FNSドキュメンタリー大賞
引きこもり、不登校、非行…
様々な問題をかかえた少年たちが行き来する、大阪下町のカラオケ喫茶の日常

第9回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『少年たちの居場所』 (制作 関西テレビ)

<7月26日(水)深夜26時25分放送>

 少年たちの犯罪が、この列島を震撼させ続けている。
 突発的で、脈絡がなく、見境のない彼らの過激な行動は、「大人」たちの訳知り顔の理解を遥かに超え、具体的な対応を見出せないまま、社会はただ右往左往しているだけのように見える。
 「家庭内暴力」「いじめ」「不登校」「引きこもり」…。
 問題の周辺をなぞるだけの言葉はうんざりする程、飛び交っていくが、少年たちの心の中に醸成されていく閉塞感や不安感、焦燥感は放ったらかされたままだ。その暗い感覚は、決して「特別な誰か」のものなんかじゃなくて、ありふれた普通の若者たちすべての中に芽生えているものだというのに…。

 7月26日(水)深夜26:25〜27:20放送の第9回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品『少年たちの居場所』(制作 関西テレビ)では、大阪の下町にあるカラオケ喫茶「3幸(みゆき)」に集まる近所の悪ガキたち、そして、彼らのことを受け止めている高橋村市さんたちの姿を追う。

 高橋村市さんのことを知ったのは、新聞の片隅に載った小さな記事だった。
 『不登校や非行経験のある子供たちの大弁論大会、主催は市民グループ…』
 このちょっと妙なイベントの呼びかけ人が、高橋さんその人だったのだ。大阪、生野の下町に、脱サラでカラオケ喫茶「3幸(みゆき)」を開いて2年。特に何かの考えを持っていたわけではなかったが、いつか気がついたら、近所の悪ガキたちのたまり場になってしまっていた。
 早朝から集まってくる若者たちの平均年齢17歳。そのほとんどが家出、補導、非行歴を持ち、中には少年院帰りの者さえいる。頭痛を理由に学校を早退してやってくる中学生もいる。55歳の一見、頼りなさそうなマスター、高橋さんは特に彼らに尊敬されているというわけではない。高橋さん自身も彼らに対し、声高な説教や文句を言うこともなく、あくまで静かに、彼らのことを受け止めて、ただ、話を聞いてやる。様々な事情を抱える若者たちが、家庭や学校では解消できない、心のモヤモヤを、仲間たちの集まった気ままな交流の場で、ぶつけ合い、吐き出している。
 「とにかく話を聞いてくれはる、相談に乗ってくれはる」
 そんな評判を聞きつけて、いろいろな問題を持つ子供とその親たちが、高橋さんのところを訪れて来るようにもなってきた。高橋さんはそんな親たちにも、子供たちと同様、穏やかに対応する。
 そんな毎日を送りながら、高橋さんはいつのまにか、喫茶「3幸」の2階に「市民ケアセンター」というボランティア事務所の看板を掲げてしまった。
 店の中だけでなく、もっといろんなかたちで彼らの集まれる場所を作れたら…。
 そんな「市民ケアセンター」の活動のひとつが、あの「悪ガキどもの大弁論大会」だったのだ。

 ある日、「引きこもり」の息子さんを抱えているという母親が、遠方から「市民ケアセンター」を訪ねてきた。その息子さんタケシ君(仮名)は、間もなく20歳。高校の頃から不登校になり、一時は、昼もカーテンで閉めきった暗い部屋の中で過ごす毎日だったという。「それでも、最近はずいぶんよくなったのですが…」と言うその母親に、高橋さんは「もし彼がその気になったら、一度ここへ連れて来たら?同じぐらいの年の、学校行ってへん子らもいっぱいいるし…」と声をかけてみた。
 5月のある日曜の昼下がり、店の隣の空き地に場所を作って、常連の少年たちをどっと集めて開いた、野外焼肉パーティー。賑やかな声が響く会場に、おずおずと入ってきた親子の姿があった。
 「本当に来てしまいました…。」
 タケシ君にとって、人が集まる場所に加わるのは、実に5年ぶりのこと。
 「何してんのや、奥入って入って!」
 「肉焼くの手伝おてや!」
 「自分暗いな暗いな、あ、わしらが必要以上に明るすぎるんか」
 「引きこもり」への斟酌もこだわりもなく、荒っぽい程の馴れ馴れしさで、声をかけてくる「悪ガキ少年少女たち」。しかしそれは、彼ら精一杯の気遣いだったのだ。一瞬は戸惑い気味だった、タケシ君も彼らのペースに引きずり込まれ、次第にその輪の中に溶け込んで行ってしまう。
 いや、タケシ君自身も、彼らのシャイで遠まわしなその気遣いをしっかりと受け止めていたのだ。そして、いつしかそこには不思議な交流空間が成立していた…。高橋村市さんさんは言う。
 「考えたり、悩んだりするのは、結局子供たちなんですから。僕らに出来ることは、ただ、その『場』を作ってあげることなんです。それ以上のことはしちゃいけないし、出来っこないんですよ」
 「引きこもり」「不登校」、そして「非行」…。様々な問題をかかえた少年たちが行き来する、この大阪下町のカラオケ喫茶の日常をじっくりと見つめながら、彼ら、揺れ動く心で震える「少年たち」の「居場所」のありようを考えてみる。
 「今回出会った少年たちが一様に求めていることは、『家や学校を抜け出し、気の合う友達と街の雑踏でぼーっと過ごすこと』という、極々単純で瑣末なものでした。親子関係、友人関係など、様々な場で築かれるべき人間関係に疲れきった少年たちの居場所は、ひょっとしたら、この先、虚構の世界にしかないのかも知れない、と実はやや絶望的な気分に陥っています…」取材を終えた伊藤 達弘ディレクターはこう語る。 7月26日(水)放送の第9回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品『少年たちの居場所』(制作 関西テレビ)にご期待ください。


<番組タイトル> 第9回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品 『少年たちの居場所』
<放送日時> 7月26日(水)深夜26時25分放送
<スタッフ> ナレーター  : 豊田康雄
撮   影  : 石田善久
撮 影 助 手 : 森田崇之
編   集  : 大森義明
M   A  : 池田良弘
効   果  : 大原平吉、米田光一
V T R  : 小林武明
タイトル  : 兵頭和也
プロデューサー  : 西畠泰三
ディレクター: 伊藤達弘
<制作・著作> 関西テレビ

2000年7月5日発行「パブペパNo.00-194」 フジテレビ広報部