内容紹介
第1回「夫殺し」 1999年10月12日 OA

 東京郊外のあるベッドタウン。雅子(田中美佐子)、夫・良樹(段田安則)、息子・伸樹(石川伸一郎)の一家は7年前に移り住んだ。当時は楽しげな家族であったが、庭のキンモクセイはもう枯れてしまいそうで、家族に入ったヒビ割れを象徴しているようであった。3人の夕食は、テレビの賑やかな音に埋もれて、実は会話も心の通い合いもない、殺伐とした食事であった。
 夕食を終え、雅子はパート先の弁当工場に車で向かった。駐車場で派手なスポーツカーに乗った邦子(高田聖子)と会う。邦子は最近近くで起こった痴漢事件の話をする。「ブラジルさんかしら」。弁当工場にはブラジルの若者が何人か働いているのだ。そこへ同僚のヨシエ(渡辺えり子)も自転車でやってきた。明るく豪快な性格から、「師匠」と呼ばれる。3人の会話は、ごくありきたりの平和な主婦の像を結んでいた。更衣室には仲間の弥生(原沙知絵)が珍しく暗い表情で座っている。ブラジルの若者も現れ、単調な作業が始まる。
 仕事を終えた更衣室で、弥生が言う。「夫が500万円の貯金をギャンブルで使い果たしたの。責めたら、蹴られた」と鳩尾(みずおち)の痣を見せた。「ちきしょー」と弥生は“らしからぬ”言葉を発した。
 外に出て、邦子が感心したように雅子に言った。「弥生さんが暴力亭主。ヨシエさんは寝たきり姑を抱える未亡人。人生重いですね」。「人のこと言えるの」と雅子。邦子は「普通の女の子だもん」とその場では答えた。
 雅子は帰り道のファミリーレストランに見覚えのある自転車を見付けた。息子の伸樹が、1年前に大麻所持問題で世話になった少年課の婦警・則子(飯島直子)のものである。雅子は、少年たちに説教している則子へ声をかけた。愚痴とはいえ、楽しい会話が広がる。
 家へ帰りつくと、雅子の車がパンクしてしまった。良樹がパジャマ姿で出てきたが手伝うわけでもない。
 ヨシエの家では、寝たきりの姑・キヨ(冨士真奈美)が扱いが気に入らないと、ヨシエに不平を漏らす。そんな時,娘の美紀が修学旅行の旅費8万3000円をくれと言う。苛立つヨシエ。
 邦子の部屋。内縁の夫・哲也と言い争い。「朝飯くらい作れ」「夜勤明けなんだよ」「てめえがブランド品買うからだろ」・・・殺伐とした会話が続く。
 雅子は良樹に「パンク修理手伝ってくれてもいいじゃない」と文句を言う。「君の車だろ」と良樹。そんな様子を見て、伸樹は朝食も取らず出て行く。悲しみと不満ががないまぜになる雅子。パートの仲間はそれぞれに、深い業を背負っていたのだ。
 そんな時、ヨシエが旅費を貸してくれと電話をしてきた。快諾する雅子。外では近所の主婦が楽しげに子供と遊んでいる。雅子、苛立つ。
 そのころ、良樹は、求人広告で職を探していた。リストラされ失業していたのだ。
 雅子は車を路上に止め、つい昔を思い出していた。バリバリ信用金庫で働いていた時代。出来過ぎて煙たがられ、辞表を出す。楽しろよ、と言う良樹に信用金庫の男たちと同じ姿を見る雅子。伸樹は大麻所持で退学になる・・・。家へ帰ると、美容院から「結婚記念日」の鉢植えが届いていた。「おめでとう」の言葉に、つい、雅子は鉢植えを叩き割る。
 則子は、そのころバイト先の伸樹に会っていた。仲良く話す最中に、携帯が鳴る。異動の話だという。署に戻るとあこがれの「刑事課」である。初の女性刑事! うれしさがこみ上げる則子だった。
 新宿のバカラ賭博店オーナー佐竹(柄本明)は、酔っておだを上げる客を見ていた。弥生の夫・健司(逸見太郎)である。外に連れ出し、殴る蹴るで仕置きする佐竹。なにか、ただならぬ殺気を漂わせる。
 弥生は下着姿で、鳩尾についた痣を見る。息子の貴志はまだ小さい。涙があふれる。するといつ帰っていたのか、傷だらけの健司が座っている。「まだいたのかよ」。悔しくて言葉が返せない弥生。
 惨めな気分で自分が壊した鉢植えを片付ける雅子。そこへ電話が鳴る。弥生からであった。「私、あの人、殺しちゃった」。みんなの何かが壊れ始めて行く・・・。
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