FNSドキュメンタリー大賞
大分県に伝わる織物「箭山紬」の唯一の承継者の姿を通して、伝統を守り抜くことの重要性、自然と人とが共生する意義深さをあらためて実感させられる。

第9回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『おばあちゃんの暖ったか紬』 (制作 テレビ大分)

<9月25日(月)深夜26時55分放送>

 大分県三光村に、江戸時代から伝わっている「箭山(ややま)紬」という素朴な織物がある。が、今やその伝承者は村内の農家の主婦松田和子さん(73歳)のみ。
 9月25日(水)放送の第9回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品『おばあちゃんの暖ったか紬』(制作 テレビ大分)では、松田さんの姿を通して、伝統を守り抜くことの重要性、自然と人とが共生する意義深さを伝えていく。

 「箭山」とは大分県の北部を代表する山、八面山(はちめんざん)の別名で、昔、弓矢の矢に使う矢竹が採れたことからこの名があるが、その八面山の山麓で織り続けられてきたのが「箭山紬」である。
 クズ繭から糸を引き、それを近くで採ってくる草木の染料で染め上げて織り糸に使う。千数百本の縦糸を綜絖(そうこう)や筬(おさ)に通して機をたてたあとようやく織りに入るという気の遠くなるような仕事を一人で行う。
 松田さん自身が50歳近くになって、当時一人箭山紬を織り続けていた故重並ハルヨさんから苦労の末、手ほどきを受けた。
 重並さんが亡くなって以来一人紬を守り続けている松田さんだが、明るいおちゃめなキャラクターと人の世話をいとわないところからみんなに愛されて生活を続けている。
 松田さんの口癖は「糸の道は人の道」「自然ほど偉いものはない」。常に自然と対話しながら、自然の恵みに感謝しながら暮らす松田さんの生活を追った。
 松田さんを取り巻く人々は多種多彩。お弟子さんは繊維会社を退職した男性や近くのパートの主婦。昆虫博士でもある駐在さんは松田さんに山中の草木染めに使える原料がある場所を教えてくれる。小学校の子ども達に自分の工房を解放していることもあって、子ども達とも仲がいい。念願の芭蕉布を訪ねて沖縄に出かけ、喜如嘉(きじょか)の人々とも語らい、伝統を守り続けることの大切さをも再認識させられる。

 制作を担当したテレビ大分の岩尾ディレクターはこう語る。
自然との共生とよくいわれるが、共生とは何でしょうか。松田さんを見ていると、常に自然の中にあり、自然に教えられ、自然を敬い、自然と共に暮らすことをまさに自然体でやっているそのすごさに、取材している私たちが飲み込まれていくのを感じました。決して松田さんのようには生きていくことはできないと思いながらも、松田さんの生き方にうらやましささえ感じてしまう。取材からの帰りは実に気分がいいのです。
 松田さんの取材を始めて3年になりますが、お会いする度に頭が下がります。常に謙虚で勉強を欠かしません。こんな風に言うと堅苦しいおばあさんを連想させますが、本当は子供のような心の持ち主、実にオチャメなで、カメラの前で色々なパフォーマンスを見せてくれます。急に走り出して近くのおばちゃんと話し始めたり、にわとり小屋に飛び込んで私たちために卵を取ってきてくれたり。ぽろりと昔語りを始めたり・・・。そこで私たちは松田さんにお会いしている時にはカメラをストップさせないことにしていました。その映像が、おしゃべりが今回の番組のそこかしこに出てきます」
 最後に岩尾ディレクターは、番組の見どころについて
番組全体としては松田さんの日常と紬の制作過程を描いていきますが、その中に自然に出てくる松田さんの環境や人々に対する感謝の念、思いが常に流れています。恣意的ではなく、淡々と自然と共生できる松田さんの姿が、忙しく暮らす現代人の心にかえってしみてくると思うのです。機織りをする人にとって視力は欠かせない要素ですが、このところ松田さんの視力は衰えを隠せず、したがって集中力が亡くなって来ていると言います。そんなことを言わずぜひ箭山紬を作り続けてほしい。松田さんが尊敬して、慕ってやまない93歳まで織り続けた重並のおばあちゃんのように」と締めくくった。


<番組タイトル> 第9回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品 『おばあちゃんの暖ったか紬』
<放送日時> 9月25日(月)深夜26:55〜27:50
<スタッフ> ナレーター : 工藤健太(テレビ大分制作部)
プロデューサー : 深見憲一(テレビ大分制作部)
ディレクター : 岩尾保次(テレビ大分制作部)
構    成 : 森 久実子
撮    影 : 宮本洋一・赤坂昌次(映像新社)
編    集 : 宮本洋一(映像新社)
音 声 効 果 : 渡辺政裕(映像新社)
<制 作> テレビ大分

2000年9月11日発行「パブペパNo.00-286」 フジテレビ広報部