フジテレビジュツの仕事
ルパンの娘
2019年7月〜9月
毎週木曜日 21:00〜21:54
- 美術プロデュース
- 三竹 寛典
- アートコーディネーター
- 杉山 貴直
- 大道具
- 浅見 大
- 大道具操作
- 坂井 貴浩
- 建具
- 岸 久雄
- 装飾
- 大角 啓太郎、氏家 智雄、松山 紗希
- 持道具
- 渡部 美希、廣田 朋夏
- 衣裳
- 大友 洸介、市川 礼、浅田 旺留、萩原 菜穂
- メイク
- 染川 知美、薩广 綾子
- 視覚効果
- 大里 健太
- 電飾
- 寺田 豊
- アクリル装飾
- 鈴木 竜
- 植木装飾
- 後藤 健
- 生花装飾
- 小柳 幸絵
- フードコーディネーター
- 住川 啓子
ビジュツのヒミツ①
アジト・ザ・ワンダーランド

「Lの一族」が暮らす“本当の方”のお宅。
決して“アジト”などと呼んではいけません。あくまでここは
タワーマンション高層階の“リビングルーム”なのであります。

ド派手な装飾はそれもそのはず、すべて盗品コレクションという設定。

壁を飾る小物も敷物も。古いモノから最新のモノまで、
高価な盗品ですから、実際のアート作品を多数借用しました。

そしてやっぱり、テントウムシ形のクッションもありました。
これはスタッフがドラマのために作ったオリジナル作品です。

とはいえ生活空間でもあるので、キッチンも
あります。

そんなきらびやかな空間の中で、一際異彩を放っているのが
コチラ。引きこもり仕様の司令室「ワタルの部屋」です。
何台ものモニターとむき出しの配線で独特な世界観を表現。

無造作に見える配線も、画角を意識して細かく
デザイン。
色や太さにもこだわって廃材コードを
配置しました。

“ダミーの方”のお宅はロケーション撮影で。
「ロミオとジュリエット」ばりの許されぬ恋の場面には
もちろんバルコニーならぬ物干し台が必要です。

タワーマンションへの入り口は畳がドア代わり。
毎回スタッフが操作します。
どういうカラクリなのか?申し訳ない、それは秘密です。
2019年8月
ビジュツのヒミツ②
警察官一家の住まいは伝統的な
「和骨」で

一転、警察官一家のお住まいは家風を表す
重厚なつくり。

下見板張りの外壁、障子のはまった掃き出しなど、
昔の日本家屋の趣きが。

じいちゃんの部屋はさらに重々しく。
鎧と燭台、日本刀がイメージアイテムです

美術セットは昔ながらの「尺貫法」の世界。
間口が何間、蹴込みは何尺、二寸釘など、
スタッフ間の長さの共通単位は今でも「間」「尺」「寸」です。

なので美術スタッフ必携の特製メジャーには「cm・mm」と
ともにちゃんと「尺・寸」の目盛が刻んであるのです。

そして今回のような和室のセットを建てるには「和骨」と
呼ばれるユニットパーツが使われます。

階段にしても、床の間にしても、和室のつくりは
現代マンションの洋室とはかなり違います。

サイズもしかり。サブロク(3×6尺)が基本の平台に対して、
和骨の畳は 2.9×5.8尺(または 2.85×5.7)と少し小さめ。

ゴシチ(5.7尺)やニシチ(2.7尺)ワイドの壁パネルと
3寸角の柱を組み合わせて部屋を作り
畳寄せをはめて調整していきます。

特に建具は「和骨」仕様が必須。
襖、障子などのデザインはもちろん「引き違い」か「引き分け」か
によっても部屋の雰囲気が変わってくる重要なアイテムです。

アクションシーンで派手に倒れる襖にはちょっとした仕掛けが。
上桟(かみざん)を短めに削る、溝の深さの違いを利用して
鴨居の位置に敷居を取り付ける、など様々な技が使われます。

人が倒れ込んで見事に壊れる襖の場合
襖紙を剥がして縁(ふち)や襖骨に鋸目(のこめ)を入れ
もう一度紙を貼るという隠れた作業をしています。
どう壊れるか、建具スタッフの経験が物を言うのです。
2019年8月
デザインのヒミツ

“泥棒一家の家”
ー“泥棒一家の家”のセットデザインでは監督からどのような要望がありましたか?
監督からは「リビングだけのセットにしたい」と言われました。通常、連続ドラマでは、登場人物の個室を作って、その部屋の雰囲気でその人の性格を表現するのですが、今回はリビングのみ、一人一人の部屋は要らない、と。
そこで、リビングの中で各人のエリアを作ろうと考えました。それぞれのエリアで個々のキャラクターを際立たせるためと、またそうしなければ、広いリビングに大量の“盗品”を置くのに、どこに何を置けばよいのかイメージしづらいし、揃える物にも偏りが出てきてしまうからです。
家にある物全てが盗んできた物という設定の中で、お父さんエリアは銃や刀、野球盤、蓄音機といった“お父さんの趣味”的な物、お母さんエリアにはゴールド系の宝飾品、美容グッズや派手めの絵画、おばあちゃんエリアは台所ですが、大小のざる、梅干しの瓶、盆栽、日本人形など和テイストの小道具で埋め尽くしました。
そしてリビングのセンターには『モナ・リザ』や大きくて値が張りそうな絵画、流木アートの馬、船の大きな模型など、家族皆が好きであろうシックな美術品を置いています。
ここには華(主人公)のスペースはありません。泥棒をやめたいと思っている以上、リビングに盗品を置いたりはしないという意味で。唯一、華の部屋へ続く廊下に見立てた動線の傍らに、ピンクのカーテンを掛けています。
平面構造的には、普通のマンションではあり得ませんね(笑)。高級クラブに近いかな。
全くリアリティのない、架空の住まいです。

“泥棒一家の家”

兄の部屋
ー引きこもりの兄の部屋はありますよね?
あれは個室ではなくて、ウォークインクローゼットなんです。ドアも観音開きで、入口の左右に棚やハンガーがあって、広いクローゼットをオタクの兄が占拠しているという設定です。何故かリビングの近くに引きこもっているという……(笑)。

“警察官一家の家” 平面図
ー“警察官一家の家”は、“泥棒一家の家”とは正反対の日本家屋ですね。
はい、こちらは昔ながらの日本家屋にしました。あるのは畳、縁側、床の間で、ソファーなどの“洋”を感じさせる物は何も置いていません。また色味をほとんど使わず、家具は茶系色、襖はほとんどが白の無地、カーテンすらベージュで柄なし。自宅でも黒スーツを着ているカタブツの人たちが住む、趣味的要素を一切排除した家にしています。普通で言うと「つまらないセット」ですね(笑)。
ー“泥棒一家のダミーの家”は普通の一軒家の印象ですが、コンセプトは?
こちらはセットではないのですが、現場に“うさんくささ”がにじみ出るような小道具を置いています。例えば、玄関の門柱の上に植木鉢をわざとらしく載せて、いかにも「本当に住んでますよ」と言わんばかりの不自然さを出したり。
華と和馬の『ロミオとジュリエット』シーンで毎回登場するベランダには花を多めに置いていますが、全て造花です。誰も住んでいない家ですから。リビングに飾ってあるのも造花にして、生活感のなさを表しています。
ー最も苦労した点は?
デザイナーよりも、特に大変だったのは装飾スタッフだと思います。泥棒の家が骨董品店に見えないようにするには、装飾の“盗品感”が大事(笑)。光りものなどが“金目のもの”に見えるか、もその要素ですし、さらに家具なら様式が揃っていない、ちぐはぐな、“買ったように見えない品々の集合体”がテーマです。ソファーもクラシックとモダンの両方を置いて、バラバラでありながら一つ一つの物が高級品に見えないとだめ。かつ、盗みたくなるような、どこかに目を引くポイントが欲しい。そういう物を大量に揃えるのは相当大変だったと思います。今回、映像に装飾の効果が大きく表れていて、画(え)を見ると装飾スタッフの奮闘ぶりが伝わってきます。
デザイナーとしては、揃った品々を見て、この家具でいくなら壁や天井に貼るクロスはどんなものが合うかな……と、次はマッチングで悩むわけです。限られた時間でこうして進めていくのに焦りを感じながらも、同時にこの考え迷うところがやりがいでもありますね。
(2019年8月)

“泥棒一家の家” 平面図