FNSドキュメンタリー大賞
静岡県庁の防災管理室に勤める職員と13歳の女子中学生の防災への取り組みを通じて、大地震に対する行政の抱える問題や自主防災組織の課題、 住民がどのように防災活動に取り組めばいいかを考えていく渾身のドキュメンタリー!

第11回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『空白域〜東海地震対策の25年〜』 (制作 テレビ静岡)

<11月12日(火)26時33分〜27時28分放送>
 センセーショナルな「東海地震説」が打ち出され、静岡県を中心とした大地震への防災対策が始まってから25年の月日が経つ。大地震を生み出す地球のメカニズムからみればわずかな時間だが、人間にとって四半世紀という時間は、あまりにも長い。「防災意識の風化」をもたらすには充分な期間といえよう。

 静岡県庁の防災管理室に勤める岩田孝仁さん(47)は、静岡県の防災局や県外での経験を踏まえつつ、ほぼ25年間一貫して防災業務に就いている。阪神淡路大震災では、大きな災害が行政や会社などの組織をズタズタにしてしまう事例を目の当たりにした。静岡では、実際に被災したら一般住宅などに多大な被害が及ぶことは避けられない。今、どんな準備が必要なのか、岩田さんは真剣に“責任を果たす”防災の実現を考えている。
 一方、ごく普通の13歳の女子中学生・高木亜理紗さんは、静岡県の防災指導者養成講座に通うことにした。「東海地震が来ると聞いて、みんなが助かるようにしなくては」。中学生の亜理紗さんの素朴な思いだが、地域のリーダーを養成する大学並みの講義に、理解を深めていくことができるのだろうか。
 11月12日(火)26時33分〜27時28分放送の第11回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品『空白域〜東海地震対策の25年〜』では二人の動きを軸に、行政が抱える現実問題や自主防災組織の課題、また住民がどのような取り組みをしていったらよいのかを取り上げる。

 静岡県庁の防災管理室の岩田孝仁さんは地元の静岡大学理学部の地球物理学科1期生で、初めて防災対応の専門職として採用された。岩田さんは勤めはじめて約25年間となるが、地震への備えが着々と進みつつも足りない部分はたくさんあるのではないかと痛感している。7年前の阪神淡路大震災は“東海地震に襲われたらどうなるか”という具体的なイメージを防災マンたちに与えた。住宅の倒壊・火災の延焼・公共施設のダメージなど、その被害は岩田さんたちの想像をはるかに超えるものだった。

 沼津市立片浜中学校2年の高木亜理紗さんは、沼津市で開かれている地域防災対策推進指導者養成講座に通っている。亜理紗さんは、ボランティアグループNVN(沼津ボランティアネットワーク)に所属している。日頃からボランティア活動に参加しているほか、阪神淡路大震災や芸予地震の救援にも出向いた。今回の講座に参加したのも“地震がおこると聞いたので、何か自分にできることを身につけたかったから”という理由からだ。一日も休まない決心を胸にリーダーになるための勉強が始まった。地震に対する備えを、多くの人に伝えていく存在を目指しているのだ。

 これまでのやり方では、防災に進歩はない。そこで静岡県は、全国的にも珍しい形で緊急防災支援室(通称SPECT)を組織した。27人の室員は災害時に地域の県支部や市町村に出向いて防災体制の支援に向かう。アメリカの連邦緊急事態管理庁の機能をひな型に阪神淡路大震災以降に作られた。
 SPECTは「図上訓練」をトレーニングメニューに取りいれている。東海地震の発生を具体的にイメージし、実際の災害で何ができるか理解するためだ。
 加藤室長は「最新の被害想定で、火災は最大5万8千件、県内にある900台の消防車が60軒を消すこと、それは不可能だ。だから、自分の身は自分で守って欲しい」と言いきる。
 また、加藤室長は情報収集の大切さを説く。「災害状況の情報を出せるところは“助けてください”といえる力を持っている。だが、情報すら出せないところは施設が倒壊し最悪の状態になっている可能性が高いのだ」と。

 防災講座に参加して、亜理紗さんは自分の家の耐震診断をすることにした。人を助けるためには“まず自分の身を守る”ことが最も重要だと気付いたからだ。自分の家の耐震診断は、静岡県が倒壊家屋をなくそうと行なっている「TOUKAI−0作戦」の一環だ。壁の数を数えて計算する仕組みで簡単に行なうことができる。診断の結果は「専門家による診断が必要」だった。
 とりあえず、家具の転倒防止をする固定器具の据付を家族ですることにした。庭を囲うブロック塀も危険なようだ。ひたむきな亜理紗さんの姿をみて、父の清次さんも“考えてみなくては”と心を動かされたようだ。

 三島市の長伏小学校で、地域住民を対象にしたDIG(ディグ)と呼ばれる訓練が行なわれた。災害を想定して、住民たちの連携を高めるのが目的だ。ここでは住民の住んでいる地域が、東海地震が起きたらどうなるかを具体的に示していく。「液状化が起こり住宅が倒壊」「橋が崩落して通行不能」「工場から火の手が上がっている」。どの道が通れてどの道が通れない、怪我人はどこへ運ぶのか、消防は来るのか・・・。「住民に与えられた課題は限りなく重い。しかしそれが現実なのだ。訓練を主催した三島市の海野豊彦さんは住民にこう告げる。「行政もすぐには助けに来ません。だから、あなた方が、自分が助かっていたらまず家族、家族が無事だったら地域を助けなければいけないのです」。

 住民の防災への意識の風化は大きな問題だ。25年の歳月でできた「意識の空白域」を埋めなければ静岡県の防災は成り立たない。地域の人間が自分たちの住む町を災害から守るためにどうしたらいいか、自分たちで考えなければならない。自分たちのできること、行政にやってもらうことを冷静に判断し、自分でできることを見つける、それが「自己責任」を果たすことにつながるのではないだろうか。

<ディレクターのコメント>
 地震の繰り返しは、地球の年齢を人に例えてみると咳やくしゃみをするようなほんの瞬間だと地震学者は言います。しかし、東海地震防災を取材して“25年間も準備を続けることは人にとっては長すぎる”と感じました。このところ、東海地震の予知をめぐってさまざまな説が唱えられていますが、一喜一憂して地震を心配するよりも“いつ大地震が起こっても慌てない防災の基本を取得することが、最もよい準備だ”と思い番組作りを進めてきました。
 私たち静岡県民は、阪神淡路大震災を目の当たりにして“もし東海地震が起きたら郷土がどうなるか”を想像しました。その教訓を生かし、日頃から取り組むべきことがたくさんあることもわかっています。そして、実際に一歩を踏み出すことで、地震への怖れをぬぐい、立ち向かうことができると思います。
 番組をご覧になった人に“今、静岡で行なわれていること”に知っていただき、一人でも多くが“我が家の防災対策”を始めてくれればうれしく思います。
(テレビ静岡報道部 外岡哲)



<番組タイトル> 第11回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品 『空白域〜東海地震対策の25年〜』
<放送日時> 11月12日(火)26時33分〜27時28分
<スタッフ> ナレーター : 斉木しげる
プロデューサー : 佐伯 裕(テレビ静岡)、藤原一史(テレビ静岡)
ディレクター : 外岡 哲(テレビ静岡)
<制  作> テレビ静岡

2002年10月31日発行「パブペパNo.02-297」 フジテレビ広報部