FNSドキュメンタリー大賞
菅平高原の大自然に抱かれた障害者施設「風の工房」
日々、様々な創作活動に励むメンバーと、それを見守る職員の爽やかな日常

第9回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『「風の工房」 〜みどりの谷の仲間たち〜』 (制作 テレビ熊本)

<9月28日(木)深夜26:40〜27:35>

 菅平高原の夏は短い。この時期、吹きわたる風にはすでに秋の香りが色濃い。ここの自然は四季折々、見事に装いを変えていく。ヤマユリやキスゲなどの夏の花に替わり、リンドウやハギ、ワレモコウなどが目立ち始めている。紅葉前線が足早に駆け下りていくのも、もうすぐだ。
 長野県真田町。戦国時代の覇者、徳川家康に一度ならず二度まで苦杯をなめさせた武将、真田幸村を生んだ、みどり豊かな人口1万人あまりの静かな町。この真田町は、盆地状に広がる菅平高原の南の麓に位置する。
 9月28日放送の第9回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品『「風の工房」 〜みどりの谷の仲間たち〜』(制作 テレビ熊本)では、真田町にある「風の工房」という知的障害者の施設を、熊本のテレビ局がテーマに取り上げた。

 「『風の工房』では現在13人のメンバーが“自分に出来ること”に取り組んでいます。それは創作=何かを作ることです。アートをはじめとする彼らの様々な創作活動と、それをサポートする職員たちの姿を、菅平高原の大自然を絡めながら描きました」と、取材に当たったテレビ熊本の杉山幸宏ディレクター(プロデューサーも兼任)は語る。
 そして、あえて県外にテーマを求めたことについては、
「熊本のテレビ局が長野県の一施設を取り上げることについては、地元密着という視点からは異論もあるかもしれません。もちろん社内でもいろいろな意見がありました。今回、番組の構成と編集をお願いした熊本出身でアメリカ在住の映像作家・ 黒川裕一さんの紹介で、『風の工房』のことを知りました。彼は学生時代にメンバーの作品に触れる機会があり、大いに感銘を受けたそうです。
 今回のエイブル・アート(=可能性の芸術)のような地域性にとらわれないテーマ、人間の尊厳などをテーマにした番組は、地域ということにあまりこだわらず、取り組んでみてもいいのでは思います。地元の長野放送さんのご理解もいただき、思い切ってチャレンジしてみました。今後もこういう番組は、地方局を中心にどんどん増えていくのではないかと思います」


 「風の工房」のある菅平高原の冬景色から番組はスタートする。
 寒々とした冬山、厳しい冬、氷の結晶、吹き抜ける風の音、様々な映像がモンタージュされる景色の中、映像は次第に春の自然の中に移動する。
 朝の静けさの中、「風の工房」の職員たちが仲間達を迎えに出発する。ここで知的障害を持つ仲間たちが創作するものはアートに限らず多岐にわたる。パン屋、とうふ屋の手伝いをする人もいれば、書やボールペン画、刺繍、陶芸に勤しむ人など…。カメラがそれを適度な距離で見守る間に、みどりの谷間をやさしく風が吹き抜け、いつしか信州に清々しい初夏が訪れる…。番組では、障害を持つ仲間たちにやさしい眼差しを持ちながら、しかし、過度に情緒的にならず、淡々と彼らの日常を描いた。

 「風の工房」の特徴は、何と言っても「創作」を活動のメインテーマにしていることだ。しかし、最初からそうだったわけではない。1988年に「風の工房」が創設されてから、5年前までは試行錯誤が続いたようだ。「風の工房」の世話人、関孝之さん(46)はこう語る。
「彼らは言葉が苦手な人達だから、それ以外の方法でコミュニケーションしたいんじゃないだろうか、と日々感じています。アートもそういうコミュニケーションのひとつ、単なる言葉以上の何かが伝わってきます。これまでは、障害者に何ができないか、そして、どう矯正していこうかということばかり考えていました。ちっとも彼らの気持ちを大事にしていなかったと思います。これからは彼らに何ができるかについて語るべきではないでしょうか。実際、彼らのアートには、ぼくらの想像もつかないような力があるのです」
 取材を終えた杉山ディレクターも、メンバーの作品に触れた感想をこう語る。
「それまで障害者アートといえば、ハンディを乗り越えて創作した作品というイメージを持っていましたが、『風の工房』の仲間たちが創り出す作品は自由気ままに、あるがままの自分をさらけ出した個性そのものでした。知的障害者や健常者といった型にはまった視点で、作品を見たり、仲間たちを見るのではなく、ごく普通に、個性を持った仲間としてあるがまま、肩の力を抜いて、自然のままに、『風の工房』の仲間たちと、番組を通じて触れあってもらえればうれしいです」
 淡々と描かれた「風の工房」の日常は、信州の高原を吹き抜ける風のような爽やかさだ。


<番組タイトル> 第9回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品 『「風の工房」 〜みどりの谷の仲間たち〜』
<放送日時> 9月28日(木)深夜26:40〜27:35
<スタッフ> ナレーション : しみず ひろ
構 成 ・ 編 集 : 黒川裕一
撮    影 : 川口 忍
プロデューサー・ディレクター : 杉山幸宏
<制作・著作> テレビ熊本

2000年9月12日発行「パブペパNo.00-289」 フジテレビ広報部