FNSドキュメンタリー大賞
自らもガンに蝕まれながら、 ホスピスの浸透に尽力したり、 同じ癌患者の心の支えとして、 精力的に活動し
「自分らしく生きる」ことを最後まで全うした、 あるガン患者の およそ11ヵ月間に及ぶ“生命”の記録


第11回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『心のままに―あるガン患者の生き方』(制作 北海道文化放送)

<6月11日(火)深夜27:05〜28:00>

「生きるとは、一瞬一瞬を楽しみ、悔いなく大切に過ごすこと。普段、当たり前と思って過ごしてきた生活を当たり前に続けられるのは、実はとても幸せなこと。普通の生活を最後まで自分らしく、一生懸命、文字通り命を懸けて生ききりたい」

 平成13年8月27日、食道ガンで53年の生涯を終えた小野寺哲雄さんが生前家族にも自分にも言い続けた言葉である。ガン再発から10ヵ月目、自分らしく生きたいとの思いから治療方針も自分で選択し、最後は家で死にたいという希望通り、自宅で家族に囲まれて、穏やかな死を迎えた。

 4人に1人がガンで亡くなるといわれている現在、いつ自分がガンになるかわからない。その時、誰もが小野寺さんのように生をあきらめることなく最後の瞬間まで自分らしく生ききれるのだろか・・・。

 本田ディレクターが小野寺さんと会ったのは、平成12年10月。小野寺さんにとっては5年前に治療した食道ガンが再発した時のことだった。その時のことを思い起こし本田ディレクターはこのように語る。

 「自分の生きざまを最後まで残したい、という申し出で始まった取材。入社して半年、社会人としてスタートを切ったばかりの私に、“23歳の女の子に私の人生がわかるかな。傷つくのはあなた。本当に覚悟が出来ているのか・・・”と強烈な一言。確かに、人の生き死にという重大なテーマに私は向き合うことが出来るのか? 分からないこと、不安なことだらけでした。しかし、迷いながら、ぼろぼろになりながらも、番組を作ることができたのは、取材をすればするほどきつい、怖いと思っていた小野寺さんの、優しさ、懐の広さを実感することが出来たからだと思います」

 再発によって余命半年と宣告されながらもガンと闘い続けた小野寺さんは、僧侶という職業につきながら、ひとつの大きな夢を抱いていた。それは、今の末期ガンケアやホスピスに欠けているものを自分で作り出そうというもの。小野寺さんは、死の不安に直面するガン患者とその心のケアの現状を何度も目の当たりにして疑問を抱き続けていた。

 ガンとの闘いで患者はまず心をやられてしまう。そのことを身をもって知った小野寺さんが、まず考えたのは「ガン患者の心を解き放つ富士山への旅」。病気だからといって家に引きこもっている必要はない、悩みを分かちあえる友と普通の生活をしようという気持ちからの企画であった。11人のガン患者と家族、そしてボランティアの33人が参加。抗がん剤を投与しての旅であったが小野寺さんは旅の成功を確信していた。

 旅の終わりの大宴会で小野寺さんが歌った「同期の桜」には、一緒に富士山を見に行こうと約束し、願いがかなわなかった患者仲間への思いが込められていた。

 もう一つ小野寺さんが手がけたのは、ガン患者のための「いやしの里」づくり。

 札幌から北へ1時間半のところにある赤平市。ここに、末期ガンや難病に苦しむ人の孤独を救えるのは結局“人と自然”しかないという小野寺さんの考えにより、様々な人の協力を得て、「いやしの里」が生まれた。農園用の土地は有志が提供してくれ、ビニールハウスのトウモロコシも芽を出した。小野寺さんの夢はどこまでも膨らむ。

 「温泉があります、宿泊施設があります、治療施設がありますってなってくれるとね・・・」
踏み出したのは小さな一歩。でも、それはこの国の将来につながる一歩。小野寺さんはさらに、支援の輪が広がることを期待していた。

 小野寺さんの自由奔放な生き方に、時には周りの人々が振り回されることもあった。静かに見守る美香子夫人の姿には目がとまる。小野寺さんの「死を前にして」という、講演に「多分私、主人が死なないと思っていたと思う。・・・私が一番、納得してなかったんだと思う・・・」と語る夫人。小野寺さんが自分の身体が日々、ガンに蝕まれていくことを感じながらも、最後まで、「自分らしく生きる」ことを全うできたのは、美香子夫人と2人の息子さんの、大きな支えと苦しみがあってこそのこと。ガンとの闘いは、本人とそして間違いなくその家族の闘いでもあった。

 小野寺さんの生き方はとても衝撃的で、見事なものだった。生と死。生きることの意味。会う人のすべてにその難問を問いかけてきた。取材を終えた本田ディレクターは
「“心のままに”の取材は楽しくもあり、つらくもあり本当に、様々な思いの残るものでした。そして、小野寺さんには、感謝してもしきれないほどたくさんのことを教えていただきました。小野寺さんの生き方を映像に残し伝えることで普通に生きられることが、どんなに幸せなことか改めて考えてほしい。人を殺してみたかったなどという、理不尽な動機で簡単に命が奪われる今。倫理観、死生観がどんどん崩れていくことに不安を覚える時代。こんな時代だからこそ、この作品を見てくださる人たちすべてに、“命の尊さ”“自分の意志一つでこんなに精力的に生きることができる”ということを感じてほしいと思っています。この作品を小野寺さん自身が見ることが出来ないからこそ、全身全霊、思いを込めてつくりました。どんな些細なことでも構いません、共感し何かを考えるきっかけになってくれればと願っています」
と語った。


<番組タイトル> 第11回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品『心のままに―あるガン患者の生き方』
<放送日時> 6月11日(火)深夜27:05〜28:00
<スタッフ> プロデューサー: 細谷哲男(UHB報道部)
ディレクター : 本田優子(UHB報道部)
構     成: 高橋 修(フリー)
ナレーション : 本田優子(UHB報道部)
撮     影: 宮崎俊彦(ユープロダクション)
編     集: 堀  威(ノーステレビスタッフ)
<著作・制作> 北海道文化放送

2002年6月3日発行「パブペパNo.02-138」 フジテレビ広報部