FNSドキュメンタリー大賞
石川県珠洲市の珠洲原子力発電所の28年間を振り返りながら、原発立地が抱える問題をあらためて検証するドキュメンタリー!

第13回ドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『翻弄されて〜珠洲原発 凍結までの28年』
石川テレビ制作


<6月9日(水)2時58分〜3時53分放送>
【6月8日(火)26時58分〜27時53分】



 今から28年前に計画が浮上した珠洲原子力発電所(石川県珠洲市)。町は長い間、推進、反対の住民同士の対立が続き、過疎地の沈滞ムードに拍車をかけていた。一方、原発建設を当て込んだ業者による土地の先行取得も水面下で進み、住民に混乱を与えていた。
 そうした中、地元に事前に何の相談もなく、電力会社は一方的に撤退を決め、珠洲市から去っていった。住民感情の対立や土地の先行取得などの問題を残したまま…。
 6月8日(火)放送のFNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品『翻弄されて〜珠洲原発 凍結までの28年』(石川テレビ制作)では、珠洲原発の28年間を振り返りながら、原発立地が抱える問題をあらためて検証する。


<番組内容>

 珠洲原発の立地地点・珠洲市高屋町。ここで暮らす丹保英一さん(67)は半農半漁で生活を支えてきた。しかし、自然条件が厳しく冬場は畑にも海にも出ることができないため、毎年11月から5ヶ月間、関西方面に出稼ぎに行っていた。そんな丹保さんも体力的な衰えに勝てず、実は2年前に出稼ぎを辞め、今は奥さんとセリ摘みや岩ノリ採りで暮らしを支えている。
 丹保さんは原発に大きな期待を持っていた。自分のこれまでの生活を息子や孫たちに経験させたくない、そんな思いから原発計画を積極的に受け入れてきた。過疎地の振興には原発は不可欠で、雇用の増大につながると考えていたからだ。電力会社に頼まれて調査用の土地も貸してきた。原発推進の会合にも必ず顔を出してきた。しかし、去年12月、電力会社は突然、珠洲市に原発計画の凍結を申し入れた。事前に珠洲市に一切、相談や連絡のない突然の幕引きだった。丹保さんのショックは大きかった。しかし、余りにも突然のことで身体は怒りを通り越し、脱力感に襲われていた。

 一方、長男の丹保正広さん(36)は元々、原発に期待を持っていた。しかし、町の中が原発反対、推進で対立し、膠着状態が長く続く中で、半ば諦めに似た気持ちを持っていた。いつできるか分からないものに期待するより、目の前にある自然を生かして町づくりをしたいと考え始めていた。正広さんは高校卒業後、漁師をしていたが、漁業不振が続く中で、自分で何かを育てる仕事がしたいと考え、農業の道にはいった。4ヘクタール余りの国営農場を払い下げてもらい、一人でリンゴやブドウを栽培していた。正広さんは奇麗な珠洲の自然を売り物にした果樹栽培をもっとアピールできないかと考えていた。しかし、原発を積極的に推進する父親の手前、自分の気持ちを周囲に伝えることができずにいた。それだけに原発凍結は実は正広さんにとって歓迎すべきことだった。これからは、はっきりと自分の考えを主張できるからだ。

 高屋町と共にもう一つの原発が計画されていた寺家町。ここで暮らす神田栄助さん(81)も原発凍結を喜んでいた。神田さんはここに5ヘクタール余りの土地を持つ地主の一人。原発の計画が持ち上がって以来、仲間たちとともに原発に反対してきた。珠洲では市長選挙の度に原発推進、反対派が激しい闘いを繰り広げてきたが、神田さんも反対派のリーダーの一人として選挙運動の先頭に立ってきた。
 だが、そんな神田さんにも電力会社の攻勢が強められていた。毎日のように社員が訪れ、世間話をしたり、農作業の手伝いを買って出て、信頼関係を築こうとしていた。全国各地の旅行にも神田さんを招待、やがて神田さんは電力会社に気を許すようになっていった。
 そうした中、電力会社から神田さんに調査のために神田さんの土地を貸して欲しいという話がくる。神田さんは迷ったが、賃貸料が破格の値段だったことや、「銀行口座に入るだけなので、お金を貰ったことは他人には分からない」と電力会社から言われたことを信じ、5ヘクタールの土地を貸すことにした。それでも神田さんが金を受け取ったという噂は瞬く間に広まり、以来、神田さんは仲間たちと正面切って話をすることができなくなったという。電力会社から金を貰った後ろめたさが付きまとっていたからだ。神田さんは「凍結となったことでもう、昔のことは忘れたい」と考えていた。

 さらにもう一人原発に翻弄され続けた人がいる。神奈川県内の病院に務める一人の医師(61)。この人は40年前まで高屋町に住んでいた。代々続く地主の家で、神奈川に移り住んだ後も高屋町に11万平方メートルの土地を持っていた。この土地に原発建設を当て込んだ様々な業者が群がった。将来の値上がりを見込んだ土地の先行取得だった。地主は地元の振興につながるならと東京の不動産会社に全てを売ったが、当然、そのバックには電力会社がいると思った。電力会社が表に出ると反対派を刺激するため、不動産会社を隠れみのに土地を確保するつもりではと考えていたからだ。それを証明するように売買契約のあと、電力会社が土地のことでやって来る。しかし、用件は地主に売買で得た所得を税務申告しないようにという要請だった。申告されると土地売買が明るみに出て、反対派を刺激する恐れあるということだった。地主はそれを信じ、申告を見送った。しかし、これが所得隠しと見られ、脱税の罪で起訴される。地主は裁判で当然、電力会社が助けてくれるものと信じていた。だが、電力会社は関係を否定、土地の買収にも関係していないと突っぱねた。地主は孤軍奮闘、最高裁まで争ったが、裁判所の判断は有罪だった。

 さまざまな形で原発に翻弄され続けた人々。その人たちの証言を基に電源立地の問題点をあらためて考える。




<米澤利彦ディレクターのコメント>

「電力会社は半ば“国営”とも言える巨大企業。しかし、“国策”の傘の下で進める原発立地は、何でも許されるのか、人の心を踏みにじり、平気で集落の“和”を壊していく…、そんな電力会社の横暴を視聴者に訴えたい、そんな会社にこれからのプルサーマルをまかせたくない、というのが取材者の気持ちです」



プロデューサー赤井朱美(石川テレビ)
ディレクター米澤利彦(石川テレビ)
構成赤井朱美(石川テレビ)
撮影伏見敬太郎
編集米澤利彦
ナレーター高田伸一

2004年06月03日発行「パブペパNo.04-145」 フジテレビ広報部