フジテレビジュツの仕事

    心はロンリー 気持ちは「・・・」FINAL

    2024年4月27日放送

    • 美術プロデュース
      吉田 敬
    • アートコーディネーター
      ⽇下 創太/駒崎 拓也
    • 大道具
      ⽊村 敬/裏隠居 徹
    • 大道具操作
      松本 達也
    • 建具
      岸 久雄
    • 装飾
      菊地 誠/松⼭ 紗希
    • 持道具
      ⼟屋 洋子/若林 瑞帆
    • 衣裳
      北⾕ 奈々/城⼾ 政人
    • ヘアメイク
      藪⻄ 智美/下地 可純
    • 床山
      寒郡 千恵
    • 視覚効果
      中溝 雅彦
    • 電飾
      ⽯井 誠
    • アクリル装飾
      ⼭⽥ 隼⼈
    • 小道具印刷
      石橋 誉礼
    • 特殊美術
      髙野 正義
    • 植木装飾
      後藤 健
    • 生花装飾
      牧島 美恵
    • アートフレーム
      ⽯井 智之
    • フードコーディネーター
      山﨑 千裕

    デザインのヒミツ

    ー足掛け40年にもおよぶシリーズの21年ぶりの最新作ということですね。

    別所 晃吉

    別所

    前作から随分年月が経っていますから、美術スタッフもほとんど入れ替わりましたが、当時の様子を知る人もいるし、若いスタッフの感覚もあっていいバランスだと思います。デザイナーも今回は3人で分業しました。私が演出サイドの思いを汲み取って全体を見つつ、各シーンを若手に任せていくというスタイルで進めました。

    心はロンリー 気持ちは「・・・」FINAL
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    心はロンリー 気持ちは「・・・」FINAL
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    ー打合せはどのように始まったのですか?

    今回の設定は“一応”刑事モノではありますが、打合せの内容は美術セットのイメージとかではなくて、あくまでギャグ先行なんです。演出サイドからの最初の話は、「覆面パトカーが本当に覆面を被ったらどう?」というものでした。レスラー風の巨大な覆面をデザインするのに、ああでもないこうでもないと激論が始まる。そのテンションで全編突っ走ったって感じですかね。

    ーギャグを成立させるために全力集中ということですね。

    ⼤⽯ 萌瑛

    大石

    覆面パトカーのパートは私が担当したのですが、とにかく車全体を覆うには「どんな素材を使ってどうやったらいいのか」と、スタッフ全員で試行錯誤を繰り返しました。デザインは何パターンも作ってみて、最終的にはド派手な「赤」と「金」を使ったものが採用されたので、エナメルっぽくてラメも入った布を車体にフィットするように特注で縫い合わせてもらうことにしました。ところが話はどんどん膨らんでいって、「ドアからパトランプを出して、ルーフに載せる場面を撮りたい」ということでドアが開くように形を変えたり、「駐車場の中を走り回りたい」ということで走らせても大丈夫なように構造を見直したり、ずっとバタバタしていました。車全部を飾るのに5時間くらいかかったでしょうか。実はリアの窓部分は、レスラーと同じように紐で締めたデザインになっています。美術プロデューサーが最後までこだわった「紐」にも注目してもらえると嬉しいです。

    心はロンリー 気持ちは「・・・」FINAL
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    心はロンリー 気持ちは「・・・」FINAL
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    ー短いギャグシーンのために、たくさん作らなければならない訳ですね。

    「シーンの数だけギャグがある」ので、ネタ一つ一つに対して「この思い付きをどうやって形にするか」というプレッシャーはあります。通常よりかなり頭を使う番組で大変ですが、その分面白さもすごくあるし、若手は勉強になると思います。思い付きがとても重要なので、打合せでもなるべくその場で絵を描くようにしています。言うこともコロコロ変わるので、「それはこういうことですか」と絵に描いた方が齟齬もないし、「もっとこうしよう」とブラッシュアップもできます。この作業は収録当日の現場でも起こり得ますから、緊張感たっぷりです。

    心はロンリー 気持ちは「・・・」FINAL
    心はロンリー 気持ちは「・・・」FINAL

    ー美術スタッフの総合力が試される番組ですね。

    山本 麻代

    山本

    私が担当したキャンプ場のセット転換は、文字通りその場にいる美術スタッフ総がかりでした。フジテレビの大階段前に建てたキャンプ場セットの背景が左右に割れて、ミュージカルシーンに突入するという仕掛けなのですが、大道具以外のスタッフも駆けつけて何とか操作しました。次の場面が見えてはいけないので、背景の森には決して隙間があってはいけません。植木装飾スタッフがありったけの植木を引き枠に載せた結果、重量は左右あわせて600kg。それぞれに8人のスタッフがスタンバイしました。音楽きっかけで動かす練習を何度も重ねた結果、本番が一番うまくいったと思います。経験値としてこういうきっかけ操作は、人力の方が信頼できます。それとこういう重量物は動かす時より止める時の方が大変、というのも大道具操作あるあるです。

    心はロンリー 気持ちは「・・・」FINAL
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    ー「SAIKON」ミュージカルのギャグでも美術は活躍しましたね。

    「SAIKON」の「N」がドンデンで「O」に変わり、「再婚最高」になるというシーンでは、ドンデンのきっかけ操作を担当したのは若手のアートコーディネーターです。わずかなタイミングのズレで、ギャグが台無しになってしまうので、素振りよろしく何度もイメージトレーニングをして本番に臨んだと聞いています。電飾のタイミングや幕の上げ下げなど、美術スタッフの中にはこういう一発勝負の緊張感が快感になってしまっている人がかなりいます。

    心はロンリー 気持ちは「・・・」FINAL
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    ー一つのギャグのために、大掛かりな仕掛けを全力で用意するということですね。

    「ウキウキ研究所」のシーンでも、大道具・装飾スタッフを中心にあれこれ仕掛けを作りました。たとえば廊下から「警察だ!」と言って踏み込む場面では、ドアが開かないんです。どう見ても引き戸なのに、実はシャッターみたいに上に上がるドアだったというネタ。鉄柱を建てて滑車と綱で建具を持ち上げるという大掛かりな仕組みが必要でした。これも綱を引っ張るきっかけ操作はもちろん人力です。

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    心はロンリー 気持ちは「・・・」FINAL
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    ー他に美術部門が苦労したシーンはありますか?

    「リアル絵画・彫刻展」でしょうか。シリーズでは定番のギャグとして、有名美術作品をリアルな人で再現するというもので、これについては美術スタッフにもアイデア出しが宿題として出されました。ミレーの「落穂拾い」を「小銭拾い」にしようかとか、フェルメールの「真珠の耳飾りの少女」にメンチをきらせたらどうかとか、採用されるのはなかなかハードルが高いのですが、皆でいろいろ考える過程は楽しく勉強になりました。そしてネタが決まったらそれを形にしなければならない訳で、美術はそこからが大変。スチロールや布、芝を刈り取った時に出る芝かすなど、色んな素材をあてはめながら、衣裳・メイク・特殊小道具スタッフと頭をひねって何とか形にしましたが、どうだったでしょうか。

    心はロンリー 気持ちは「・・・」FINAL
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    その流れでネタを考えるクセがついて、美術発信のギャグが採用されたこともあったんですよ。大石発案の「デカ耳カップ」も結局作ることになったし。

    心はロンリー 気持ちは「・・・」FINAL

    ああ、あれはカフェのシーンですね。台本にコーヒーカップをイジる台詞があったので、「取っ手が耳だったら面白いかな」と思って提案してみたら、本当にマギーさんをキャスティングして「デカ耳」ネタをやってもらうことになったんです。もちろん美術で特製カップを急遽作りました。「いいね」となったらすぐ発注。このノリとスピード感がすごくて、鍛えていただきました。

    心はロンリー 気持ちは「・・・」FINAL

    ーこのシリーズは単なるコント番組ではなく、ちゃんとドラマでもあるところが特徴的ですよね。

    心はロンリー 気持ちは「・・・」FINAL

    そうですね。なので美術セットも概ねドラマクオリティーでデザインしています。とはいえ出演者のハプニング的リアクションも重要な要素なので、一連のくだりはなるべく一気に撮影していましたね。最近のドラマは、スタジオ収録でもロケスタイルで撮影することが多くてカット撮りが基本ですから、複数のカメラで狙って映像をスイッチングで選択する昔ながらのスタイルは逆に新鮮でした。

    心はロンリー 気持ちは「・・・」FINAL
    心はロンリー 気持ちは「・・・」FINAL
    心はロンリー 気持ちは「・・・」FINAL

    私がデザインした主人公のマンションの部屋セットでも、玄関から部屋に入っていく一連の動きを一発で撮るということがありました。いつものように設計したら、「撮り口」が足りなかったり、角度によって装飾が邪魔になったりと問題点が出てくるので、カメラマンとの打ち合わせを入念にやりながら、かつての撮り方に慣れている先輩デザイナーからアドバイスもいただきました。こういう機会は貴重です。

    心はロンリー 気持ちは「・・・」FINAL
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    ー注目してほしいシーンは何でしょう。

    デザインワークではないのですが、今回は若手のアートコーディネーターが大活躍でした。さっき話に出た「SAIKON」看板のドンデン操作もそうですが、一番苦労していたのは「ワカメ」かなあ。今回は回想シーンがいっぱい出てくるんですが、その場面に変わる時に必ず「ワカメ」がふやける映像が入るんです。“回想”だから“海藻”ということなんですけど、このふやかせ方が難しい。どのくらいの量のワカメにどのくらいの温度のお湯をかければ、ちょうどいい秒数でベストな映像になるのか、彼はその極みに至るまで何度も何度も実験したんです。おかげで大量のふやけたワカメがスタッフルームにあふれることになってしまいましたが・・・。努力の甲斐あって演出や出演者から、「ワカメふやかすのうまくなったなあ」とお褒めの言葉をいただけました。よかったです。こんなカンジで、今回はベテランと若手のコンビネーションがうまく機能したと思います。新しい発想と伝統の技が共存した美術現場でしたし、美術部門が一流の芸人さんと密接に関われたという充実感もあります。実は美術がヘマをして失敗した場合も、一流の芸人はそのハプニングをネタにして笑いに変えてくれることがあります。でも美術現場としては、できればその隙を見せたくないという意地もあります。「一見しょうもないことに全力で取り組む」という真剣勝負を、視聴者の皆さん方にも楽しんでもらえれば嬉しいです。

    (2024年4月)

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