FNSドキュメンタリー大賞
FNS各局がそれぞれの視点で切り取った28通りの日本の断面!

『第8回FNSドキュメンタリー大賞』参加作品いよいよ放送開始!!
各ブロック会議リポート(1)東日本編

 FNS各局がそれぞれの視点で切り取った28通りの日本の断面。それは言い換えればそれぞれのディレクターが映像の世界を通して訴えようとしている28通りの想いでもある。
 『FNSドキュメンタリー大賞』はFNS(フジネットワークシステム)各局の番組制作能力の向上と、そのノウハウの蓄積を図ることを目的に92年に創設された。系列各局がそれぞれの地域に根ざした55分間のドキュメンタリーを制作・出品し、新聞社や通信社の放送担当記者が審査員となって受賞作品を選んでいるが、「回を重ねるごとに作品の完成度は確実に高まっている」というのが審査員から聞こえてくる共通した意見だ。
 だが、ここで一つ付け加えさせて頂きたいのことがある。それは各局の中で『ドキュメンタリー大賞』の制作担当者に選ばれたからと言って、番組制作に没頭できるディレクターはほとんどいないということだ。県政や県警などデイリーのニュースを担当しながら、泊まり勤務や企画取材をこなし、その合間をぬって番組取材を行っているのだ。もちろんそれだけで足りず、休日のほとんどを番組取材に当てているディレクターもいる。だが、逆に考えればそういう過酷な条件の中でボロボロになりながら取材を続けているからこそディレクター1人1人の思いが作品の中に現れ、それが結果的に作品の質を高めているのではないだろうか。
 前回第7回のドキュメンタリー大賞で見事大賞に輝いた富山テレビ報道部の青柳良明プロデューサー兼ディレクターは“あなたにとって“ドキュメンタリーとは何か?”という問いかけに対して「ドキュメンタリーは給与以外のロマン!」と爽やかに言い切った。そんな根っからのドキュメンタリストたちがお届けする今回の作品に大いに期待してもらいたい。
 『FNSの良心』というキャッチコピーもすっかり定着し、『FNSドキュメンタリー大賞』は今や各局にとって、またFNS全体にとっても得難い大きな財産に成長したと言ってもいい。その『FNSドキュメンタリー大賞』も今年でいよいよ8回目となった
 今回も参加全局(28局)が『FNSドキュメンタリー大賞』の放送枠を設け、全局分を放送することになっている。フジテレビでは5月5日(水)26時20分放送の『エア・ドゥ離陸の真実〜密着800日〜』(北海道文化放送制作)を皮切りに、6ヶ月にわたって各局の出品作品を放送していく予定だ。そして注目の審査は今年12月頃新聞・通信の放送担当記者によって行われ、大賞1作品(賞金1500万円)、準大賞1作品(賞金400万円)、佳作1〜2作品(賞金200万円)、特別賞1作品(300万円)が選ばれることになっている。ちなみに、特別賞は今回から新たに設けられた賞だ。この賞は“番組としては荒削りで完成度は高くなくても、取材対象へのアプローチや構成・表現方法に独創性があり、制作者の今後に期待や可能性を感じさせる作品”に対して贈られるもので、大賞、準大賞、佳作という枠組みにとらわれないまったく別の視点から審査が行われることになっている。そして大賞受賞作品は来年の1〜2月頃に改めて全国ネットで全編放送される予定だ。

 『第8回FNSドキュメンタリー大賞』の実施にあたっては今年1月に東京で1回目の制作担当者会議が開かれ、28局が地域ごとに4つのブロックに分かれ、テーマや切り口について活発な意見交換が行われた。そして3月から4月にかけて各ブロックごとに参加メンバーが集まり、2回目の会議が開催された。

 果たして今回栄冠を勝ち取るのは一体どの局なのだろうか・・・・?今号では各ブロック会議のうち「北海道・東北ブロック」「中部・北陸ブロック」の会議リポートをお伝えする。


『北海道・東北ブロック会議』
 『北国の雪をも溶かす熱い言葉のバトル。「ドキュメンタリーとは何か」。一歩も譲らない出席者たち。会議室は異様な雰囲気に包まれている』そんな前評判を聞いて臨んだ今回の北海道・東北ブロック会議ですが、開けてびっくり、各局の報告は淡々と行われ、議事進行も滞りなくスムーズで落ち着いた展開となりました。
 それもそのはず、昨年の会議において「ドキュメンタリーとは」をテーマに議論沸騰してしまい、確認事項もままならないほどだったらしく(?)、今年はその反省から出席者のみなさんが自重なさっていたからのようです。(ひょっとして、意見の対立から仲違いをなさっているのではと心配しましたが、“ススキノ”でのみなさんの酔態を目の当たりにして、その心配も吹き飛びました)
 それでもいくつかの報告が進むうちに、口々にドキュメンタリーに対する熱い思いや取材を進めていく上での迷い・悩みが語られ、作品のバランス・構成について意見が交わされ、何かと問題となっている再現VTRの扱いが俎上に載せられるなど、やはり一言居士の現場の方だけに、結局喧々諤々の2時間半となってしまいました。
 ところで、このブロックでは、すでに自局でのOAを終えているUHBを除いてはどの局も、取材の進捗状況がかなり遅く(なぜか取材が秋に集中)、現時点ではまだ手探り状態という感じで、この調子だと最終放送枠の奪い合いになるのではと、少し気になりました。しかし、多くの米どころを有するブロックだけに、夏にじっくり育まれ、実りの秋に大豊作となることを期待しています。

 各局の制作状況は以下の通り

*北海道文化放送(UHB) 『高度1万メートルの挑戦 〜エア・ドゥ就航の真実〜』
 ニュースとして取り扱ってきたテーマを集大成して、1月24日(日)に自局で放送済み。8%を取った。暗い話題の多い今の北海道で、エア・ドゥとコンサドーレ札幌は貴重な明るい話題。「ANA、JALら既存の航空会社は3月から一斉に値下げに踏み切り、エア・ドゥ潰しに出てきました。(フジテレビで放送される5月までに)何も起こらなければいいのですが…」(鈴木雅彦プロデューサー)

*岩手めんこいテレビ(MIT) 『甦れ!トンコナン 〜海を渡ったみちのく大工〜』(仮)
 ふとしたきっかけでインドネシアと関わりを持った大工さんが、朽ち果てた伝統家屋トンコナンを目の当たりにし、何とか修復したいと思い仲間とともに現地トラジャに乗り込む。それを追いながら、「家族のあり方」「古き良き伝統」にまで話は広がりそう。問題は不穏なインドネシア情勢。今後の状況によっては現地取材に支障がでることも…。
 「勢いで作ろうかな、勢いで…。センチメンタルジャーニーにならないよう頑張ります」(千葉徳雄めんこいエンタープライズ専任課長)

*仙台放送(OX) 『おゆるしください 〜菅野俊作の戦後〜』(仮)
 中国とゆかりの深かった故菅野俊作・東北大名誉教授を追う。上海の東亜同文書院大学に学んでいた菅野さんは、学徒兵としてそのまま現地入隊、あの戦争に現地で“加担”した。その体験は戦後、東北大学で教鞭をとりながら、護憲平和センター、日中友好協会、魯迅顕彰会などの活動に関わるきっかけになる。そんな菅野さんは、去年、仙台で開かれた中国の江沢民国家主席歓迎夕食会で「お許し下さい」と江沢民国家主席の手を握り深々と頭を下げ、翌朝77歳の生涯に幕を閉じた。戦後半世紀、一貫して「戦争の本質と実態」「生きるということ」「平和」について考え続けた菅野さんの生き様を通し、彼が終生願い続けた「平和」の意味を浮き彫りにする。
 と書くと、もう取材は相当進んでいるように聞こえるが、実は生前の菅野さんの映像はほとんどない。周辺の人の証言や日記・遺稿、自宅の敷地に立てられ多くの留学生が今も暮らす寮などの取材で構成する。再現VTRを駆使することになりそうだ。「『知ってるつもり』の上を行くもの作ります」(岩田浩史ディレクター)

*秋田テレビ(AKT) 『米と酒 〜夏田冬蔵の世界〜』(仮)
 夏は水田で米作り。冬は蔵で酒造りを続ける一人の農民の姿を通して、新食料法などに象徴される「ネコノメ農政」に翻弄される日本の稲作を考える。この人の作ったお酒はフジテレビ内のコンビニにも置いてあるそうです。酒造りの厳しさがどこまで出せるかがポイント。「実は、種モミ蒔きのシーンが、撮れていないんです…」(根田昌治プロデューサー) No problem! この後の取材でリカバーして下さい。

*さくらんぼテレビ(SAY) 未定
 1月の会議では「何か(ネタを)見つけます」(冨澤弘行報道制作部チーフ)という状態だったが、今回は「スミマセン!」(同)。どうやら複数のテーマを追っているが、まだ一本に絞る段階ではないようだ。去年も同じような状況で、実は事務局は結構心配したのだが、ふたを開けたら「佳作」。今年も直線一気の追い込みに期待しています!

*福島テレビ(FTV) 『消すな助産婦の灯』(仮)
 かつて出産の主役だった助産婦。一般的には看護婦との区別がつかなくなり、また病院のスタッフとなる人が多く、「開業助産婦」は激減している。ところが、アメリカでは従来の日本型の助産婦が増えているという。日本の今と昔、日とアメリカ助産婦の対比などから「産む人が満足する出産」を考える。余談ですが、担当の斎藤美幸ディレクターはフジテレビ報道で事件記者や厚生省担当の経験を持つ。事務局に彼女を知る人が多く、かなり声援が飛んでいます。(美)


*『中部・北陸ブロック会議』
 中部・北陸ブロックは各ブロックの先陣を切って3月19日(金)にテレビ静岡本社3階の役員会議室で行われた。豪雨というあいにくの空模様だったが、取材のため欠席した福井テレビを除き、メンバー全局が参加した。
 中部・北陸ブロックははっきり言って強者揃いだ。第1回(テレビ静岡)、第2回(石川テレビ)、第5回(フジテレビ)、6回(長野放送)、そして前回第7回(富山テレビ)と過去7回中、何と5回も大賞を受賞しているし、佳作の受賞は毎回常連であると言ってもいい。そんなブロックだけに、今回も大いに力が入っている。テレビ静岡からは報道部の若手のホープを送り込まれてきたし、石川テレビも報道番組部の中堅ディレクターを投入、また東海テレビからはプロデューサーやディレクターを含め3人も会議に乗り込んでくるなど、各局とも今回の大賞に挑む並々ならぬ意気込みが感じられた。
 会議にはアドバイザー役兼フジテレビの参加作品のプロデューサーでもある味谷和哉(第5回に大賞受賞経験あり)も加わり、番組の内容はもとより、番組のタイトル、音楽にまで話が広がり、有意義な議論が繰り広げられたのは言うまでもない。そして会議後の懇親会では静岡の魚介類を満喫。2次会では富山テレビのAプロデューサーやテレビ静岡のHディレクターの美声に酔いしれながら、夜が更けるのも忘れてドキュメンタリーについて熱っぽく語りあう姿は4年連続で中部・北陸ブロックから大賞を受賞するのでは、との期待を大いに膨らませてくれた。
 各局の出席者及び作品は以下の通り

*東海テレビ(THK)梅田紘輝プロデューサー、伊藤順子ディレクター 『ジャーナリスト』(仮)
 三重県在住のフォトジャーナリスト、伊藤教司さん(46)は10年前からアジアの戦後と戦争被害者の取材を続けている。中でも日本の植民地支配を受けた韓国、北朝鮮の取材に力を入れ、韓国で従軍慰安婦の写真展を開いた世界で初めての写真家でもある。彼の活動を追いながら日本とアジアの関係、そして日本人とは一体何なのかを考える。

*テレビ静岡(SUT)小林幹雄プロデューサー、橋本真理子ディレクター 『盲学校100年目の挑戦〜視覚障害をとりまく諸問題』(仮)
 県立静岡盲学校は去年100周年を迎えた。視覚障害児とその家族に一日でも早く障害を受け止め、自立への道を切り開いてもらいたいとの思いから0〜2歳児を対象に全国初の超早期教育に取り組んでいる。しかし普通の学校に通いたいという子供たちが多く、入学者は年々減少しており、盲学校は今必死になって変わろうとしている。番組では盲学校に通う視覚障害もつ女の子に密着し、命の大切さを伝えると共に教育現場、地域、家庭などとの連携をめざす盲学校の試みを通して本来の教育とは何かを探る。

*新潟総合テレビ(NST)玉木正晴ディレクター 『笑顔を見続けたい 玲菜ちゃん3歳』
 生後間もなく難病の拡張型心筋症と診断された新潟県柿崎町の鈴木玲菜ちゃん(3歳)は心臓移植以外に助かる見込みはないが、日本では15歳未満の子供からの脳死移植は事実上閉ざされている。幼い命を救うための支援の輪も広がり、玲菜ちゃんは3月初めに移植を受けるため両親と共にアメリカに旅立った。
 番組ではひたむきに生きる家族の姿を追いながら、残された脳死移植課題、子供に対する移植医療の問題を問いかける。

*長野放送(NBS)南 直敏ディレクター 『木曽の7人衆 〜中学生力士たちの夏〜』(仮)
 昭和53年のやまびこ国体以来、木曽福島は相撲の町として全国に知られるようになった。この町のトレーニング場で国技館を目指して練習に励む7人の中学生力士たちがいる。番組では彼らの中で特に大型力士として注目を集め、相撲部屋からの誘いもある3年生が卒業を前に進路に悩む姿を中心に中学生ならではの大人と子供が入り交じった彼らの心のヒダを描く。

*富山テレビ(BBT)青柳良明プロデューサー 『シベリアー北欧10000キロ ストックホルムの札幌ラーメン 〜青年は荒野をめざした〜』(仮)
 1970年代。大学紛争と高度成長の中で数千人の若者たちが夢を追い、船とシベリア鉄道に乗り継いでヨーロッパを目指した。大半はひと夏の貧乏旅行を終えて帰国したが、そのまま居残り、ヨーロッパ各地に永住した学生もわずかだがいたという。
 それから30年。望郷の念を抱えながら彼らは50歳を超えた。めまぐるしく変わる時代に彼らは今何を思い、日本をどう見つめているのか・・・。それぞれの人生と各地のたまり場で聞く青春の勲章。番組では富山県出身の元ドロップアウト組の52歳の会社社長をリポーターに迎え、ヨーロッパの日本人が時を越えて逆照射する日本の今を描く。

*石川テレビ(ITC)宮崎龍輔プロデューサー 『町に生きる』(仮)
 金沢市木材町に住む小林正子さん(52歳)は筋ジストロフィー症を患い、不自由な生活を強いられているが、人情味ある町の人々に助けられながら明るい性格で前向きに生きている。同じく筋ジスを患う姉の津田たまえさん(54歳)は障害者の福祉充実を目指す活動の先頭に立って行動している。番組では2人の姉妹の日常の日々を追いながら高齢化社会を前に弱者に優しい町の本来あるべき姿を探る。

*福井テレビ(FTB)(前川佳之ディレクターは取材の都合で欠席) 『危機・越前ガニ漁が町から消える日 〜新日韓漁業協定締結の間で〜』(仮)
 福井県内最多のズワイガニの水揚げを誇る越前町。越前ガニを柱に水産業と観光で成り立つこの町が新たな日韓漁業協定締結の中で揺れている。去年1月、旧日韓漁業協定破棄を韓国側に通告。9月下旬に日本側が大幅な譲歩をする形での基本合意に達した。守り続けてきた海、漁獲高の大幅減が懸念される中、抗議行為を決意する漁民たちの姿を追う。

*フジテレビ(CX)味谷和哉プロデューサー 『よそ者たちが住みあう街 東京都ガイジンチョウ』(仮)
 アジア系を中心に多くの外国人を飲み込む東京・新宿。昨今の“危ない”“裏社会”“不法行為”といったセンセーショナルな新宿ではなく、ニューカマーズ(新規来住者)として来日したアジア出身の若者たちの「等身大」の生活を通して異文化と接しながら暮らすことの意味を改めて問いかける。(み)

 『第8回FNSドキュメンタリー大賞』に関して本稿と同時発行される予定の各ブロック会議リポート 西日本編にも乞う!ご期待!


1999年4月21日発行「パブペパNo.99-136」 フジテレビ広報部