FNSドキュメンタリー大賞
開発工事で河川の生態系が大きく崩れた20世紀…。
環境の保護を訴える二人の漁協組合長の活動を追いながら、今世紀の河川行政を検証し、来世紀に向けた人と河川との付き合い方を探る!!

第9回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『清流が戻る日 〜20世紀 手取川の風景〜』 (制作 石川テレビ)

<4月26日(水)26:25〜27:20放送>
「この番組をきっかけに私達にとって何気ない20世紀の風景をぜひ見つめ直して頂きたいと思っています」(米沢利彦ディレクター)
 今世紀、私たちは自分たちの生活の向上を最優先に、川を色々な形で利用してきた。しかし、その川は手取川を始め、今、全国どこも疲弊しきっている。人に例えれば満身創痍の状態だ。このままでは将来、人の暮らしにも影響を及ぼしかねない。そこで国は法律を変え、川を大切にしようと呼びかけ始めた。平成9年に河川法を改正し、法の目的に環境を加えたのもその表れだ。
 一方、上流部の砂防工事についても平成6年、建設省が周辺の自然に配慮して作業を進めるように通達を出した。戦後、治水、利水を中心に進めてきた河川の開発、管理のあり方を改めて問い直そうという訳だ。言い方を変えれば、日本の河川の生態系が大きく崩れ、危機的な状況にあることを物語っている。
 4月26日(水)放送の第9回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品「清流が戻る日〜20世紀 手取川の風景〜」(制作 石川テレビ)は、身近な河川が今、どうなっているのか、法律の改正で河川を取り巻く環境はどう変わろうとしているのかを探りながら、新しい世紀を目前にした今、県内の手取川を例に20世紀の“人と川との関わり方”を検証する。

 石川県の手取川は白山山系を源にする一級河川で、上流部には今なお豊富な自然が残されている。しかし、その反面、手取川は水の慢性的な濁りや利水に伴う恒常的な水不足など多くの“悩み”も抱えている。その中には人間の開発と関わりのあるものも多い。
 手取川は流域の人々に大きな恵みを与えている。石川県民の飲み水の8割を供給し、その水を利用して起こされた電力(発電所22ヶ所、計52万キロワット。参考までに志賀原発は54万キロ)は、石川県の需要電力の4分の1を占めている。また、手取川の豊かな扇状地では伏流水を利用して様々な産業が行われている。
 その一方で、手取川は昔から暴れ川として知られ、度重なる洪水で流域の人々を苦しめた。そのため明治期から川の上流部で砂防工事が行われ、現在も多くの谷で作業が続けられている。砂防工事はまた、公共事業として上流の人々の経済も担ってきた。このように手取川は治水、利水という観点で捉えられ、その二つの目的を合理的に果たすため昭和55年に手取川ダムが完成した。だが、手取川の環境問題に関しては他の河川と同じく長い間おざなりにされてきた。水は利水優先に使われ、区間によっては水量が殆どないところも出始めた。ダムに貯まった濁水は川を長時間濁らせ、いずれも魚たちにとって厳しい環境をつくってきた。
 手取川ダム上流に漁業権を持つ白峰村漁協の鶴野俊一郎組合長(76)「これ以上、川の環境を悪化させてはいけない」と訴える一人だ。鶴野さんは、資源保護と遊魚者に楽しんでもらおうとイワナやヤマメを放流しているが、「砂防ダムや森林伐採などの影響で谷の環境が大きく変わり、魚たちの棲みやすい川は少なくなってきた」と嘆く。そして、鶴野さんが自然を残したいと願っている谷にまた、新しい砂防ダムが作られようとしている。
 しかし、漁協設立の条件として「公共工事には口出しはしない」という同意書を国や県に出しているため、鶴野さんは「黙って見てるしかない」というのだ。さらには、村を流れる手取川の支流に殆ど水が流れていないことも不満だ。村内にある3ヶ所の発電所で取水されているからだ。
最低限の水しか流れておらず、夏場は水無し川と化す。取水用のダムからは平気でヘドロも流される。鶴野さんが子供の頃にみた豊かな川の姿はもうそこにはない。「時代が移り、火力や原子力発電所が出来ても、電力会社が持つ水利権は昔と変わらない。もう少し環境に配慮してくれれば…」と鶴野さんは呟く。
 手取ダム下流の手取川漁協組合長の登 敏明さん(55)も川の環境に頭を痛める一人だ。釣り人からアユの質が悪くなっていると聞くからだ。手取川ダムの発電所から出される濁水で下流部は濁る日が多く、ここ数年は夏場に一度大雨が降るとその年は1年中水が澄むことがないという。確かに川を歩いてみると、河原にはヘドロが溜まり、アユのエサになるミズゴケが石に付きにくくなっている。ダムから突然、水温の低い水が流され、魚たちに大きなストレスを与えることもあるという。電力会社に川の濁り問題を検討するよう再三に渡って申し入れているが、ニベもない。ダムの完成により川の氾濫はなくなり、飲料水や農業用水、それに電力の安定供給が可能となった。しかしその一方で川の生態系が崩れかけているのも事実だ。魚たちがめっきり減り、植物の植生も変わってしまったのだ。このため、川の環境問題がクローズアップされてきている。
 しかし、鶴野さん、登さんの二人には行政の現場が真剣に川の環境を考えているとは思えない。利水、治水を優先させようとする従来の態度に変りはないと感じているからだ。利水事業者の意識が変わったとも二人には思えない。番組では1年半にわたって二人の姿を追いながら、20世紀の河川行政のあり方を検証し、新しい世紀の人と川のつき合い方を考える。

 番組を取材した石川テレビの米沢利彦ディレクター「私たちにとって何気ない20世紀の風景、しかしその風景一つ一つをよく見るとおかしなことに気がつきます。山に木がなかったり、川に水がなかったり…。この番組はそのおかしな風景の一つ、河川にスポットを当ててみました。視聴者の皆さんにはこの番組をきっかけにぜひ身近な20世紀の風景を見つめ直して貰いたいと思います」と話している。
 4月26日(水)放送の第9回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品「清流が戻る日 〜20世紀 手取川の風景〜」(制作 石川テレビ)にご期待下さい。


<番組タイトル> 第9回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品 『清流が戻る日 〜20世紀 手取川の風景〜』
<放送日時> 4月12日(水)26:25〜27:20
<スタッフ> プロデューサー  : 宮崎龍輔(石川テレビ)
ディレクター : 米沢利彦(石川テレビ)
構   成 : 高橋 修
撮   影 : 近堂清司、相沢秀定
編   集 : 内田純子
音   効 : 奥名恭明
ナレーター : 大塚周夫
<制 作> 石川テレビ

2000年4月10日発行「パブペパNo.00-101」 フジテレビ広報部