FNSドキュメンタリー大賞
定時制高校が誕生して52年…。
高校中退・不登校…挫折を味わった生徒が今集う!
笑顔を失い、言葉を失った生徒の行方は…教師との本音の付き合いが生徒を変えることができるのだろうか!

第9回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『笑顔が戻るまで 〜定時制高校からのメッセージ〜』 (制作 テレビ静岡)

<8月9日(水)深夜26:20〜27:15放送>
「定時制には全日制高校が忘れかけている生徒と先生の本音の付き合いがあることをぜひ伝えたいと思います」(橋本真理子ディレクター)

 今年3月、静岡商業高校の定時制が58年の歴史に幕を閉じた。理由は長年続いた定員割れと今後進む少子化を見越してのことだった。
 静岡県教育委員会は、先日、今後10年間の「高校長期計画」を発表。その中で、“定時制高校は県内10地区に1校程度にすべき”との見解を示している。学校の数が減れば、配置する教師も少なくて済むからだ。現在、県内には24の高校で定時制を設置しているが、今後、半分以下に減ってしまうのは間違いない。
 しかし別の意味で今まさに定時制が必要とされているのだ。というのも、そもそも定時制は、金銭的に進学が困難な学生が働きながら学べる場所として設置された経緯があるが、現在では小中学校時代に不登校だった生徒や、高校中退者、さらにはリストラにあった中高年者に生徒の比重が移るなど、そのニーズは徐々に変わりつつあるからだ。
 「本当の友達ができた」とか「昼間は何もしていなかった子供が、定時制に通うことで周りに刺激され働き始めた」などという声が、定時制に通う生徒やその保護者から上がっており、「定時制ならではの良さがある」との見方が強まってきているのだ。
 だが、その反面、定時制を卒業できるかどうかは、通い始めて1、2年が正念場だと言われている、働きながら学校に通う辛さとか、人間関係が難しいとの理由で学校をやめてしまう生徒も多いからだ。

 8月9日(水)深夜26:20〜27:15放送の第9回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品『笑顔が戻るまで 〜定時制高校からのメッセージ〜』(制作 テレビ静岡)は、定時制高校に通うある生徒と教師との触れ合いを通して、定時制高校のあり方を探る渾身のドキュメンタリーだ。
 「今回の取材は、ある定時制高校の教師の自宅で20歳の男子生徒に出会ったことからスタートしました」と取材を担当した橋本真理子ディレクターは話す。
 「安倍中圭一(あべなか・けいいち)君は、中学校から学校に行かなくなり、笑顔や話すことも忘れてしまっていました。そんな彼がなぜ定時制高校に通おうと思ったのか、そこに何を求めているのか、無性に知りたくなったんです」と取材を始めた動機について説明する。だが、取材はそう簡単なものではなかったようだ。
 「ディレクターの私自身が彼と何を話したらいいのかわからなくなってしまったんです。初めて人と話すことの難しさを感じました。取材はまさに自分との闘いでした」と橋本ディレクターは振り返る。

 圭一君は現在、静岡県立静岡高校定時制の2年生。彼の担任は定時制9年目のベテラン教師、橋本正紘先生(58)。先生は、彼の心をどう開かせようとしているのだろうか?
 橋本ディレクターは、まずは始業式にカメラを持ち込んでみた。だが、そこには圭一君の姿が見当たらない…。「どうしたのかな、と彼を探している私たちの目に緑とピンクに髪を染めた奇抜な生徒の姿が飛び込んできました。定時制には、いろいろな生徒がいるんだなあと思いきや、何とそれが圭一君だったんです」と橋本ディレクターは話す。
 圭一君のクラスは22人。45歳の主婦や高校を中退した20代の男子女子が集い、とても楽しそう。だが、その中で、ひとり圭一君だけは人と話をすることも出来ず、完全に浮いた状態だ。彼が話をできるのは橋本先生と、それに最近習い始めたギターだけだ。
 22人の生徒たちは千差万別…。リストラにあって職を失った人、金に困り、サラ金に手を出しそうになる人……一人一人の対応で先生は振り回される。圭一君ばかりに構ってはいられないのが現状だ。
 「うちのクラスは、22人いるもんでね。あなたと1対1で話している時と学校での接し方が違うことは分かって欲しい。でもそれはあなたを無視していることじゃないから…」。ある出来事をきっかけに、先生は今の現状になかなか対応できない自分の弱点や本音を生徒に対して直接ぶつけることにしたのだ。

 定時制の良さ、それは様々な年齢の生徒が集うことだ。特に年齢の高い生徒は、孤立してしまう生徒を何とか仲間に入れようとする。この定時制高校の4年生のクラスに白井君竹川君という25歳の男子が二人いる。高校当時、バイクにはまった二人は学校を中退。だが、高卒の資格がないために、自分の希望する職種になかなか就けないない現実に直面し、高卒の資格を取ろうと定時制にやってきたのだ。
 挫折を味わった二人だけに、年下の生徒たちの気持ちがよくわかっていた。4年生のクラスには、入学当初、圭一君のように人と話をすることが出来ない生徒が一人いたが、ここに通うことで笑顔を取り戻すことが出来たのだ。そこには白井君や竹川君が話しかけて輪の中に入れようとしたこと、そして先生と気軽に話ができる環境があった。
 「4年生のようなクラスになれば、圭一君も変わるかも知れない…」
 そんな願いを込めて、先生は定時制の男子生徒の中では最年長の栗田君(27歳、2年生)に対して、圭一君に声かけをしてくれるようお願いしてみた。彼も4年生と同様、高卒資格のない壁にぶつかった経験を持つ。早速、圭一君に声をかけてくれるようになったが、彼の表情はなかなか変わらなかった。

 そんな圭一君が、ある日一人旅に出ることになった。行き先は成田空港。不登校時代からの自分を温かく見守り、立ち直るきっかけを作ってくれた恩人、成瀬孝子先生が、夫の仕事に付き添ってアメリカに旅立つのを見送るのだという。成瀬先生は、そもそも姉の担任だったが、不登校だった弟の圭一君のことをたえず気にかけてくれてたのだという。圭一君が定時制に通うきっかけを作ってくれたのも成瀬先生だったという。
 取材班は早速、圭一君の一人旅を同行取材をすることに…。
 その理由について橋本ディレクターは「わずか30分しか会うことができないのに出かけていく彼の行動が、今までとは違って見えたからです。そしてこの取材を機に、圭一君は自宅での取材を了解してくれました」と話す。
 圭一君の一日は朝遅く起きることから始まる。そして定時制に行くまでの間、ほとんど外に出ることもなく、一人で自宅でテレビを見ながら過ごすのだという。  「そんな静かな生活を見た時、私はここで彼と本音で話をしたいと思いました。大きなカメラの前で話がしずらいのではないかと思い、翌日デジカムを持って一人で彼の自宅を訪ねたんです」
 橋本ディレクターは、話してはくれないだろうと思いながら、笑顔をなくした理由、不登校になった理由など、過去の生い立ちや髪を緑に染めた理由を聞き始めたところ、彼は淡々と語り始めたという。
「人付き合いがうまくなりたいのに、それが出来ない。だからあえて声をかけてもらえないような態度を取ってしまう…」
「うまくしゃべれないから髪を染めてみんなの目を引きたかった…」

 彼の話す言葉のひとつひとつから、一生懸命に話そうという彼の思いがひしひしと伝わってきた瞬間だった。彼は「今まで先生は嫌いだったけど、成瀬先生や橋本先生は親しみやすいから…」と先生に対する見方が少しずつ変わってきたことも打ち明けてくれた。

 一方、橋本先生は相変わらず、学校に来ない生徒とどう向き合えばいいのか悩んでいた。そんなある日、先生は去年退学してしまった女子生徒と会うことになった。彼女はある理由から退学してしまった生徒だったが、先生は「彼女の良さを引き出せないままやめさせてしまった」という思いが強く、何とか復学させようと、頻繁に連絡を取っているのだという。彼女にとって先生とは一体どんな存在なのだろうか?橋本ディレクターが彼女に先生の印象を聞いてみると、「先生はいろいろやってくれたけど、もういいよ、そこまでしなくていいよ。十分でした」という答えが返ってきた。一生懸命やりすぎても、また近づきすぎても生徒は逆に離れていってしまうのだ。先生自身、そして話を聞いた取材班も教師という仕事の難しさを痛感した瞬間だった。
 「圭一君のように、出来ればそばにいて欲しいと願う生徒もいるが、その一方で、放っておいてほしいという生徒もいる。とにかく、生徒とじっくり話し合い、その子の本音を聞くしかないのでは。そして教師である自分自身も弱点や本音をさらけ出さなければいけないのでは…」
 橋本先生は、生徒たちとの触れ合いを通して、徐々にそのことに気づいていく。そして、その思いは圭一君にも通じ始めた。取材班が圭一君の母・里枝さんにインタビューをした時に、圭一君は取材班がこれまで見たことがないような、すっきりした素敵な笑顔を見せた。
 彼はふすまの陰で母の話をじっと聞いていたが、母の本音を聞いたのは、この時が初めてだった。その瞬間、彼は笑顔を取り戻すことができたのだ。学校ではまだまだ笑顔を見せることは出来ない。しかし、母と先生に守られながら彼は今、少しずつ変わろうとしている。
 「定時制という小さな学校だからこそ変われるるような気がする」
 圭一君は取材班にそう話してくれた。

 番組を取材した橋本真理子ディレクター「圭一君が笑顔を取り戻すまでの葛藤と先生の思い、そして私たち取材者を受け入れてくれるまでの道のりを淡々と描いたつもりです。これまでの思いをディレクターの私自身が話したいと考え、自らナレーションを担当しました。定時制には全日制高校が忘れかけている生徒と先生の本音の付き合いがあることを伝えたいと思います。そして本当の笑顔が戻るまで、定時制の火は消さないで欲しいと願っています」と番組への思いを話している。

 笑顔や言葉を失った少年と教師との本音の付き合いを通して、定時制高校のありかたを考える、第9回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品『笑顔が戻るまで 〜定時制高校からのメッセージ〜』(制作 テレビ静岡)<8月9日(水)深夜26:20〜27:15放送>にご期待下さい!!


<番組タイトル> 第9回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品 『笑顔が戻るまで 〜定時制高校からのメッセージ〜』
<放送日時> 8月9日(水)深夜26:20〜27:15
<スタッフ> プロデューサー  : 山田通夫、小林幹雄
構成・取材・語り : 橋本真理子
撮    影 : 小林 徹
編    集 : 大村義治
<制 作> テレビ静岡

2000年7月27日発行「パブペパNo.00-221」 フジテレビ広報部