FNSドキュメンタリー大賞
典型的な“3K職場”といえる競馬の世界に、なぜ若者は惹かれるのか?
ひたむきに馬と向かいあって生きる道を選んだ若者を通して、夢を実現することの意味あいを考える青春賛歌

第9回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『走れ!ミスポンタ 〜日本一小さな競馬場の青春〜』 (制作 山陰中央テレビ)

<5月31日(水)深夜26時25分放送>

 島根県西部、山口県との県境にほど近い益田市。万葉の「歌聖」柿本人麻呂の生地、あるいは水墨画の画僧・雪舟が放浪の末に安住の地としたことで知られる人口5万人ほどの小さな町だ。市営益田競馬場は日本海の潮騒が聞こえてきそうな海辺の丘陵地帯にある。観客席と馬場の間を市道が通り、レース中も車が行き交う。
 2000年4月、この競馬場に所属する「ニホンカイキャロル」(8歳、アラブ牝馬)が国内最多勝記録の46勝を達成したというニュースが、全国に伝えられた。また競馬通なら、西日本初の女性ジョッキー・吉岡牧子さんがこの競馬場を主戦場にして活躍、95年4月に通算350勝の女性騎手最多勝記録を打ち立てたことを思い出すだろう。
 しかし、益田競馬場を取り巻く環境は厳しい。半世紀を越える歴史を刻んでいるが、入場者数も売上高も賞金もとにかくケタ違いに小さく、文字どおり「日本で一番小さい競馬場」だ。所属する競走馬は約300頭で、騎手は14人。収益は赤字続きで現在約10億円の累積赤字を抱えている。これまで支援者達の熱意に支えられ、合理化策などを続けながら何とか存続してきたものの世の中全体が不景気で、事業主体である益田市は、競馬事業の存続を検討する委員会を昨年7月に設けた。
 5月31日(水)放送の第9回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品『走れ!ミスポンタ 〜日本一小さな競馬場の青春〜』(制作 山陰中央テレビ)は、将来の展望が開けているとはいえない益田競馬場にあえて職を奉じ、ひたむきに馬と向かいあって生きる道を選んだ若者を通して、夢を実現することの意味あいを考える青春賛歌だ。
「益田競馬場は私たちの放送エリアでも一番端に位置し、これまで番組で取り上げたことは実はそれほどありません。私はもともと競馬好きなこともあり、機会があれば“ギャンブル以外の側面”から益田競馬を見てみようと考えていました。99年の6月から本格的に取材に入りました」取材に当たった宍道正五ディレクターはこう語ってくれた。

 現在益田競馬場で走っている競走馬の多くは、サラブレッドではない。他の競馬場で現役生活を終えた高齢馬をはじめ、中央競馬では既に廃止されたアングロアラブ馬を中心に、最高齢では11歳の馬がいる。またここ益田競馬場は「競走馬の終点、墓場」とも呼ばれ、歴戦の末流れ着く競走馬の“最後の晴れ舞台”となっている。ここで勝って賞金を稼げなければ、もうほかに行き場はないのだ。良くて乗馬クラブに引き取られるか、悪ければ馬肉になるか…。多くは後者だ。
 そんな競馬場で二人の青年が出会った。20歳の末田秀行(すえだ・ひでゆき)君。本当は中学卒業時に中央競馬の騎手になりたかったが、両親に反対され高校に進学する。しかし、騎手への夢を捨てきれなかった末田君は、中央競馬で…と夢見たが、身長・体重の制限が地方よりも厳しく断念。高校卒業と同時に山口県豊浦郡から益田市にある藤原厩舎の門をたたき99年10月、やや遅蒔きながら念願の騎手デビューを果たした。
「末田君にはやや神経質なところがあります。デビュー戦ではすっかり上がってしまい、レース中にムチを落としてしまいました。直線で追おうにも追えずドン尻負けです。デビュー戦のご祝儀で結構人気を集めていたんですがね…」(宍道D)
 そしてもう一人の青年・藤原智行(ふじわら・ともゆき)君(23)。代々益田競馬場で調教師をしている家に生まれ、騎手になることを夢見て騎手学校にも通ったが、体調を崩し、騎手への道を断念。厩務員として、親子二人三脚で競馬に取り組み始めた。どちらも、前途多難を承知でこの益田競馬へ飛び込んできたのだ。

 そんな二人の前に登場したのが、北海道産の葦毛の牝馬「ミスポンタ」(四歳)。藤原君は髪を茶髪や金髪に染める今風の若者だ。とにかく派手好きでかっこいいものが大好き。白馬に近い毛色で見栄えのするミスポンタは大のお気に入りだ。
「ポンタは若くて気性は荒いんですが、恐がりでいつもゲートに入るのを嫌がり手こずらされるんです。でも、そんなポンタにいつか末田君を乗せることが夢なんです」と藤原君は笑顔で語る。
 藤原厩舎の期待の星ミスポンタは、藤原君が語るよう気性に難点がある。馬群を恐がるので、レースではいつもポツンと一頭だけ離れて最後方を進み、そこから一気に追い込んでくる。しかし、まだ騎手になりたてで騎乗技術が未熟な末田君にはポンタに騎乗することができない。騎手も馬ももっと成長する必要がある。今は別の厩舎所属の先輩騎手が騎乗しているが、春にはポンタに騎乗することを末田君も夢見ている。その日を夢見て、藤原君は末田君を鞍上に乗せたポンタの手綱を引いて連日、馬場に向かう。
 さあ2000年春、末田君は念願のミスポンタ騎乗を果たせたのだろうか…?

 それにしても典型的な“3K職場”といえる競馬の世界に、なぜ若者が惹かれるのか、実際に厩務員の仕事を泊まり掛けで体験し、番組を取材した宍道ディレクターはこんな風に語る。
「手応え、ということなのかなと思います。益田競馬ではどの馬も一週間おきにレースに臨みます。騎手・調教師・厩務員など様々な形で一頭の馬に関わり、それぞれが果たした責任において、着順という“結果”がすぐに出るわけです。そういう手応えを若者は求めるのではないでしょうか。実際、先行き不透明な益田競馬に、ここのところ10代の若者が多く集まり、全体の平均年齢が下がったほどです」
 そして番組の見どころについては、
「私自身これまでは競馬の華やかさ、ギャンブル性だけを見ていました。しかし益田競馬を取材して、舞台裏で繰り広げられている人間と馬のドラマ、生活感を感じることができました。“3K労働”ともいえる条件の中で馬とひたむきに向かい合う若者たちの姿を通して、いったい競馬のどこに今時の若者を惹きつける魅力があるのかを感じていただければと思います。そしていろいろな問題を抱えながらも、今を一生懸命、夢に向かって生きている若者たちの姿を、少しでも伝えることができれば…」と語る。
 ダービー、オークスなど全国の多くの人々が注目する華やかな中央競馬とは裏腹に、砂煙の舞う小さな競馬場で、二人の青年の夢が着実に育っている。番組では、ミスポンタをめぐる二人の青年の夢や喜び・葛藤を通して現代の若者の生き方を探っていく。


<番組タイトル> 第9回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品 『走れ!ミスポンタ 〜日本一小さな競馬場の青春〜』
<放送日時> 5月31日(水)深夜26:25〜27:20
<スタッフ> プロデューサー  : 大森正己(山陰中央テレビ放送)
ディレクター・編集 : 宍道正五(TSKエンタープライズ)
撮    影 : 宍道正五、木佐方徳(共に、TSKエンタープライズ)
音    声 : 大阪和正、加藤健太郎(共に、山陰中央テレビ放送)
構    成 : 上村有弘(山陰中央テレビ放送)、平岡まき子(ドキュメンタリー工房)
<制 作> 山陰中央テレビ放送

2000年5月12日発行「パブペパNo.00-142」 フジテレビ広報部