FNSドキュメンタリー大賞
否認を続ける容疑者が“虚偽の自白”をしたその瞬間に誤認逮捕、冤罪事件というストーリーが発生する
日本の犯罪捜査システムの盲点を探る!

第9回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『自白・この国の捜査のかたち』 (制作 愛媛放送)

<9月13日(水)深夜26時20分放送>

 「疑わしきは被告人の利益に」
 「犯罪の訴追を受けた者は、すべて、有罪の立証があるまでは、無罪と推定される権利を有する」

 これらの言葉は、無実の罪に問われた人が少なからずいた、という事実に対する反省の上に成り立った近代刑事訴訟法の基本理念だ。だが現実には、「明白な証拠がなくても犯人を自白させさえすれば…」という警察の「自白偏重捜査」が引き起こす「冤罪」は今でも後を絶たない。
 9月13日(水)放送の第9回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品『自白・この国の捜査のかたち』(制作 愛媛放送)では、地元で実際に起きた事件をもとに、「冤罪」というものの裏側に迫った。

 愛媛県内の男性会社員が、無実の罪で1年あまりにわたって拘置されるという誤認逮捕起訴事件が起きた。
 この問題は去年2月男性が宇和島警察署に任意同行を求められた時点から始まる。男性には、知人の通帳と印鑑を盗み、金融機関から現金50万円を引き出したという容疑がかけられていた。金融機関の防犯ビデオの画像に似ていると被害者が供述したことなどから、取り調べが行われた。
 否認を続ける男性が犯行を認める「虚偽の自白」をしたのは、取り調べが始まっておよそ6時間後のことだった。無実の容疑を認めた背景には、会社や親類に知られたくないという気持ちと、厳しく追及する刑事への恐怖心があったという。
 「虚偽の自白」は、さらに「虚偽の調書」を生んでいく。男性は警察が描く事件の「シナリオ」に合わせ、真実に反する供述を始めた。男性は知人との交際の中で実際に見聞きした場面を思い出しながら、犯行の状況を「創作」していった。ここでも男性の頭の中には、逆らったら何をされるかわからないという刑事への恐怖心があったという。つじつま合わせの供述が限界となり、男性が否認に転じたのは、松山地検宇和島支部が起訴した日の夜だった。男性は今年2月に釈放されるまで、1年あまりにわたって自由を奪われることになる。

 男性の誤認逮捕・起訴が判明したのは、真犯人の確認だった。別の事件で逮捕・起訴されていた被告が、愛媛の事件を自供したからだ。真犯人が出たことで男性は釈放、裁判所は無罪判決を下し、男性の潔白が証明された。これを受け、捜査サイドの責任問題が焦点となったが、県警は捜査自体に違法性は無かったとして、関係警察官を処分しないことを発表。検察も起訴に法的な誤りは無かったと強調する。
 後を絶たない冤罪事件の背景には、日本の刑事司法の問題がある。現在の憲法や刑事訴訟法では、自白のみを有罪の証拠にはできないと定めているにも拘らず、現実には自白が「証拠の王」とされ、自白さえあればいいというシステムになっている。その結果、本来重要であるべきはずの裏付け捜査がズサンになり、捜査陣は真実を見誤っていく。

 日本の犯罪捜査には「密行性」があるとされ、取り調べは文字通りの「密室」。そこでのやりとりは公開されず、容疑者が話したとされる供述調書だけが表に出てくる。番組には愛媛の男性のほかに、2人の冤罪事件の元被告が登場する。1人は大阪でホームレスが川に投げ込まれ水死した事件で逮捕起訴された男性、そしてもう1人は異例の長期裁判となった甲山事件の山田悦子さんだ。2人のインタビューからは、殺人という重大な容疑でも、警察の強引な取り調べや巧みな誘導で「虚偽の自白」に追い込まれる様子が鮮明に浮かび上がる。そこにあるのは、真実の追及ではなく、容疑者を犯人に変える「落としのテクニック」なのだ。山田さんは言う。「長く被告席に座らされて日本の司法の貧しさがわかった」

 日本では起訴された刑事事件に有罪判決が出る確率はほぼ100%。有罪判決を出し続けている裁判所は、それだけ検察に信頼を置いているという。その結果、裁判所が検察のミスに気付く確率は低くなり、「疑わしきは検察の利益」になる現実があるという。窃盗罪などに問われた愛媛の男性は、真犯人が確認されたことで釈放され、無罪を獲得した。判決の中で、裁判所は自白が虚偽であったことを認定し、自白偏重の捜査を厳しく指摘した。
 もし真犯人が出ていなかったら、判決はどうなっていたのか。真犯人が出たという結果に合わせただけの判決ではないのか。ごく普通の社会人がある日突然犯人にされ、無実の罪で裁かれる恐さを、これらの事件はまざまざと見せつけている。
 取材に当たったのは愛媛放送の村口敏也ディレクターだ。
「警察の不祥事が発覚するたびに、マスコミは関係者を叩き、警察不信を声高に叫びます。今回の誤認逮捕・起訴事件でも、地元マスコミを中心に警察バッシングの報道が吹き荒れ、県警の不処分に怒りのコメントが集中砲火のごとく浴びせられました。
 しかし、この番組はそんな作りにはしませんでした。県警の個々の捜査員の問題ではなく、もっと根の深い構造的なひずみにスポットを当てました。誇張した表現や結論めいた誘導は一切していません。長く冤罪に苦しんだ人たちの生の声を通じて実態を感じて、見終わったあとに問題点や課題を個々に考えていただければ幸いです」
(村口D)

 愛媛の男性は無罪判決後まもなく心筋梗塞で倒れ、現在は自宅で療養する毎日が続いている。男性は長期間拘置されたことで、以前の仕事を失った。51才という年齢と無理のきかない体で、新たな職に就けるのか。今後への不安が募る。男性の無罪は確定し冤罪も晴れたが、誰も責任を取る人はいない…。


<番組タイトル> 第9回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品 『自白・この国の捜査のかたち』
<放送日時> 8月16日(水)深夜26:25〜27:20
<スタッフ> プロデューサー : 岡石 啓(愛媛放送報道情報センター長)
ディレクター : 村口敏也(愛媛放送報道情報部)
撮    影 : 阪和洋一(愛媛放送報道情報センター)
ナレーター : 土居寛親(愛媛放送アナウンス部長)
<制 作> 愛媛放送

2000年8月16日発行「パブペパNo.00-251」 フジテレビ広報部