FNSドキュメンタリー大賞
うら若き路上詩人の心の叫び。
それは、「自分がどんな人生を生きてきたのか」を行き交う人々に伝えたいというメッセージ。

親から虐待を受け続け傷ついた子供たち。
傷を抱えながらも何とかその悲しみを乗り越えようとする姿と彼らを献身的にケアする養護施設「浦上養育院」の職員たちの取材を通して、児童虐待の実態と、豊かな社会のひずみを訴えていく・・。

第11回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『ichigo白書〜親から傷つけられた子供たち〜』 (制作 テレビ長崎)

<11月12日(火)深夜27:28〜28:22>
 私は小さな捨て猫で本当の愛を知りません
 でも、少しだけ少しだけなら知っているから悲しくてたまりません
 部屋に響き渡る笑い声が自分を幸せにしない悲しさ


 この詩の作者は、長崎市に住むペンネーム・苺桂子さん(20歳、本名・柘植桂子)。高校生の頃から詩を作り続けている。
 去年の春、苺さんは道端でギターを抱えた青年が唄うように街中で即興で詩を披露する路上詩人として鉄橋の上に立った。ピンク色に髪を染め、カラフルなファッションで明るく笑う女の子は、いつの頃からか「苺ちゃん」と呼ばれ知られるようになった。
 そんな苺さんには、行き交う人々に伝えたいことや知ってもらいたいメッセージがあった。それは、「自分がどんな人生を生きてきたのか」ということ。

 実は、彼女は、小学校に入学した頃から高校を卒業するまでの長い間、実の父親から殴る蹴るの暴力を受け続けてきたのだ。それは、楽しさや幸せとはほど遠い少女時代・・。
 高校一年の春、苺さんはカッターナイフで自分の左手首を切った。致命傷にはならなかったが、傷口から血がにじんで床に滴り落ちるのをじっと見ていると、不思議に生きている実感が湧いてきたという。それ以来、度重なるリストカット(己の手首を傷つける自傷行為)自らの生きる証となってしまった。
 そんな苺さんは、詩を書くことで自らの心の痛みを和らげ、深い悲しみから這い上がってきたが、ある日、路上に立てなくなってしまう。一体、彼女に何が起こったのか・・。
 父親の暴力がエスカレートしていったのは、苺さんが小学5年生から中学3年生までの5年間。その間、彼女は毎日のように殴られ蹴られた。父親から暴力を振るわれるのは何故かいつも彼女1人。どんなに悲鳴をあげても母や弟が助けてくれることはなかった。
 心に深い悲しみと傷を負い、押しつぶされそうな孤独の中で、少女はどうやって大人への道を切り開いていったのだろうか? 被虐待児が急増する中で、懸命に生きる苺の姿は、同じ境遇の子供達に勇気を与えるに違いない。

 統計によると親から虐待を受けた子供の数は、1年間に1万7000人を超えている。その数は10年間でおよそ20倍になっており、年々増え続けている。親の暴力は子供たちの心に深い傷を残し、あまりの辛さに自らを傷つける子供たちも多い。
 そんな子供たちは、近所の人や民生委員の通報で児童相談所に保護され、そして県内の養護施設で生活することになる。

 長崎市の養護施設・浦上養育院では去年1年間に13人の子供たちが入所した。その理由はすべて「虐待」だった。家族に長い間、要らない子として扱われて来た子供たちが、ここに来て初めて1人の人間として温かく迎えられ、子供らしさを取り戻していく。
 カトリック系の浦上養育院では、シスターたちが被虐待児の心のケアに献身的に取り組んでいる。大人に不信感を抱き、家庭の幸せを知らない子供たちが、ここで日々を過ごすうちに次第に心を開いていく。
「この世には要らない子なんて一人もいないのよ。あなたのことが大切よ」
 そんなシスター達の信念が子供達にもう一度、大人を信じてみようと希望を与えていく・・。

 この春、浦上養育院を巣立って社会に出た18歳の女の子がいる。番組の主人公、苺さんと同じ様に幼い頃から虐待された彼女は、去年入所し、わずか9ヶ月で立ち直ることができた。
 人の優しさに初めて触れ、苦悩を癒された彼女は自分を虐待してきた母を許せるようになっていく。
「世の中にこんな風に優しくしてくれる人がいるもんなんだなぁ」と彼女は言う。

 虐待で受けた心の傷は完全に消すことはできない。しかし、その傷を抱えながらも懸命に立ち直っていく子供たち。この番組では、自分の悲しみを詩につづる苺桂子さん、そして、浦上養育院の子供たちを通して、児童虐待の実体とそれを乗り越えようとする子供たちの姿を描いていく。

 取材したテレビ長崎の清水輝子ディレクターは、「私は、今回の取材で路上詩人・苺桂子という女性と出会い、そのデリケートで壊れそうな心に触れていくうちに、彼女が孤独の中で救いを求めていた辛い体験、そして、リストカットの呪縛から逃れられない深い悲しみを知りました。彼女が背負っている傷はあまりにも深いものであったのです。『彼女は20歳になった今も、暗闇から抜け出せずに苦しみ続けている。虐待を受けた子供たちが立ち直る道はないのだろうか・・』。そんな思いから、私の目は、彼女と同じように虐待を受けたたくさんの子供たちが、職員やシスターたちの献身的なケアによって救われているカトリック系の養護施設『浦上養育院』へと向いていきました。そこにいる5歳の男の子は、ある日、不思議そうな顔をして職員にこう言ったそうです。『どうして、僕をそんなに可愛がってくれるの・・?』。私は、その話を聞いた時、涙がこぼれました。番組の最後の画面は、浦上養育院のグランドの全景から、四つ葉のクローバーにゆっくりズームインしていきます。そこには、子供たちに幸せになってほしいという願いをこめています」と語っている。

 テレビ長崎がお届けするFNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品『ichigo白書〜親から傷つけられた子供たち〜』<11月12日(火)27:28〜28:22放送>。是非、ご期待下さい。


<番組タイトル> 第11回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品 『ichigo白書〜親から傷つけられた子供たち〜』
<放送日時> 11月12日(火)27:28〜28:22
<スタッフ> プロデューサー : 山本正興
ディレクター : 清水輝子
ナレーション : 坂井真紀(女優)
撮    影 : 井上康裕
現 場 録 音 : 荒木真子
編    集 : 古川英明
<制  作> テレビ長崎

2002年10月28日発行「パブペパNo.02-292」 フジテレビ広報部