FNSドキュメンタリー大賞
広島の県の鳥「アビ」はなぜ来なくなったのか?
荒廃した瀬戸内海の海底と海砂採取の実態に迫る!

第8回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『消えた海底 〜アビは戻れない〜』 (制作 テレビ新広島)

<8月18日(水)深夜26時20分放送>

 穏やかな海と多島美で知られる瀬戸内海。今年5月に広島県と愛媛県を10の橋でつなぐ「しまなみ海道」が開通し、より多くの人々がこの美しさを楽しめるようになった。
 その瀬戸内海のほぼ中央に位置する豊島(とよしま)。8月18日(水)深夜26:20〜27:15放送の第8回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品『消えた海底 〜アビは戻れない〜』(制作 テレビ新広島)の舞台は、この豊島とその周辺の海だ。

 かつてこの辺りの海では、広島の県の鳥になっているアビという渡り鳥が多く見られた。翼長およそ30センチ、巧みに海に潜って小魚を捕らえるアビは、北極付近で繁殖し冬に日本付近にやってくる。この鳥には魚の群を追って集まる習性があり、豊島付近では、それを利用した「アビ漁」と呼ばれる鯛の一本釣りが、およそ300年前の元禄の初め頃から続いている。ところが、多いときには1万羽以上も飛来したと言われるアビが、近年100羽前後に激減、ここ15年ほどは「アビ漁」ができなくなっている。
 以前、豊島でアビ漁を行っていた漁師の西藤治視(さいとう・はるみ)さん(69)は、奥さんと二人で、きょうもその少なくなったアビが遊泳する海へ手漕ぎ舟でやってきた。少しでも多くのアビに来てほしいと、餌付けをするためだ。好物のイカナゴの頭を軽く噛んで、少し弱らせてアビに投げる。イカナゴが逃げないように、という西藤さんの気配りに、アビへの思いの大きさが伺える。
 しかし、なぜアビは来なくなってしまったのだろうか?その原因は二つ考えられる。その一つは「安全性」。アビは“気が細い”鳥だと漁師は言う。“気が細い”とは、神経質・気が小さい・臆病という意味だ。ところが、近年、大型船の航路が拡大された上に高速化した。加えてレジャーボートなどの出現で海には危険と騒音が溢れている。“気が細い”アビにとっては、瀬戸内海は安全の地ではなくなってしまった。

 もう一つは、好物のイカナゴの減少だ。イカナゴは夏眠性の魚で、夏、砂の中に潜って眠るが、砂そのものが無くなってきているのだ!高度成長期やバブルの時期に、大型建設工事、公共事業などでコンクリートの骨材として大量の海砂が使用された。豊島付近の瀬戸内海でも、去年2月に広島県が海砂採取を禁止するまで、30年以上にわたって採取が続けられたきた。
 海砂は国の所有物で、その採取権限は都道府県にある。瀬戸内海に面した1府10県のうち、今でも6県で海砂採取が続けられている。そのため、イカナゴは昔の10分の1に激減しているといわれる。
 この海砂採取について驚くべき数字がある。日本は量的には世界一の海砂産出国で、世界の7割強を占めているが、実は、その膨大な日本の採取量の6割強は瀬戸内海で採取されているのだ。アメリカを始め世界では、海を守るために海砂採取を禁止、または厳しく制限し、コンクリート用には他の骨材を使用している。瀬戸内海は、その多島美とともに海の資源の宝庫といわれてきたが、同時に海砂採取の宝庫でもある。しかし、この両者は決して両立しない。
 海底がどのように荒廃しているか、スタッフが海砂採取の現場で水中撮影をしてみた。30年前は20メートル位の深さであったところが40メートルもの深さになり、日光の届かない暗闇となっている。あたりは石ころだらけで、とても海底とは思えない。
 一方、海砂が採取されていない所では、藻が生い茂り、様々な種類の魚が泳ぎ回り、瀬戸内海本来の美しさを維持している。
 「このような石ころだらけでは、生物のすみかは確保できない。藻も育たない。ましてやイカナゴなんて生きていけるはずはない」広島大学の今林博道教授(生物学専門)は言う。イカナゴのいない海に、アビは決してやって来ない!

 番組を取材したのはテレビ新広島の河野美保子(こうの・みほこ)ディレクターだ。
「海砂採取がこんなに海底を荒らしているという現実にショックを受けました。目に見える山とは違い、海の底は目に触れることがありません。今回の番組で、多くの人に海砂採取の実態とそれが自然に与える影響について知ってもらいたいと思います」と語る。
 そしてこう問いかける。
「高度経済成長と日本人の生活文明は、瀬戸内海をより美しく、より便利な観光資源へと育ててきました。しかしその反面、豊富な漁場としての瀬戸内海、海そのものへの視点が欠けていたのではないでしょうか?」(河野D)
 アビは今でも、より豊かな餌とより安全な海を求めている。今もアビの餌付けを続け、「アビにもう一度たくさん来てほしい。そしてまたアビ漁ができれば…」という西藤さんの願いは、いつか叶うのだろうか。


<番組タイトル> 第8回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品 『消えた海底 〜アビは戻れない〜』
<放送日時> 1999年8月18日(水)深夜26:20〜27:15
<スタッフ> プロデューサー : 横田孝治
構成・ディレクター : 増田健太郎、河野美保子
撮   影 : 大原英二
録   音 : 徳橋耕次
編   集 : 高橋数明
<制 作> テレビ新広島

1999年8月5日発行「パブペパNo.99-255」 フジテレビ広報部