FNSドキュメンタリー大賞

第10回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『甦るか!カブトガニ 〜瀬戸内海10年の軌跡〜』 (制作 岡山放送)

<10月17日(水)深夜26:55〜27:50>
 「生きている化石」といわれ岡山県笠岡市では天然記念物に指定されているカブトガニ。2億5000万年前からその姿を変えず、氷河期をも乗り越えしたたかに生きてきました。
 カブトガニは三葉虫を祖先とし、生物学的にはカニではなく、蜘蛛やサソリの仲間です。カブトガニが誕生した時、地球はまだ大陸が一つの時代(パンゲア)で、その後大陸の移動に従い、カブトガニもアメリカの東海岸に1種類、東アジアに3種類が生息するようになりました。 瀬戸内海は日付変更線を基準に考えると、世界で最も東のカブトガニ生息地ということになります。カブトガニは7月、8月の大潮の満潮時に産卵のためにつがいで砂浜へやって来ます。しかし、それ以外の時は海の中に潜んで人間の前に姿を現すことはありません。それだけに、カブトガニの生態はまだまだ解明されていない部分が多く残されています。
 その瀬戸内海のカブトガニに10年前、異変が見つかりました。メスの体内で卵が溶けて形が崩れていたのです。そして、人工授精で僅かに孵化した幼生には多くの奇形が発生しました。
 その翌年、事態はさらに深刻化していました。カブトガニのメスは生きている状態で内蔵が腐敗し、もう卵さえ作れなくなっていました。その原因は、水銀や鉛などの重金属や環境ホルモンによる海の汚染でした。卵が作れないということはすなわち種の滅亡を意味しています。そして、2億5000万年も生き続けて来た化石生物が滅びることは、我々人間にとっても計り知れない程の大きな意味を持っています。
岡山放送ではこの異変を1993年に『絶滅!瀬戸内カブトガニに何が起こったか』という番組で放送し、警鐘を鳴らしました。

 あれから10年、瀬戸内海のカブトガニはどうなったのでしょうか?環境問題がクローズアップされる時代になり、人々も環境保護に関心を持つようになりました。社会基盤の整備や法的規制も環境を重視するようになりました。そして、それにより瀬戸内海の汚染は回復されたのでしょうか?今回、環境のバロメーターともいわれるカブトガニの実態を追跡取材することで、瀬戸内海の環境を様々な角度から改めて検証しました。
 その取材中にはこんなこともありました。それは、カブトガニを30年間研究し続け、今回番組のナビゲーター役を務めた静岡大学の伊藤富夫(いとう・とみお)教授をも興奮状態にさせる出来事でした。何かと言えば、既に絶滅寸前と思われていた山口湾で、一度に4つがいもの産卵を目撃できたこと。そして生息地とは全く考えられていなかった岡山県日生町の瀬戸内海でカブトガニが捕獲されたことでした。特に日生町での出来事は今世紀、世界で最も東のカブトガニ生息地が新たに確認されたという大発見となりました。制作スタッフいわく「神風が吹いた!」。まさにそんな出来事でした。

 さて、問題の瀬戸内海の環境はどうなったのか?という点ですが、今回の調査の結果、水質・泥質ともに回復傾向にあることがわかりました。これは喜ばしいことでした。しかし、その一方でカブトガニの産卵場所となる砂浜や幼生の住処となる干潟が 護岸工事や干拓によって失われ続けているのです。つまり、カブトガニがいまだ絶滅への道を歩み続けていることに変わりはありません。
 取材を担当した岡山放送の塚下一男ディレクター
「伊藤教授の研究によって、カブトガニには海の汚染物質を食べて、体の中でそれを浄化する機能を持っていることがわかりました。つまりカブトガニは身を挺して海の回復に貢献してきたのです。そんな貴重な生物を我々人間が絶滅に追い込んでしまっていいのでしょうか? その意味の重大性を少しでも考えて頂ければと思っています」と語っています。

 2億5000万年にわたる気の遠くなる歳月を、原始的な形態を残しながら生き続けてきたカブトガニ。人類が地球上に現れるはるか前から生息していたこの貴重な生き物を、われわれの代で絶滅させることなどあっていいはずがありません。


<番組タイトル> 第10回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品 『甦るか!カブトガニ 〜瀬戸内海10年の軌跡〜』
<放送日時> 10月17日(水)深夜26:55〜27:50
<スタッフ> ナレーター : 横内 正(俳優)、久保さち子(岡山放送報道部アナウンサー)
プロデューサー : 草野正史(岡山放送報道局次長)、平岡磨紀子(株式会社ドキュメンタリー工房)
ディレクター : 塚下一男(岡山放送報道局情報番組部副課長)、河野久美子(株式会社ドキュメンタリー工房)
撮 影・編 集 : 山崎 誠(OHKエンタープライズ)、福場脩夫(株式会社パンプキン)
音    楽 : 奥村 貢(株式会社貢ミュージック)
<制 作> 岡山放送

2001年10月4日発行「パブペパNo.01-341」 フジテレビ広報部