FNSドキュメンタリー大賞
あえて富士山登山に挑むガン患者たち
患者たちの生きがいとは…


第10回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『ただいまガンと同居中〜ひいらぎの会からのメッセージ〜』 (制作 福島テレビ)

<9月30日(水)深夜26:40〜27:35>
 もしも「ガン」と告知されたらあなたはそれをどう受け止めるだろうか?

 福島県にガンと真正面に向きあうガン患者グループがある。会の名は「ひいらぎの会」。7年前に発足し現在会員は330人、福岡から岩手まで全国にその輪が広がっている。会では2000年夏、富士登山に挑戦した。あえて日本一の山に挑むことで病気を克服したい、登山には「生きることへの勇気」をつかもうとするガン患者の熱い思いが込められていた。
 今の日本の医療は特に手術後の患者へのフォローが、ややもすると欠けているといわれている。常に再発の不安を抱える患者の心のケアはもっとも重要な課題だ。「ひいらぎの会」は医療と患者との隙間を埋める役目を担っている。会では定期的に会員同士が集まり、お互いの悩みを打ち明けながら一緒に病気と闘いつづけている。ガンと宣言された時、会員たちはどうやって死の恐怖を乗り越えたのだろうか?そして富士山の山頂で手にしたものとは一体なんだったのか?登山をきっかけにガン患者の心の奥底を覗いてみたくなり取材が始まった。

 福島市に住む門馬恭子さん(50)は、3年前に子宮ガンの手術を受けた。門馬さんは診療所で働く看護婦だ。自分も病気になり絶望の淵に立たされたことで、患者の心の内が良く見えるようになったと言う。門場さんは富士登山に代わる次の目標を立てた。大学の卒業資格を取ることだ。去年、通信制の大学に入学し猛勉強を始めた。門馬さんをそこまで駆り立てるものとは一体なんなのか?
 「富士登山はあくまでも通過点。簡単ではないけれど、頑張れば達成できる目標を持ちつづけたい。病気になってはじめて限りある命の大切さに気付いた」と門馬さんは話す。
 一方で、富士登山を終えた後ガンを再発した会員もいる。福島県東和町の遠藤久美子さん(49)。遠藤さんは8年前に乳ガンの手術を受けた。「病気は山頂に置いてきた」と思った矢先、骨への移転が見つかった。再び押し寄せる死の恐怖の中、富士登山での「ある出会い」が遠藤さんの闘病生活を支えている。遠藤さんが富士登山で得た「大切な宝物」とは一体?新たな目標に向かって進む会員、あるいは現在も入退院を繰り返す会員…。
 番組では、富士登山の感激を胸にそれぞれの人生を必死で生きている会員たちの今を追いかけた。

 さらに番組では、目標を持つことが体にどういった影響を与えるのか?というテーマについても探ってみた。岡山県の柴田病院の医師、伊丹仁朗氏は驚くことに「笑ったり生きがいを持つと体内にあるナチュラル・キラー細胞が活性化しガンに対する攻撃力がアップする」と証言する。「病は気から」という言い伝えは医学的に見ても実証されつつあることが分かった。このことはガン患者のみならず私たちにも生きることへのヒントを与えてくれそうだ。

 ひいらぎの会が発足して7年、「病気を悔しがらず、怖がらず、諭しみながら克服の道を拓こう!」。これは会員共通の合い言葉だ。  「ただいまガンと同居中」という番組のタイトルには、病気と闘うというよりも病気を受け入れガンと一緒に人生を歩んでいこうとする会員たちの思いが込められている。
 会の代表、小形武さんは10年前に進行性の胃がんを患った。孤独な闘病生活の末、同じ病気を抱える仲間の輪を作ろうと会を発足させた。これまでの歩みを振り返り小形さんは「ガンになって人の心や痛みが分かるようになった。今はガンになってかえって良かったとさえ思える」と言い切る。病気を前向きに捉えるこのプラス思考こそ「ひいらぎの会」の活動の原点になっている。そしてこの夏、会員たちは今度は岩手県の早池峰山に登山に出かけた。「生きる証」を得ようと挑戦が続いている。
 番組を通して感じられることは「与えられた命をただ精一杯生きたい」という会員一人一人の切実で、なおかつ力強いメッセージだ。殺伐として無味乾燥とも言える現代社会にあって、ガン患者の明日に向かう姿を映し出したこの番組が「生きることの素晴らしさ」を語りかけるきっかけになればと考える。


<番組タイトル> 第10回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品 『ただいまガンと同居中〜ひいらぎの会からのメッセージ〜』
<放送日時> 9月30日(日)深夜26:40〜27:35
<スタッフ> プロデューサー : 田村泰生
ディレクター : 遠藤 衛
ナレーター : 向井佐都子
撮    影 : 安部寛人、鈴木久善、高橋信宏、中村美樹子
編    集 : 長瀬勝喜
<制 作> 福島テレビ

2001年9月12日発行「パブペパNo.01-309」 フジテレビ広報部