フジテレビジュツの仕事

    FNS歌謡祭

    • 美術プロデューサー
      塩入 隆史、楫野 淳司
    • アートコーディネーター
      鈴木 真吾、鈴木 あみ
    • 大道具
      篠本 匡介
    • アートフレーム
      三浦 文裕
    • 電飾
      久光 義紀
    • アクリル装飾
      犬塚 健
    • 視覚効果
      倉谷 美奈絵
    • 生花装飾
      小柳 幸絵
    • メイク
      久保田 裕子
    • 楽器
      島津 哲也
    • 基礎舞台
      林 俊光
    • LED
      後藤 佑介、齋藤 淳之介
    越野幸栄さん

    越野幸栄さん
    (YUKIE WICKSON) 舞台・テレビ美術デザイナー

    『FNS歌謡祭』は
    1974年に小川宏・吉永小百合の司会でスタートしました。
    46年の長い歴史の中で1991年から現在まで、29年連続でセットデザインを担当する越野幸栄(YUKIE WICKSON)さんにこれまでの"セットデザインの歴史とヒミツ"をインタビューしました。

    デザインのヒミツ

    ー会場がグランドプリンスホテル新高輪内の“飛天”に移ったのはいつからですか?

    越野

    私が担当を始めた1991年からです。

    会場入り口にあるプレート

    ーよく皆さん"飛天の間"って言いますよね。

    正確には"飛天"ですね。

    ーそれまでの会場とどんな違いがありましたか?

    前年は武道館でしたので、天井が高い大きな円形空間の会場でした。一方、飛天はものすごく広い宴会場だったので、まず会場に入ったときの第一印象は「綺麗な巨大シャンデリアと天井の模様がとても美しい空間」でした。また、テレビ局のスタジオと大きく異なり、かなり広々としているので、空間負けしないセットをデザインしようと思いました。

    セットを組む前の飛天の様子

    搬入開始から4時間、基礎舞台を組み始める

    基礎が組み上がってセット搬入も始まる

    27時間経過、徐々にセットが組み上がる

    48時間経過、LEDビジョン、電飾も入り始める

    ー当時のプロデューサーや演出家からリクエストはありましたか?

    プロデューサーからは2つのリクエストがありました。1つめは、これまでの音楽番組のスタイルと大きく異なる“特別な感じ”が出るステージにしてほしい。2つめは、宴会場でもなくライブ会場でもなく、劇場でもない新しい空間を作ってほしいというものでした

    映像で奥行きを表現するため長いカメラレールを敷く(1991年)

    ー"飛天"29年の歴史の中で、セットが大きく変化したのは何回ありましたか。また、それぞれの特徴、変化を教えて下さい。

    大きな変化は4回。最初のセットでは演出家からとにかく奥の深さを強調する配置希望がありました。そこで会場入り口から奥までカメラレールを長く敷き、ワンカットで見せるセットを考えました。

    映像で奥行きを表現するため長いカメラレールを敷く(1991年)

    毎年さまざまなステージを配置した

    また、今のように向かい合わせになるのはずっと後で、この頃は“飛天”の片側にセットを寄せたり、トークセットは真ん中、左右に歌セットを配置したり、4〜5ステージを配置したり、あらゆる形をデザインしてきました。
    (第一期1991年〜95年、98年〜2001年)

    毎年さまざまなステージを配置した

    毎年さまざまなステージを配置した

    毎年さまざまなステージを配置した

    第二期は横浜アリーナで 96、97年の2年だけ開催した時です。"飛天"には使いやすさと使いにくさがあり、特に会場の出入口が大きいセットの搬入を想定していない狭さなので大苦戦していて、横浜アリーナに行くことになりました。しかし当時のプロデューサーは、結局どこのテレビ局とも同じような空間になってしまうので、やはり"飛天"に戻り豪華な世界観で再び勝負する、となりまた戻りました。

    第三期では、それまで3つ以上のセットを建てていましたが、それぞれのセットのつながりや世界観の変化がつけにくく、様々試した結果、セットを大きく2つに分け、対面式にしました。またこれまでは演出家が何人も替わりましたが、ここから一人の演出家が10年連続して演出することになり、対面式を毎年試行錯誤しながら、今の原型がほぼ出来上がりました。
    (2002年〜2011年)

    第四期は、新宮殿スタイルと第三期から引き継いだLEDセットの進化版です。この形が定着し今のスタイルになりました。
    (2012年〜現在)

    現在の新宮殿スタイルのAセット

    LEDを組み込んだ反対側のBセット

    “飛天”の巨大シャンデリアは、5つのシャンデリアが集まって
    できたもの

    ーこれまで"飛天"デザインをしてきた中で、困ったことはありますか?

    日本最大級のシャンデリアがあるために何もできないという不便さもあります。便利な位置にシャンデリアを持っていきたくても、巨大で重過ぎるので位置は固定。高さも場所も変わらない。シャンデリアを避けながらセットを作りました。

    “飛天”の巨大シャンデリアは、5つのシャンデリアが集まって
    できたもの

    セットの一部に入れ込んだデザイン

    シャンデリアをどこから撮っても綺麗に写るように、建て込み前に一つ一つ綺麗に拭く

    また先程も言いましたが、この会場は出入り口がライブスペース用に設計されていないので、搬入搬出の出入り扉の大きさに制限がありました。

    搬入口の大きさは3.6m×3.6m

     

    BセットのデザインとCG映像のタイトル

    ー第一期から第四期で、それぞれどこに注意してデザインしましたか?

    それはやはりディテール。大きなセットだからといって大雑把には作っていません。小さなセットよりも遥かに全体を大胆に、かつ細かくデザインしてきました。
    例えば、柱のディテールや質感、色、またステージをカメラが俯瞰で撮った時、バッチリ見える床のデザインも気を抜けない部分。照明のライティングとの調和も考え、色、デザインを決めています。

    BセットのデザインとCG映像のタイトル

    石に見えますがスチロール造形

    本物の石では重くて運べないため、セットはスチロールで造形する

    カーテンも高さがあり柄に特徴がある特注品

    Aセットのセンターの床は宮殿のタイル柄をイメージしてデザイン

    タイルのイメージなので床は印刷ではなく塩化ビニールシートの張り分け

    BセットのCM中ステージ転換。奥にAセットが見える

    ーこの"飛天"の会場は普段宴会場・結婚式場としても利用されているのですが、ここを訪れる人はあのセットはないんですかとよく聞かれるそうですよ。

    そうそう、あると思ってくる方が多いそうです。綺麗なデカイ体育館のような空間を見て、『FNS歌謡祭』をやっているあの会場はどこですか?と。

    ー視聴者に気づかれない、いわば“だましセット”ですか?

    いかにも、テレビセットとしてあるのではなく、私はデザイナーの仕事として、そこに在っておかしくないものを創りたいとずっと思ってやってきましたし、これからも変わらず、自分のデザインの仕事をやっていくだけです。

    ー『FNS歌謡祭』のセットデザインの歴史とヒミツ、大切な思いを知ることが出来ました。ありがとうございました。

    (2019年12月)

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