FNSドキュメンタリー大賞
寝たきり、痴呆症・・・愛情を注ぎ介護する飼い主と老犬たちとのかけがえのない絆。
老い、命、家族について、小さな命と向き合うことで見えてくるものは・・・


第11回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『家族やから 〜愛犬の老いと寄り添う〜』(制作 関西テレビ)

<6月18日(火)深夜27:05〜28:00>
一緒に散歩に行くことが出来ない犬がいます。散歩どころか、自力ではご飯を食べることも、排泄をすることも出来ない犬がいます。

 犬の平均寿命が伸び、高齢化が進んでいます。獣医学の発達や飼い主の意識の向上によって、これまでの犬の平均寿命をはるかに超え、15年、20年と長生きする犬が増えているのです。

 しかし、犬の高齢化とともに、新たな問題が出ています。老犬の「介護」の悩みです。

 年老いた犬の症状は、人間にそっくりです。白髪が生え、目や耳、そして足腰が弱ってきます。犬の世界でも、糖尿病、ガン、心臓病などが増えており、寝たきりや痴呆になることもあります。もちろん犬には公的な支援制度などは無く、介護の負担は飼い主だけに圧し掛かります。老犬が増えるにつれて、現実に介護に苦しむ家族が増えているのです。

 犬の老化は8歳くらいから始まるといわれていますが、日本で飼われている犬の3分の1以上がその8歳を超えているというデータもあります。

 大阪府吹田市に住む越智和子さんの愛犬、竜二。ポメラニアンの竜二は円らな瞳だけを見ているとまるで赤ちゃんのようですが、実際はもうすぐ17歳、人間で言うと、もう80歳以上のおじいさんです。

 竜二には足が3本しかありません。8歳のとき、散歩の帰りに家の前で交通事故にあい、瀕死の重傷を負いました。大手術を終えたとき、竜二は後ろ足を1本失い、下半身がほとんど動かない状態でした。そこから越智さんと竜二のリハビリの日々が始まります。近くの駐車場での歩行訓練。竜二は3本の足で、転びそうになりながらひたすら前に進もうとします。お尻が地面に擦れ、血だらけになるまで懸命に歩いたといいます。その甲斐あって竜二は何とか歩けるようになりました。

 しかし、そんな竜二も寄る年波に勝てず、最近また足が弱ってきました。毛はほとんど抜け落ち、首も自力で持ち上げることが出来ません。内臓の機能が弱り、獣医師からは「いつ何が起きてもおかしくない状態だ」と言われています。越智さんは、朝、お尻を揉んで排泄を助け、昼は竜二を抱えて散歩をします。夜は添い寝をし、数時間おきに起きておしっこをさせます。
「がんばって欲しいような、もういいよ、と言ってやりたいような。竜二がいなくなるとどうなるんだろうと思ったり・・・」
「もう大変。それでも、うちの子になってくれて本当にありがとうと言いたい」

そう越智さんは語ります。

 竜二は、越智さんにとって初めて飼った犬、そして、おそらくは最後の犬です。

 本当に愛らしい子犬の姿、そして元気の盛り、共に過ごす楽しさ、それに比べて年老いていく過程は時に残酷です。

 あまりに苦しむ姿を見かね、あるいは介護の負担に耐え切れず、「安楽死」という方法を選ぶ人もいます。捨てられて施設に収容される犬のうち、病気だったり、高齢だったりする犬の割合が増えているという現実もあります。

 番組では、愛犬の老いを支える家族3組を取材しました。寝たきりで全身に床ずれが出来た犬、痴呆症で毎晩夜鳴きをする犬、そしてその「老い」を懸命に支える飼い主たち。

 寝たきりや痴呆になってしまったら、人間と同じく有効な治療法などは無く、ただひたすら愛情を注ぐよりほかありません。そして、思い通りにならない体に苛立ちながらも必死に生きようとする老犬たちが、頼り、慕うのも、飼い主以外に無いのです。

 取材させていただいた老犬とその家族の間には、共に積み重ねたかけがえの無い年月と愛おしさがありました。
「何も特別なことをしているとは思わない」
「自分も年を取ってきたから何となく犬の気持ちが分かるようになってきた。老いていく不安や心細さ、家族を頼る気持ちに、犬も人間もないのかもしれません」


 取材中に聞いた飼い主の方たちの言葉です。

 「取材のきっかけは、家族が同じように老犬の介護にあたり、看取った体験をしたことでした。ついこの間まで、犬は元気に走り回っている姿が当たり前、と思っていました。しかし、年老いた犬の姿は様々なことを考えさせました。親がこうなったら、そして、自分がこうなった時・・・、人も犬も必ず老いる・・・、そんな当然のことを目の前に突きつけられ、これまで分かっているようで何も向き合っていなかったことに気付きました。『老い』ということ、命について、人間の優しさについて・・・。
 自分の家族や子供すら手にかけ、簡単に生命を奪うような事件が相次いでいます。そんな中で、小さな、けれどかけがえの無い命をもう一度見つめなおす番組が作りたい、と思いました。
 『たかが犬』と思う人がいるかもしれません。『かわいそうで見られない』という声も聞きました。
 人間なら面倒をみるけれども、犬なら放っておいてもいいのでしょうか。もちろん、ただ長生きすればいいというものでもありません。
犬の状況は、人間の世界の縮図です。そして、どんな『老い』を、『最後の日』を迎えるのか、それは一つの命を委ねられた人間の心に掛かっているのです」


 取材を担当した高島公美ディレクターはこのように語っている。

<番組タイトル> 第11回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品 『家族やから 〜愛犬の老いと寄り添う〜』
<放送日時> 6月18日(火)深夜27:05〜28:00
<スタッフ> ナレーター : 田中好子(フォー・エイト)
プロデューサー : 下室二郎(関西テレビ放送 報道スポーツ局 番組制作部)
ディレクター : 高島公美(関西テレビ放送 報道スポーツ局 番組制作部)
撮    影 : 栗山和久(関西テレビ放送 報道スポーツ局 撮影取材部)
編    集 : 野上隆司(関西テレビ放送 映像編集局  編集部)
効    果 : 森 道子(テレコープ)

2002年6月4日発行「パブペパNo.02-141」 フジテレビ広報部