ユニセフ、シエラレオネ事務所からの報告
 
ユニセフシエラレオネ事務所 子どもの保護担当官 鈴木惠理
2009年度のチャリティーキャンペーンのご支援を、当事務所での「子どもの保護」の活動のために使わせていただくことになりました。これを機会に、「子どもの保護」というあまり日本では耳慣れない活動が、子どもたちの福祉にどのような役割を果たしているのかを、昨年番組で放映された子どもたちのケースを例に、当事務所が頂いた資金を使って今後行っていく活動を出来るだけわかりやすくご説明したいと思います。
ユニセフというと、ワクチン接種や蚊帳の配布、そして学校教育等が頭に浮かぶと思います。これらは、それぞれ「保健」、「公衆衛生」、「教育」と呼ばれる重要な分野です。「子ども保護(プロテクション)」という言葉は、日本ではあまりなじみのないものですが、ユニセフを初め国連、子どもたちのための活動を行うNGO、そして多くの国のドナーが力を入れている分野です。日本でも、もちろん様々な形で「子どもの保護」に関する、法律、政策、役所機関が存在します。
どうして、「子どもの保護」は重要なのでしょうか。「子どもの保護」は、「子どもを暴力、虐待、搾取からの保護」という定義され、その活動は多岐に及びます。



photo ケネマ県の中心地からガタガタの道を揺られること約40分のトンゴと呼ばれる町に、ランサナくんとその家族は住んでいます。番組の取材があった2009年の6月、みなさんがテレビでご覧になったように、彼は、中学校1年生の時に家庭の経済状況が許さず学校に通い続けることが出来なくなり、鉱山で働くことを余儀なくされました。その労働環境は大変悪く、大人にまじって炎天下、シャベルでダイヤモンドの原石を含む砂をすくいあげたり、水の中に入って大きなふるいで砂を洗う姿は番組でも放映され、みなさんの記憶にも残っていることと思います。また、賃金も不当に安く、搾取的取り扱いを受けていました。
ランサナくんを再度訪ねた2010年6月、彼は地元のある団体から支援を受けて中学校に再び通うことができるようになっていました。ランサナくんの面倒を見ているおばさんも、同じ団体からの支援で、石鹸を作る技術を身につけ、材料を貸し受けて収入を得ることが出来るようになっていました。ランサナくんは、その石鹸を、学校から帰ってから午後に街にでて売り、家計を助けています。
学費や学用品をもらっても、食べることが出来なくては学校に行けません。シエラレオネの2005年の統計(Multiple Indicators Cluster Survey (MICS) 2005 Sierra Leone, UNICEF)では、働く子どものうち60%以上が学校に通っているという数字が出ています。子どもたちは、家計を助け、学校に行くため収入も得ているのです。つまり、単に子どもが働くことを禁ずるだけでは、子どもから就学のチャンスを奪う結果になる可能性があります。人口の70%が貧困にあえぐシエラレオネでもっとも重要なのは、危険や搾取を伴ったりする方たちでの労働を規制し、年齢に適していて学業の妨げにならない軽労働に子どもたちが安全につけるようにすることなのです。

[ユニセフの活動内容1 県議会との連携強化]
ユニセフは、県議会の子どもの保護の機能の強化に取り組みます。シエラレオネでは、地方分権化が進んでいます。具体的には、ローカルカウンシル(県議会を中心にした県の行政組織)の職員の能力強化と、県ごとの子どもの保護に関する計画作りを支援します。どの分野が優先されるかは、それぞれの県の状況によりますが、上記にあげた子どもの労働に関する取り締まりもローカルカウンシルにその役割が期待されます。
photo ランサナくんは、昨年の9月から中学校に再び行けるようになりました。彼は、重労働から開放されて、疲労困憊することがなくなり、学校の友だちと遊んだり、勉強したりする時間がとれるようになったことが、何よりも嬉しいそうです。愛情をもってずっとランサナくんを支えてきたおばさんも、彼がずっと明るくなったと隣で嬉しそうに話してくれました。去年初めて、鉱山で会ったとき、彼は、副大統領になりたいと言っていましたが、今は科学が得意なので将来は医者になりたいとのことです。先学期の成績はクラスで2番だったそうです。
私は、ランサナくんに、この村で、何が一番の大きな子どもたちの問題だと思うかを聞きました。彼は、貧困と共に、毎日石鹸を売りに出る歩いてほんの10分ほどの街中で目にする“体を売る少女たち”のことを挙げました。誰がその少女たちを買うのかとたずねると、「バイクタクシーの運転手や奥さんのいない男性たちが“自分の欲を満たすため”に買う」と彼は答えました。シエラレオネでは、女子に対する性暴力そして性的搾取は非常に蔓延した深刻な問題です。

[ユニセフの活動内容2 パラマウントチーフとの連携強化]
シエラレオネは、政府と伝統的な首長制度と、二つの統治システムが並立しています。パラマウントチーフと呼ばれる伝統的な首長は現在も尊敬を受け、慣習法やコミュニティ法(“XXをしたら罰金はYY”といった非常にシンプルな村の決まりごと)の最高権威として人々を治めています。ユニセフは、政府の省庁とはもちろんのこと、このチーフ制度を子どもたちを守るための戦略的に重要と位置づけており、パラマウントチーフたちと一緒に子どもたちを保護するために仕組みを強化していきます。今年度に具体化した一つの活動に、子どもに対する虐待(性的虐待を含む)のケースに関して、パラマウントチーフと警察の協力体制を強化する旨を記した覚書の作成をユニセフは支援しました。今後も、この覚書の履行とモニタリング、および前述の子どもの保護に関するコミュニティ法を作るための支援を行います。
紛争後、家庭という社会の最も重要な基盤が機能不全をおこしているシエラレオネには、親からの十分なケアを受けることができずに暮らす子どもたちが多くいます。貧困もその大きな要因の一つです。2005年の統計では、26%の子どもが、両親の少なくとも片方が生きていても、親と暮らしていないという数字が出ています。例えば、番組に登場した少女マリアトゥは、両親が戦争中に亡くなり祖母と暮らしていましたが、学校にも行けず満足な食事も出来ず、ポリオの麻痺が残る足を引きずりながら100キロ以上の距離を一人で移動し、首都フリータウンのストリートで食べ物を売る小さな屋台の洗い物をしたりしながら2年間暮らし、その後NGOの助けを得て親戚に引き取られることになりました。このように、実の親からの保護を受けられい子どもたちは、虐待や搾取、そして不十分なケアを受ける割合が高いということもわかっています。ランサナくんの場合も、お父さんが戦争でなくなり、お母さんは、県内の大きな街に全く経済力がないため親戚を頼って暮らしています。彼が幸運だったのは、貧しいながらも8人の子どもの面倒をみる頼もしいおばさんとおじさんの存在です。
少女たちの売春も、学校にいくため、お昼ご飯を食べるため、生き延びるために様々な理由で関係を力のある男性ともつという搾取の形態の一つです。また、10代の子どもたちの妊娠も非常に大きな問題となっています。これは、このような搾取的な関係も要因の一つですし、子どもたちが親のコントロール下にないため、子どもたちが性的にアクティブになった結果でもあります。これらはすべて子どもの保護が機能していないために起こることです。シエラレオネでは、さらなる法整備が待たれますが、現行の法律でも18歳未満との性行為は犯罪であり、子どもたちを性的な暴力と搾取から守るための仕組みのを様々な側面から強化していくことが重要な課題です。

[ユニセフの活動内容3 子どもの福祉委員会の連携強化]
シエラレオネはその歳入の60%を外部から援助に依存しています。中央省庁の中でも、特に社会福祉省は脆弱です。例えば、600万人の人口に対して、ソーシャルワーカーが全国約120人しかいません。このように、政府のキャパシティが限られている場合、コミュニティを基盤とした子どもの保護の仕組みづくりが非常に重要な意味を持ちます。ユニセフは、コミュニティメンバーで構成され村レベルで設置される子どもの福祉委員会(Child Welfare Committee)の機能の強化に引き続き注力します。具体的には、子どもの虐待の有無を監視し必要に応じてしかるべき対応がとれるためにトレーニングを行い、警察、病院、社会福祉省、パラマウントチーフといった機関や人々と子どもの福祉委員会の連携を強化する支援を行います。
ランサナくんは、中学校の卒業試験に受かり、この9月から隣の県にある寮制の男子校に行くことが決まっています。 番組で取り上げられた、親戚の家に引き取られることになったマリアトゥと栄養失調だったイブラヒムのことにも触れたいと思います。マリアトゥは、現在、違う親戚の家から学期中は学校に通っています。番組の中で引き取られた家族とはお休みの期間を一緒に過ごしていました。イブラヒムは、手を尽くしたのですが、家族が引っ越してしまい、残念ながら消息がつかめませんでした。ただ、昨年の番組放映直後に、別人のようにふっくらと体重が増えてすっかり元気になった姿が報告されています。



学校があっても、子どもたちが学校で先生から体罰や性的な暴力を受けたら、教育の効果は出ません。たとえ、病院があっても、子どもたちが日常的に暴力にさらされていたら子どもたちの健康な発育は叶いません。子どもは、暴力や搾取から守られて初めて教育や保健といったベーシックサービスを十分享受することが出来るのです。皆様から頂戴したご支援は、このような重要な支援のために使われます。