FNSドキュメンタリー大賞
なぜオーケストラは赤字のまま存在できるのか?
行政・企業の役割は?
中四国地方で唯一のプロオーケストラ「広島交響楽団」の姿を通して現代クラシック界が抱える課題を描く

第9回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『揺れる地方オーケストラ 広島交響楽団の模索』 (制作 テレビ新広島)

<8月16日(水)深夜26時25分放送>

 クラシック音楽の歴史は15世紀に遡り、ヨーロッパの王侯・貴族の権力を誇示するために生まれた楽器演奏だったが、以降その規模が大きくなり、数世紀の歴史を刻んできた。日本での歴史は約80年と欧米に比べ短いが、20代から60代以上までの幅広いファン層をもつ。しかしその一方、愛好家を除いては、多くの人々にとって「敷居の高い」近寄りがたい存在でもある。現在クラシック人口は2%といわれるが現実にはそれを下回り、オーケストラを取り巻く状況は、決して良いとはいえない。
 2000年4月、広島厚生年金会館ホールで行われた広島交響楽団200回記念公演会。華麗で重々しく、ときにゆるやかに、ときに激しく、レスピーギの交響詩『ローマの松』が聴衆を魅惑する。秋山和慶のタクトに操られ、いきいきとした表情で楽器を奏でる楽団員。広島交響楽団(広響)、団員数76名。応援プレイヤーを含めると100人を超す大オーケストラである。月1回の広島市内での定期演奏会をはじめ、公演回数は年130回を超える、中四国では唯一のプロオーケストラである。8月16日(水)放送の第9回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品『揺れる地方オーケストラ 広島交響楽団の模索』(制作 テレビ新広島)は、この交響楽団の姿を通して、現在クラシック音楽が抱えている課題を考える。

 オーケストラは、人件費・楽器・会場費等コストが高く、日本の23のプロオーケストラはもちろん、外国の例を見ても、公演収入だけでは経営が成り立たないのが現状である。広響を例にとると、年間支出6億円のうち公演収入は2億5000万円で60%以上が赤字である。これは日本のオーケストラのほぼ平均の数字である。行政や企業からの援助をうけても、なお赤字が出続ける構造なのだ。
 団員個々も経済的に苦しい生活を送っていることはあまり知られていない。ある50代の男性楽団員は、毎朝の新聞配達をして将来のための貯蓄に回している。ヴァイオリンやクラリネットなど、比較的一般的な楽器担当の団員は、一般向けの個人レッスンで収入を得るという方法もある。しかし、年130公演を抱える身では、副業に割く時間もままならないのが現状である。

 そういう状況のなかで、団員の中からは、「聴いてくれる人をどう増やすか?」という問題意識が生まれつつある。ファンクラブ「広響フレンズ」の結成もその動きのひとつ。ファンを組織化して、それを中心に聴衆を拡大していこうという狙いだ。また、99年からファンサービスの一環として演奏練習を一般に公開し、ファンとの交流をはかる。また、従来の閉塞的な雰囲気を払拭しようと、ラフな私服で楽器を携えて道行く人々に気軽に聴いてもらえる街角コンサートを開催し、この試みは好評を博した。
 しかしファン拡大の努力も、60%近い赤字に対しては微力である。赤字の穴埋めとして、企業・行政の援助は依然欠かせない。企業・行政がオーケストラに援助を続ける理由とは何か?

 取材に当たったテレビ新広島の増田健太郎ディレクターは、「単なる年間予算のひとつとして、オーケストラに予算配分しているだけで、クラシックを自分たちの文化として育てようという姿勢が欠けているのではないか?」と、疑問を投げかける。
 多くの矛盾・問題を孕みつつ、それを微塵も感じさせない完璧な美しさで演奏されるクラシック音楽。番組では、これまで明らかにされてこなかったオーケストラの諸事情の取材を重ね、広島交響楽団員の姿を通して現代クラシック界が抱える課題を描く。
「なぜオーケストラは赤字のまま存在できるのか?という疑問が出発点でした」と増田ディレクター。
「やはり、日本のクラシックは、欧米と違って歴史が浅い。子供のころから、生活の一部としてクラシックに親しんでいくような環境が必要ではないか。そのための努力をオーケストラ自身はもちろん、行政・企業がしない限り、いつまでたってもお仕着せの“文化活動援助”になるだろう」と語る。
 クラシックが「私たちの音楽・私達の文化」として支えられる日は来るのだろうか。そのための道を模索する。


<番組タイトル> 第9回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品 『揺れる地方オーケストラ 広島交響楽団の模索』
<放送日時> 8月16日(水)深夜26:25〜27:20
<スタッフ> ナレーター : 前原美穂
プロデューサー : 横田孝治
構成・ディレクター  : 増田健太郎
撮    影 : 大原英二
録    音 : 広瀬康嗣
編    集 : 高橋数明
<制 作> テレビ新広島

2000年7月28日発行「パブペパNo.00-222」 フジテレビ広報部