FNSドキュメンタリー大賞
「想像の中で私は三味線を爪弾く。その旋律は夜の海へ。そして、沖縄の島の過ぎていった過去へと流れて行く・・・」
激動の時代を生き、帰郷もままならず名もなく消えていった沖縄移民運命に翻弄された移住者たちの歴史を辿る

第10回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『キューバ沖縄移民・家族の系譜』 (制作 沖縄テレビ)

<5月9日(水)深夜26:55〜27:50>
 日本の中でも有数の移民県・沖縄。20世紀初め、多くの人たちが貧しい狭隘な島を後にし、出稼ぎ目的の移民としてハワイや南米へと旅立って行った。1940年までの移民の総数は人口の1割に相当する7万人に達した。
 現代から考えると意外なことだが、カリブ海に浮かぶ島キューバにも沖縄の移民たちは足跡を印している。今世紀初めから1930年代にかけて200人が砂糖景気にわく熱帯の大地に渡った。しかし、第二次世界大戦やキューバ革命など歴史の荒波に翻弄され、その事実はほとんど知られていない。40年を超える社会主義体制の下で、沖縄の家族や親族との交流も途絶えている。時の流れのなかで沖縄出身の一世も亡くなり、キューバ沖縄移民の実態は忘却の彼方へと追いやられようとしている。

 5月9日(水)放送の第10回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品『キューバ沖縄移民・家族の系譜』(制作 沖縄テレビ)は、沖縄の歴史の知られざる一面にスポットを当てる。
 沖縄テレビの前原信一ディレクターは、
「実は15年前から世界各国に出ていった沖縄の移民の番組を作り続けています。現在、海外の沖縄系の人たちは30万人。日系全体の13パーセントを占め、日本のなかでも有数の移民県なのである。5年に一度は世界のウチナーンチュ大会が開かれるなど、海外にいる沖縄県系人に対する関心が高いのです」と説明してくれた。今回の作品は日頃の地道な取材活動の集大成といえるものだ。

 キューバの離島、「青年の島」に住む沖縄系二世のベニータ・伊波さん。ベニータさんは一度も帰郷することなく亡くなった両親の思い出を文章にして書き残そうと決意した。沖縄からキューバへ渡った移民については、事実そのものがあまり知られていない。ベニータさんはキューバ各地にいる二世や三世にも呼びかけ、それぞれの家族史を送ってくれるよう依頼した。伊波さんは自らの家族史とキューバ各地の沖縄系の家族史を一つの本にまとめた。本のタイトルは『三味線』。沖縄の伝統的な楽器、三味線を弾きながらノスタルジーに浸っていた父親の追憶から題に選んだ。

 家族史をまとめたベニータ・伊波さんには『三味線』を沖縄にいる兄弟にぜひ読んで欲しいという希望があった。実はベニータさんの両親は沖縄に5人の子供をのこしたままキューバに渡った。金を稼いだらすぐに沖縄に戻るつもりでいたが大戦やキューバ革命で帰郷はままならず、沖縄との連絡も途絶えた。5人のうち3人は結核で若くして亡くなり、健在なのは末っ子だった伊波正一さん一人で、沖縄本島石川市に住んでいる。
 ベニータさんは2000年8月、青年の島を訪れた沖縄テレビの前原信一ディレクターに『三味線』を正一さんに渡して欲しいと頼んだ。前原ディレクターは『三味線』を読んだ正一さんのリアクションが番組の重要なポイントになると考えていた。翻訳には3ヶ月がかかった。作業が終わった前原ディレクターは早速正一さんと連絡をとった。ところが思いがけない返事が返ってきた。
「自分は3歳の時に両親に置き去りにされた。いまさら、両親のキューバでのことやキューバで生まれた兄弟のことを知りたくはない」と取材を拒否されたのである。前原ディレクターは「とにかく会って話しをしよう」と正一さんを説得した。正一さんは親に置いて行かれた子どもがどんなに辛い人生を歩んできたかを話した。それから何回か会って根気強く説得。ようやく正一さんも『三味線』の受け取りだけを撮影するという条件で取材に応じてくれた。

 その日、実際に本を手にした正一さんは最初、こわばった表情だったがベニータさんの気持ちが伝わったのか次第に心を開いてくれた。閉ざされていた家族の系譜が繋がったのである。
「亡くなるまで両親の心は故郷の沖縄にありました。晩年の父は三味線を弾きながら、遠くを行く渡り鳥を眺めてノスタルジーに浸っていましたし、母も窓辺に座って、沖縄の歌を口ずさんでいたものです。キューバ沖縄移民のことを書き綴ると、両親をはじめ沖縄を後にしてきた人々のことで胸が痛みます。もし、私の本がこうした移民者の悲しみや苦しみを理解するのに役立つなら、両親に対して一つの恩義を果たしたと感じるのです」(ベニータさん)

 番組では伊波さんのまとめた沖縄移民の家族史『三味線』を出発点に、キューバ各地に散らばる移民の末裔を訪ね、名もなく消えていった移住者たちの足跡を辿っていく。さらに子孫たちの情報をもとに母国沖縄の親族を訪問して、家族史をキューバから沖縄へとつないでいく。かつて歴史の片隅にあった移民たちの家族史を映像ドキュメンタリーとして積み重ねることによって、これまで知られていなかったキューバ沖縄移民史の全体像を浮き彫りにしていく。
 「海外にいる沖縄県系人に対する関心が高いなかで、キューバについてはこれまで移民の事実があまり知られてなく、調査や研究も全くなされていません。今回、番組で取り上げるベニータ・伊波さんの家族史はそうした知られざるキューバ沖縄移民史に光を当てるものになると思います。また、番組を通して、閉ざされていたキューバ・沖縄の兄弟の絆が繋がっていけば制作者としてこれほどうれしいことはありません」

想像のなかで私は三味線を爪弾く。その旋律は夜の海へ。そして、沖縄の島を過ぎて行った過去へと流れていく。揺り篭のなかで子守唄を待つ幼子たち。母が口笛を吹いて風を呼ぶと、木の葉は大地の香りを運んで来る。

(ベニータさんの父親の詩。『三味線』より)



<番組タイトル> 第10回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品 『キューバ沖縄移民・家族の系譜』
<放送日時> 4月11日(水)深夜27:10〜28:05
<スタッフ> プロデューサー : 山川文樹
ナレーション・ディレクター : 前原信一
カ メ ラ : 山里忠弘
<制 作> 沖縄テレビ

2001年4月26日発行「パブペパNo.01-148」 フジテレビ広報部