FNSドキュメンタリー大賞
徹底的にクリーン、しかし利権なし、耳触りのいい選挙公約なし、その上選挙下手…こんな男が当選できるのか?
「平成の井戸塀」を地で行った老政治家の姿を通し、政治家のあるべき姿、民主主義のあり方を問う

第8回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『わが人生に悔いなし・三浦雅夫の戦後』 (制作 愛媛放送)

<6月16日(水)深夜26時20分放送>

 「井戸塀」とは、最近あまり耳にしない言葉だが、政治活動に財産を使い果たし、井戸と塀しか残らないことをいう。そこには、あまりお目にかかれなくなった“清貧な政治家”という響きがある。6月16日(水)深夜26:20〜27:15放送の第8回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品『わが人生に悔いなし・三浦雅夫の戦後』(制作 愛媛放送)は、まさに「井戸塀」を地で行く、いわば“日本の政治家たちが忘れてしまった何か”を持つ老政治家の姿を通し、政治家のあるべき姿、ひいては民主主義のあり方について考える。そしてこの作品は、愛媛放送が2年前から作り続けてきた「戦後民主主義を問うシリーズ3部作」の完結編になる。

 愛媛県の南西部に位置する人口およそ6万人の宇和島市。伊達10万石の城下町として栄えた温暖な気候と海の幸に恵まれた小都市だ。ここに一人の希有な政治家がいる。三浦雅夫さん72才。昭和42年の市議会選挙を皮切りに、県議会選や市長選など出馬した回数10回、当選したのは、市議1回、県議3回である。今回の作品の主人公はこんな経歴の人物だ。
 三浦さんには特攻で戦死した兄がいた。陸軍少佐・三浦恭一。兄は南方に出撃する際、遺書を遺していた。そこには若くして死地に赴く無念の想いとともに、正義感の強い弟に向けた熱いメッセージも綴られていた。
「自分は戦場で死ぬが、お前は持ち前の正道を貫き、地域や国のために尽くせ…」
こんな内容の遺書を遺した兄は故郷・宇和島の上空を何回か旋回して南方に出撃し、21歳の若さでフィリピンの海に散った。三浦さんも兄の後を追い陸軍士官学校予科に入ったが、終戦を迎えた。この兄の生きざま、兄から託されたものが、弟の戦後を変えることになる。
「兄さんは国のために命を捧げた。生き残った僕は地域のために己を捨てる」
三浦さんが政治の道を志したのには、こんな訳があったのだ。

 こんな風に紹介すると、何か重いものを背負って生きてきた堅苦しい人物というイメージになってしまうが、素顔の三浦さんは、結構“笑える”人物らしい。
取材に当たった愛媛放送村口敏也ディレクターが説明してくれた。
「今年4月の統一地方選で県議に立候補した三浦さんに密着取材したのですが、有権者に語りかける表情、仕種などがとてもユニークで“絵”になります。内部から滲みでる人間性だと思いますが、何とも言えない魅力があるんです」
とはいえ、それだけでは55分のドキュメンタリー番組の主人公にはなれない。
「彼の選挙運動に同行して感じたのは、選挙がヘタクソということです。口べたでリップサービスがない。頼りない。耳触りのいい選挙公約がない。今風でない…。若い人にはアピールしないでしょう」
30年以上の経験がありながら、そんな選挙運動しかできない人物!!どうやらそのあたりのギャップに村口Dも惹きつけられたようだ。何しろ今時、旧知のボランティアやアルバイト10人ほどの運動員で選挙に打って出る人物だ。
「今の選挙は候補者の魅力だけでは当選できるほど甘くありません。有権者にどうアピールするかです。三浦さんは徹底的にクリーンですが、票につながる利権とも無縁です。また選挙資金に自分の金しか使おうとしません。そんな彼が当選できるのか?はっきり言って難しいだろうな、と思いました。しかし、そうならば彼は間違っているのだろうか、むしろ彼こそが、本来、政治家があるべき姿なのでは?彼は、政治家とは何かを自ら体現するため政治家をやっているのでは?こんな風に思えてきたのです。明治維新の頃の志士たちとは、彼のような男だったのでないかという気がします」  もともと手広く農業を営む豪農の家に生まれた三浦さんだが、30年あまりの政治生活でそのほとんどを失った。今は奥さんや子供とも離れ、一人でミカン山の小さな山小屋で生活している。まさに「井戸塀」を地で行く人物だ。
「三浦さんは選挙で大負けしません。大きくはありませんが“三浦信者”とでも言うべき支持層を持っているからです。それはひとえに彼の人柄、その生き方によるものだと思います。それに加え、お兄さんのことがありますね。戦時中、特攻に出撃するパイロットには部隊によっては、故郷の上空を飛んで旋回する“ふるさと訪問”が認められていたそうです。ある年齢より上の人には、宇和島上空を旋回し、南方へ飛んだ彼のお兄さんのことは語り継がれています」(村口D)


 ところで、冒頭にも触れたが今回は「戦後民主主義を問うシリーズ3部作」の完結編になる。テーマ探しに苦労している局がほとんどという中、かなり余裕を持って作品を作ってきたようにも思えるが、その辺りについて村口Dからは
「前々回は“地方議会”、前回は“村おこし”、そして今回は“政治そのもの”がテーマになりましたが、初めからこの3つのテーマが決まっていたわけではありません。ネタ探しにはかなり苦労しました」という答えが返ってきた。
「一作目の“面河村(おもごむら)”は、まず村で事件が起き、丹念に追っていったらただの騒動でなく、民主主義の根幹の問題に行き着きました。これに準大賞という高い評価を頂くことができ、『民主主義をテーマに二作目を』といろいろリサーチした結果、去年の“新宮村(しんぐうむら)”の観音郷構想を見つけました。今年は、『よし、それなら3部作にしよう』となったのですが、これというテーマがなかなか見つかりませんでした」
「3部作」ということで「初めに3つのテーマありき」だったのかなと思ってしまったのだが、そうではなかったようだ。
「三浦さんは地元は知る人ぞ知る有名人ですです。テーマ探しがなんこうしているところに、『彼はどうだろう?』という声がプロデューサーから出まして…。年齢を考えると、もう選挙に出ることはないだろうと思っていました。ところが実際に去年会いに行ったら、今年の統一地方選に出るというので取材を始めたというのが実状です」村口Dはこんな舞台裏を明かしてくれた。

 三浦さんはもう72歳。年齢から言っても多分今回が最後の選挙だろう。こういう希有な人物の生き様や選挙活動、政治に対する姿勢を通して、この作品が「政治家のあるべき姿」「民主主義のあり方」について、どう問題提起し考えさせてくれるのか楽しみだ。
「三浦さんは、今の日本の政治家が忘れてしまった何かを持っています。それは高い志です。こういう人が今、求められているのでは…そんなメッセージを発信したいと思います。それに加え“笑”いの要素ですね。三浦さんは見ていて楽しくなる人物です。まず笑い、その後考えさせられる、そんな作りにしたいですね」(村口D)FNS全体に知れ渡った「笑ってドキュメント」は今年も健在だ。


<番組タイトル> 第8回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品 『わが人生に悔いなし・三浦雅夫の戦後』
<放送日時> 1999年6月16日(水)深夜26:20〜27:15
<スタッフ> プロデューサー  : 窪田力雄
ディレクター : 村口敏也
撮 影 : 中岡元紀
<制 作> 愛媛放送/span>

1999年6月2日発行「パブペパNo.99-177」 フジテレビ広報部