FNSドキュメンタリー大賞
剪定・ゴミ出し・机の修理、そして花壇の手入れ…
学校を守りつつ、こどもたちの心を癒すという役割も担ってきた「用務員」さんたちに押し寄せる“人減らし”の波…

第10回FNSドキュメンタリー大賞受賞作品
『こちら用務員室 〜教育現場の忘れ物〜』 (制作 テレビ静岡)

『決定!第10回FNSドキュメンタリー大賞』 で上記作品をノーカットで紹介!!

<2002年1月27日(日)午後4:00〜5:25>
 「FNS各局がそれぞれの視点で切り取った28通りの日本の断面」「FNSの良心」というキャッチフレーズもすっかり定着したFNSドキュメンタリー大賞も今回で10回目を迎えることになった。今回も各局が取材・制作した様々な分野のドキュメンタリー28作品がノミネートされ、昨年12月までにすべての作品が放送された。そして去年12月12日に審査会が開かれ、テレビ静岡が制作した『こちら用務員室 〜教育現場の忘れ物〜』が見事グランプリに輝いた。そして、このグランプリ受賞作品は1月27日(日)午後4時から『決定!第10回FNSドキュメンタリー大賞』の中で全編放送されることになった。

 この作品は、静岡市内の小学校に勤める2人の用務員さんの日々の仕事ぶりに密着。行動が多動な新1年生、不登校気味のこども、転入してきたばかりで友達ができないこどもたちとの関わりだけでなく、悩む先生を手助けする様子を通して、学校の中で、先生ではない立場でこどもを見守る第三者が必要な理由、そして学校の中にも逃げ場所が必要な理由を淡々と伝えるドキュメンタリーだ。
 その昔、“小使いさん”と呼ばれた用務員は住み込みだったため、必ず学校にいてくれた。親が仕事で帰りが遅かったりすると、よく用務員さんの家に行き、先生に話せない悩みを聞いてもらった記憶のある方も多いのではないだろうか…。

 この番組を取材した橋本真理子ディレクター(31)もそんな用務員さんにお世話になった児童の1人だったという。
 「今回このテーマを選んだのは、実家に帰った時に小学校の用務員さんに再会したことがきっかけでした。一人っ子の私は、帰っても両親が仕事で留守のため、よく用務員さんの家に遊びに行き、たわいもない話をしたり、お菓子を貰ったり、時には宿題を教えてもらったりしました。私の出身地は田舎だったため、まだ用務員さんは家族で住み込んでいました。あれから20年。私の記憶の中から、用務員さんとの思い出が薄れようとしていた矢先、用務員さんが私のことを覚えていて、声をかけてくれたんです。これをきっかけにして、今、用務員さんたちはどうしているんだろうか?と考えるようになり、取材を始めることにしたんです」と橋本ディレクターは話す。

 そして実際に取材を始めてみると様々なことがわかってきた。その1つは、最近は経費削減から、住み込みの用務員はほとんどいなくなり、他県では、派遣会社に仕事を依頼したり、全く用務員を配置しない自治体も出てきているということ。
 そしてもう1つは、用務員だからやれること、用務員でなければできないことがある、ということだ。無人の学校に入り、門や校舎のカギを開け、やかんで湯を沸かしゴミを回収する。雑用に見えるが、用務員はこどもたちの心の支えになってくれた。用務員がいてくれれば、学校の窓ガラスがバリバリ割れる事件はここまで増えなかったのではないか?その存在の変化を見届けるべく、橋本記者の取材が始まった…。

 静岡市立城北小学校に開校から勤務する佐々木健治(ささき・けんじ)さん(54歳:用務員暦26年のベテラン)と、相棒の杉山敏郎(すぎやま・としろう)さん(50歳:6年前、給食センターの調理員から用務員に転向した)の2人。
 剪定・ゴミ出し・机の修理…仕事は多種多様で、先生やこどもから依頼があればすぐに飛んで行く。本来、用務員は、「縁の下の力持ち」という存在で、記憶に残っている人は少ないのが一般的だが、この2人を知る子供は多い。そして、教師も「用務員室に来れば、本当のこどもの姿が分かる」と話す。
 佐々木さんと杉山さんのいる用務員室には、多くのこどもたちが遊びに来る。卒業生が置いていったハムスターは女の子の人気の的だ。わいわい騒ぎ、佐々木さんに抱きついてくるこどももいる。2人は先生と違って怒らない。こどもたちにとって用務員室という空間は、居心地のいい場所だった。
 「こどもたちも鬱憤がたまることがある。だからあまり怒れない…」と佐々木さんは話す。
 用務員室には、ただ遊びに来るこどもばかりではない。転校してきたばかりでクラスになじめないこどもや不登校気味のこどもも来る。佐々木さんと杉山さんは、こどもたちが入学した頃から見守り続け、どんな風に成長し、どんな性格なのかよく知っているため、クラスを抜け出してしまった場合は、用務員室で預かっている。先生も、無理矢理クラスに帰そうとはせず、気分が落ち着いたら帰ってくればいいと考えている。

 しかし、今用務員は、削減される方向にある。自治体は財政難から、仕事が単調と見られている用務員・清掃員・給食調理員といった現業労働者(市の職員)を、経費の安い民間委託に切り替えようとしているのだ。確かに、佐々木さん・杉山さんのように、必死でこどもと関わろうとしている用務員ばかりではない。このままでいけば知らない間に、用務員は将来、いなくなるかもしれない。浜松市職員組合が行った市民アンケートでは、3割の市民が、用務員や給食調理員を民間委託にすべきと答えている。その理由は税金の無駄遣いだから。用務員が消えていく…。用務員が背中で伝えてきた「物の大切さ」は誰が今後教えていくのだろうか?授業だけでそれが伝わるのだろうか?
 佐々木さん・杉山さんも、「人減らし」の危機感は十分肌で感じていた。このままではいけない…2人は、必死にこどもと、そして先生と関わり、自分たちが生きる場所を探している。授業の手助けはできないか?こどもが飛び出したら、先生の負担を少なくする方法はないか?自分たちは教師ではなく素人だけど、花・木のことはよく分かる。単なる話し相手にはなれる。持っている知識をそっと伝えようと動き出した。学校の脇役として。みんなで学校を作るんだ、と…。

 番組の見どころについて橋本ディレクターは、
「用務員さんという第三者の目を通して、今、学校が様々な問題を抱え、それに対応する先生がいかに大変かを知りました。そして、不登校一歩手前のこどもが、教室には行けなくても用務員室に来て、新聞紙を縛ったり、ペンキ塗りを必死にやっている姿を見て、もうひとつの教室がここにはあると思いました。授業で学べない、生きた道徳がここにはあるんです。学校に来れるってすばらしい!ということを番組をご覧になって感じていただければと思います」と話している。


ところで、FNSドキュメンタリー大賞は、今年で10回目という大きな節目を迎えた。今年度は、そういった意味で受賞作品にある現象がみられた。グランプリ受賞作品の『こちら用務員室 〜教育現場の忘れ物〜』(テレビ静岡)を始め、準大賞、特別賞、審査員感動賞の計8作品の中で4作品が、女性ディレクターによる作品だった。
 4作品のテーマは、教育、ゴミ行政、在日外国人、命の尊厳と分野は様々。各作品とも粘り強い取材に裏付けられた力強さを感じさせる。そして、どことなく繊細さを感じさせる。
 ドキュメンタリーというジャンルが、よりメジャーな番組として、視聴者に身近なものとなるための布石が、実は“彼女たちの視点”なのかも知れない。
 フジテレビでは、1月27日(日)午後4:00〜5:25放送の『決定!第10回FNSドキュメンタリー大賞』で、受賞8作品の中からグランプリを受賞した『こちら用務員室 〜教育現場の忘れ物〜』(テレビ静岡)をノーカットで全編放送、準大賞をダイジェストで紹介する。

 また今回は、八木亜希子がナビゲーター役として、グランプリ作品の舞台となった静岡市の城北小学校を橋本真理子ディレクターとともに訪れる
 そして用務員と子供たちの関わりを例に、今、何が学校教育に欠けているのかという点について橋本ディレクターにインタビューする。実は彼女、今回の出品は3度目で第8回から3年連続で教育をテーマにドキュメンタリーを制作してきた。今回のグランプリ受賞作品は“教育3部作”のいわば完結だったといえる。
 橋本ディレクターと共に取材にあたった杉本カメラマンも実は女性。2人は高校時代の同級生でもあり、日頃のニュース取材でもコンビを組むことが多い。用務員問題をニュース番組内で度々取り上げたのがきっかけで、撮り貯めたテープ約250本を今回まとめ上げた。
 2人で城北小学校に通った回数は、半年間で100回以上にも上る。杉本カメラマンは、用務員さんの目線になりきって子供たちを撮影したという。

 番組では、女性ディレクターの作品が持つ特徴についても考える。
 また、第1回からFNSドキュメンタリー大賞の審査員をしている毎日新聞学芸部の荻野祥三編集委員が、これまでの出品作品を総括。今回から新設された審査員感動賞についても触れる。

 グランプリを受賞した作品をノーカットで放送する『決定!第10回FNSドキュメンタリー大賞』<1月27日(日)午後4:00〜5:25放送>にご期待下さい!


<第10回FNSドキュメンタリー大賞グランプリ受賞作品>
『こちら用務員室 〜教育現場の忘れ物〜』
<スタッフ> プロデューサー : 山田通夫、小林幹雄
取 材・構 成 : 橋本真理子
撮    影 : 杉本真弓
ナレーション : 左 とん平
<制 作> テレビ静岡

なお、上記作品が放送される番組タイトル及びスタッフは以下の通り。
<番組タイトル> 『決定!第10回FNSドキュメンタリー大賞』
<放送日時> 1月27日(日)午後4:00〜5:25
<スタッフ> ナビゲーター : 八木亜希子
プロデューサー : 味谷和哉(フジテレビ情報2部)
ディレクター : 森 憲一(フジテレビ情報2部)
<制 作> フジテレビ情報2部

2002年1月18日発行「パブペパNo.02-015」 フジテレビ広報部