FNSドキュメンタリー大賞
「従軍慰安婦」はこのまま歴史の中に置き去りにされるのか?
元慰安婦たちを追う日本人フォト・ジャーナリストを通して、古くて新しい日韓の間の未解決問題を検証!

第8回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『長き時間の果てに 〜慰安婦問題は終わったか?』 (制作 東海テレビ)

<9月8日(水)深夜26時20分〜27時15分>

 元従軍慰安婦が初めて実名で自らの体験を語り、日本を告発したその日から8年の歳月が流れた。戦後50年を過ぎマスコミは慰安婦問題をほとんど取り上げなくなったが、日本は元慰安婦たちの求める謝罪と補償をしておらず、問題は未解決のままだ。
 昨年秋の金大中大統領の来日以来、韓国の元慰安婦たちの間には、新たな不安が広がっている。それは日本と韓国の関係が急速に良好になる中で、自分たちの問題が解決をみないまま置き去りにされていく不安。大統領選の際に慰安婦問題の早期解決を公約に掲げた金大中大統領。しかし訪日の際、大統領の口から慰安婦問題は語られなかった。両国の政府は今後、日本と韓国が手を携えていく上で、障害となりかねない慰安婦問題にはこれ以上触れるべきでないという見解だ。
 慰安婦問題を取材し続ける三重県在住のフォト・ジャーナリスト、伊藤孝司(46)も現在の状況に疑問を投げかける。未解決の問題を抱えたまま、両国は新しい時代に踏み出していいのか。被害者の声に耳を傾け続けてこそ問題の本質に迫れると語る伊藤は、彼女たちの置かれている状況をどう見ているのか。
 国家レベルで打たれた終止符、薄れゆく世の中の関心、慰安婦たちの叫びはこのまま時代の闇に葬り去られてしまうのか。
 東海テレビでは半年にわたり、韓国在住の10人の元従軍慰安婦を取材した。

 慰安婦問題は1991年8月に韓国の元慰安婦、金学順(キムハクスン)が日本を告発したことで幕を開けた。50年近くに及ぶ沈黙を破り、太平洋戦争中、日本軍の性の相手を強いられた体験と戦後の苦悩を語った金学順。1日に20人から30人の軍人の相手をさせられた事実からすれば、彼女たちの恨みがいまだに消えないのも無理はない。彼女は日本政府に対して謝罪と補償を求め、彼女に続いて名乗り出た元慰安婦の数は韓国だけで150人を越える。戦後ひた隠しにしてきたあの忌まわしい出来事を語ることは、彼女たちにとってどれほど勇気のいることだったか。そして自分たちの勇気ある告発によって、問題は必ず早期に解決すると信じた元慰安婦たち。しかし彼女たちの求める国としての謝罪と補償は、いまだに行われていない。そして金学順は無念のうちに一昨年この世を去った。

 三重県在住のフォト・ジャーナリスト、伊藤孝司「日本の過去の過ちを正したい」という思いで、8年間、元慰安婦の取材を続けている。取材した元慰安婦の数は90人を越えている。
 日本人でしかも男性であるということが、元慰安婦に対する取材を時に難しくすることがある。伊藤の取材に対し、ある元慰安婦は50年間溜りに溜まっていた恨みをぶつける。「日本政府の代わりに謝りにきたのか!」と罵声をあびせられることもあるそれでも伊藤がこの取材を続けるわけは「日本の将来のため」そして「彼女たちに出会ってしまったから」
 そんな伊藤のもとに最近、彼女たちの訃報が届くことが多くなった。慰安婦問題への関心が薄れつつある中で、彼女たちが生きているうちに何とか国家としての謝罪と補償を実現させたい。年老いた元慰安婦たちの悲しみを思いながら、伊藤は時間との競争の中で取材を続ける。
 「私たちは死んでも歴史は生きている」。自分たちが生きている間に日本は謝罪と補償をしないだろうという諦めにも似た李容洙(イヨンス・72)の言葉。
 「慰安婦問題はもう終わった」李玉今(イオックム・86)は当事者でありながら自分に言い聞かせるようにこう言い放った。
 沈美子(シム・ミジャ・76)はある決心をして、伊藤孝司の訪問を待っていた。50年以上家族に打ち明けられずにいた秘密を、伊藤のいる前で家族に伝えたかった。
 元慰安婦たちに共通するのは、皆自分たちの死を意識しているということ。自分なりに人生に決着をつけずには死を迎えられないのだ。

 番組を取材した伊藤順子ディレクター「今さら慰安婦問題?と思った人にこそ見てもらいたい。日本のマスコミはほとんどこの問題を取り上げなくなってしまったが、元慰安婦たちの求める国としての謝罪と補償がされていない以上、問題は未解決のまま。マスコミが取り上げなくなることで世の中の関心も薄れていくが、被害者たちの苦しみは死ぬまで続く。高齢の彼女たちは自分の死を意識し始めているが、慰安婦だったという過去を名乗り出てしまったという現実を背負いながら、懸命に自分の人生を生きようとしている。彼女たちの生き様から何かを感じ取って欲しい」と語る。
 あの忌まわしい日々から、元従軍慰安婦としての名乗りをあげた日から、長い時間が流れた。その果てに彼女たちは今、何を感じているのだろうか。
 マスコミが取り上げなくなった慰安婦問題。番組では、慰安婦問題の取材を続ける一人のフォト・ジャーナリストを追いながら、日本と韓国の新しい時代の狭間に立たされた元従軍慰安婦たちの思いを描く。


<番組タイトル> 第8回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品 『長き時間の果てに 〜慰安婦問題は終わったか?』
<放送日時> 1999年9月8日(水)深夜26:20〜27:15
<スタッフ> プロデューサー : 広中幹男
ディレクター : 伊藤順子
ナレーション : 小林清志
<制 作> 東海テレビ

1999年8月23日発行「パブペパNo.99-280」 フジテレビ広報部