「大きくなりたい!」
軟骨無形成症という難病と闘う頑張り屋さんの蛍ちゃん
背が低いのも、手が短いのも、蛍ちゃんの個性だ!
第10回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『「蛍ちゃんが行く!」〜軟骨無形成症なんか、ぶっ飛ばせ〜』 (制作 仙台放送)
<9月5日(水)深夜27:05〜28:00>
「いろんな人がいるの!」
友達の前で堂々とそう話せる小さな女の子がいます。名前は佐々木蛍(けい)ちゃん(6)。この春、仙台市内の小学校に入学しました。本人はもちろん、家族も不安を感じながらもずっと楽しみにしていたことです。
不安。それは蛍ちゃんの病気、「軟骨無形成症」のためです。
手足が極端に短く背が大きくならない、いわゆる「小人症」の症状を呈する骨の病気。遺伝子の突然変異によるといわれ、発症の割合は2万人に1人。成人しても身長120〜140cmほどにしかならず、国の「小児慢性特定疾患」治療研究事業の対象になっている難病です。
蛍ちゃんの病気が分かったのはお母さんの和子(わこ)さんが妊娠8ヶ月の時。長女の唯ちゃん(11)には何の異常もないだけに、ショックはひとしおでした。出産自体も危ぶまれましたが、夫・正さんの励ましもあり、蛍ちゃんは元気に生まれてきました。蛍と書いて「けい」。「夏でも冬でも輝いて欲しい」という願いが込められています。しかし、将来のことを考えるとお母さんは素直に喜べなかったと言います。
「知能に問題がないから、学校へ行っていじめられても全部自分で受け止めなくちゃいけない。そんなのかわいそう」
不憫に思う気持ちばかりが募ったと言います。それでも、明るく朗らかな蛍ちゃんと一緒にいるうちに考えが変わってきました。
「背が低いのも、手が短いのも、蛍ちゃんの個性かな」と。
病気のため、蛍ちゃんの背丈はまだ90cmほど。6歳の女の子の平均身長は112〜118cm。まだ小さな小学校1年生の中でも、頭一つ小さい蛍ちゃん。手足も短いため、ドアを開ける時、トイレを使う時などほかの子には何でもないことで苦労することもたくさんあります。
両親にとっても大変なことはたくさんありました。成長そのものもゆっくりで首がすわったのは生後6ヶ月を過ぎたころ。ようやく歩き始めたのは2歳半を過ぎたころでした。幼稚園に入る時にも病気を理由にたくさんの幼稚園から断られました。ようやく受け入れてくれる幼稚園に出会った時は、すでに5月になっていました。
蛍ちゃんは今、仙台市内の病院で成長ホルモン剤による治療を受けています。病気の合併症として頭の内部で延髄の周囲が狭くなっていることも分かりました。呼吸機能に支障を来たす恐れもあり、脳神経外科で定期的に様子を見続けなければなりません。
「軟骨無形成症」という病気は「小児慢性特定疾患」の対象となっています。治療が長期にわたり、その費用も莫大なものになる難病について、医療保険の自己負担分を公費で賄う制度。軟骨無形成症は20歳まではその治療にかかる医療費の自己負担をせずに済みます。その一方で、制度上の「障害者」と認定されるケースは多くありません。「障害者と認定され、保障を受けて生活することが本人にとって幸せかどうか」の議論はあります。障害者の認定を受けない方がいいのかもしれません。しかし、「将来の保証」に不安はつきまといます。
それでも、蛍ちゃんは病気になんか負けていません。
頑張り屋さんの蛍ちゃんは持ち前の明るさでみんなと同じようになんでも挑戦します。そんな蛍ちゃんと、周囲の友達も自然に付き合い、一緒に遊んでいます。「大きくなりたい!」気持ちは人一倍強いから、毎晩お母さんが打ってくれる成長ホルモンの注射も嫌がりません。牛乳も毎日欠かさず飲んでいます。その効果もあって、身長は少しずつ大きくなってきました。大きくなってできることが増える度、蛍ちゃんはどんどん自信が湧いてくるのです。
菊地章博ディレクター(仙台放送制作部)は蛍ちゃんを「おませな女の子」だと言います。
「幼稚園から小学校への約1年、蛍ちゃんと過ごしたのですが、彼女は如実に大きくなりました。身体はもちろんですが、特に気持ちの上で。元々おませなお子さんでしたが、最近は何でもやりたがる、仕切りたがる。友達の中でもリーダーシップをとる“番長”タイプです。1年を通じて付き合ってきた我々クルーは、今や完全に彼女の“手下”です」
「この子が生活していくためには、何よりこの子(の存在)が認められなくては」と考えていたお父さんとお母さん。去年の4月、お母さんは「うちの娘を取材してください」と仙台放送に電話をかけている。これが、菊地Dと蛍ちゃんとの出会いのきかっかけとなった。
「たまたまその時部屋いた私が電話を受けたんです。その時のお母さんの電話には“子を思う母の気持ち”がたくさん詰まっていました。でも、電話で説明を受けてもどうにも蛍ちゃんのイメージが湧かない。一度会ってみたいと思いました。初めて会った時の印象はただ一言“かわいいな”と。ほかの子と変わったところがあるのかさえ、気づきませんでした。ところが幼稚園に行ってみてその差がすごいことに気づきました。頭ひとつ小さいということは、同じレベルのことをするのが非常に困難だというのが良く分かります。蛍ちゃんは、同じ年の子と同じことをするのに、ハンディがあるのです。にもかかわらず、とても明るく、魅力的なお子さんでした。周囲もごく自然に付き合っていたのが印象的で、最初からそういうものだと思っていればバリアってないんだなと思った程でした」と、出会った頃の印象を語る。
「もしあの時私が部屋にいなかったら、別の担当者が出ていたら、どうなっていたかなぁ…と思う時もあります」という菊地D。テレビに託された思いを全身で受け止めたと言える。
幼稚園卒園、小学校入学という大きな環境の変化。不安を抱えながらも期待に胸を膨らませる蛍ちゃんの1年とカメラは同じ時間を過ごしました。刻まれているのは蛍ちゃんの成長ぶり、彼女の病気を一緒に克服しようとする家族の姿、日常の生活ぶり、そして蛍ちゃんの笑顔。番組はそれらを通して「障害」とは何か、そして「個性」という言葉を私たちはどのように受け止め、様々な「個性」と一緒にどのように過ごすことが求められるのかを考えます。
<番組タイトル> |
第10回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品 『「蛍ちゃんが行く!」〜軟骨無形成症なんか、ぶっ飛ばせ〜』 |
<放送日時> |
9月5日(水)深夜27:05〜28:00 |
<スタッフ> |
ナレーション : 山本圭子(青ニプロダクション)
プロデューサー : 吉田荘一郎(仙台放送制作部)
ディレクター : 菊地章博(仙台放送制作部)
C A M : 渡辺勝見(REC)
A U D : 高橋勝彦(REC)
E D I T : 伊藤浩二(仙台放送取材映像センター)
M A : 宮澤志友(仙台放送映像技術部)
C G : 菊地新市、小野寺貴文(共に、仙台放送取材映像センター) |
<制 作> |
仙台放送 |
2001年8月15日発行「パブペパNo.01-284」 フジテレビ広報部
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