FNSドキュメンタリー大賞
東北の小さな町が発した「合併しない宣言」・・・
福島県矢祭町のささやかな抵抗から、これからの地方自治とは何かを考える

第11回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『千万人と雖も吾往かん〜平成大合併・矢祭町の選択〜』 (制作 福島テレビ)

<11月26日(火)26:33〜27:28放送>
 福島県矢祭(やまつり)町。人口は7000人あまり。茨城県と境を接する県境の町だ。名物はアユにコンニャク。山あいの、どこにでもありふれた田舎町。そのどこにでもある田舎町が、今、全国から注目を浴びている。

 平成13年10月31日。この日は町の歴史に残る日となった。町議会が全会一致で「合併しない宣言」を決議したのだ。こうした決議は、全国の市町村で初めてのことだ。
 「市町村合併は国の押し付け」「大領土主義は町民の幸せにつながらない」「独立独歩、自立できる町づくりを推進する」と宣言はうたう。以来、宣言をした矢祭町には、全国の自治体から次々と視察団がやってくる。その勇気をたたえる一方で、「合併しなくても大丈夫なの」と懸念する人たち・・・。様々な視線が矢祭町に注がれている。
 だが、誰よりも困惑したのは、国、総務省である。合併を後押しする特例法まで作り、合併推進の旗を振っていたのだから、たまったものではない。

 そして、宣言から2週間後、総務省の幹部がわざわざ矢祭町までやってきた。
 「合併ありきはダメと同じように、合併なしがすべてというのもどうなんでしょうか」と詰め寄る総務省幹部に対して、根本良一町長(64)「説得されるつもりはまったくない」と応戦。ますます意気軒昂である。
 矢祭町の根本町長は、現在、町長5期20年目。家具屋の社長からの転身である。それまで行政の経験も、政治の経験もない。だが、「町にとって合併のメリットは何もない」と言い切り、「合併しない宣言は微動だにしない」が口癖である。
 「合併して国から金をもらい、新しい事業をする必要もない。やるべきインフラ整備はすべて終わってしまった」と、これまで精魂傾けてきた町づくりに自負を持っている。
 「矢祭町は、日本の国策に反旗を翻すのかとよく言われるが、そうではない。我々が、地方自治をしっかりやることが、国を守るということ。それを違うというと異常な国になる」と、どこまでも自信満々なのである。

 総務省の市町村合併の担当者・菅原泰治さんは、合併を推進させるため全国各地を飛び回る日々だ。
 「将来の人口減少、地方分権の受け皿、厳しい財政状況を検討し議論の場を設けて欲しい」と訴える。特例法の期限を考えれば、総務省にとって今年は勝負の年だ。
 そして、菅原さんは訴える。「逆に聞きたい。合併しないで本当にやっていけるのでしょうか」とも・・・。

 一方、降ってわいたような合併騒ぎを、町民はどう見つめていたのだろうか・・・?。町一番の老舗の魚屋「魚宗」の3代目店主・石川孝光さんはかつてのにぎわいを懐かしみながら、「合併すれば、過疎に。そうじゃなくても過疎が進んでいるのだから、合併しない方がいい。商売上はなおさらだ」と話す。町が、宣言の後に行った住民アンケート調査では、町民の7割が「合併しない宣言」を支持していた。当初は住民不在の批判もあったが、結果的には町議会の決議を追認した格好となった。しかし、本当にこのままで町は生き残れるのであろうか・・・。不安がまったくないわけではない。
 国の財政難が地方交付税の減額につながるとの見方が広がる中で、典型的な3割自治の基盤の弱さは,誰が見ても明らかだ。アンケートの中でも、反対の理由として「今後の財政が心配」という理由が最も多かった。都会から永住の地を求めてやってきたニュータウンの人たちの間でも、合併論議は高まっている。
 「結局は他力本願、予算が削られるんじゃないか。合併しなくても安心という掘り下げた説明が欲しい・・・」

 町に有力な財源があるわけではない。柱となる産業があるわけでもない。すぐに思いつくのは「出を制す」けちけち作戦ぐらいだ。根本町長は、自らの給与を引き下げることにした。「合併しない宣言」を決議した議会は、議員の定数を18人から一気に8人減らし、10人とするという大胆な決断をした。そこまでしても、総務省が進める市町村合併は、矢祭町にとって何ら魅力的に映らないのである。
 新しい時代に見合った国づくりの「平成の大合併」は、全国各地で動き出している。地方分権の受け皿づくり、効率的な行政運営のために市町村の再編は欠かせないという国と、自分の町の将来は自分たちで決めるという矢祭町との間で熱い綱引きが続いている。

 番組のタイトル「千万人と雖も吾往かん」は、根本町長が今年の仕事始めで、職員に訓示した言葉である。千万人の敵がいようと、怖れることなく自ら信じた道を切り開いていこうという意味だ。番組は、東北の小さな町が発したささやかな抵抗から、これからの地方自治とは何かを考える。


<番組タイトル> 第11回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品 『千万人と雖も吾往かん〜平成大合併・矢祭町の選択〜』
<スタッフ> プロデューサー : 田村泰生(福島テレビ)
ディレクター : 仲川史也(福島テレビ)
語    り : 雁田 昇
撮    影 : 加藤宏樹(福島テレビ)
編    集 : 長瀬勝喜(福島テレビ)
<制  作> 福島テレビ

2002年10月23日発行「パブペパNo.02-288」 フジテレビ広報部