遠隔地域では、幾度となく繰り返されてきました。このような地域では、肺炎や下痢、栄養不良が子どもの主な死因となっているのです。世界でも死亡率が最も高い地域の一つで、10%の子どもが5歳になるまでに死亡しています。ユニセフは、保健や衛生に対する認識を高めることによって、また、衛生設備や清潔な水へのアクセスを増やすことによって、この不運な現実を変えて行こうとしています。数年前、ユニセフの支援によって、山の小川から村へと水を引きこんだ重力流式水道が設置され、清潔な飲料水ヘのアクセスが著しく改善されました。以前は、水を得るために、女の子や女性が遠くの水場まで汲みに行かなければならなかったのですが、今では村内にある水道へ行けば済むようになりました。そのために、時間と労力にゆとりができ、女の子には教育を受けるための、女性には幼い子どもを世話するための貴重な時間が増えました。
 3ヶ月前、日本の皆様からの温かいご支援のおかげで、ティカ・クマリの近所に住む13歳のギタ・ブッダトーキは、何百人という学校の子どもたちといっしょに、「ミーナ」というユニセフが制作したアニメを観ることができました。地元のNGOの人たちが、発電機と、テレビやビデオデッキを村まで運んでくれました。ネパールでは、ミーナは元気で明るく、かわいい南アジアのヒロインとしてよく知られていて、皆に保健や衛生、栄養などについての知識や意識を広めてくれています。ギタは、「病気を予防したり、臭いを減らしたり、環境を清潔に保つために、野原や川辺の土手ではなくトイレを使うことがどんなに大切か、ミーナが教えてくれたと言います。それだけでなく、「ミーナ」を観てから、トイレを使った後や食事の前に手を洗うよう、弟に教えられるようになったと言います。
 ケラバリのような地域では、ユニセフは、女性たちが話し合いや活動の場としてグループを組織することをすすめています。子どもの栄養不良の原因やその対処法についてグループでの話し合いが行なわれます。保護者には定期的な体重測定の集まりで子どもの成長記録を付けることを奨めています。このプログラムは、保健や栄養の問題について対処できるばかりでなく、女性のエンパワーメントを育むためにも効果的であると証明されています。ネパールでは、女性は”セカンドクラスの市民“とみなされており、自分の意見を言ったり、自分の要求を主張したりすることは好ましくないとされています。女性たちは皆で集まり、知識を高めてゆくことで、行動を起こそうという自信を持つようになります。話し合いは、訓練を受けた村出身のファシリテーター(まとめ役)によって進められるので、女性たちはアドバイスを受け入れ易くなります。ユニセフにとって、地元の団体と協力することは重要です。地元の団体は、その地域の伝統や文化に明るく、同じ言語を話し、地元の人々と顔見知りの場合が多いからです。
 ギタは弟に手を洗うことの大切さを教えられますし、幸いにも学校に通っています。しかしながら、今でも、ネパールの女の子の40%、男の子の20%が就学していません。

 両親が制服や教科書の代金、学費を払えないため、多くの子どもたちが、一度就学しても初等教育を修了できないまま途中で退学したり、留年しています。学校に通うかわりに、カーペット工場やレンガ工場で、あるいは、他人の家の使用人として、劣悪な、そして時には非人道的とさえいえる条件の下で長時間にわたって労働している子どももいます。ストリートチルドレンとして路上で寝起きし、働いている子どももいます。

 日本の皆様の温かいご支援のおかげで、ユニセフはこのような子どもたちのために「学校外教育」の授業を行うことができます。「学校外教育」の授業は、1日2時間の授業を10ヶ月間、2回行い、子どもたちはそこで読み書きと簡単な算数を学びます。さらに、保健や栄養、衛生についても習います。この「学校外教育」の授業を修了すると、通常の小学校の3年生に編入することもできます。
 ネパールは貧困や資源の不足、山間の遠隔地域に暮らす人々の問題、インフラの不足などに苦しんでいます。人々の暮らしを改善するための努力には、高い人口増加率、急激な都市化、環境問題などが障害となっています。

 人口の半分以上が18歳以下の子どもであるという現状からすれば、子どもの置かれている状況を改善することは、大きな挑戦であると言えるでしょう。

 しかしながら、ユニセフは、これまでの経験に基づき、改善は不可能ではなく、好機はあると見ています。コミュニティに基づいたイニシアチブのおかげで、ギタのような女の子が衛生に対する知識を高めたり、ティカとその家族のように、トイレを設置して小さな娘がすくすく育つという希望を持てるようになりました。何千人という子どもたちが、「学校外教育」の授業で読み書きや算数を習いました。日本の皆様からの寛大なご支援がなければ、このような、期待の持てる結果を得ることはできませんでした。私どもは、今後とも皆様から温かいご支援をいただけますよう、また、それによってより多くの子どもたちが、生存する権利や守られる権利の保証される人生を享受できますよう、心から願っています。

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