FNSドキュメンタリー大賞
「緊急ニュースです!…」で始まる若い女性のメールは、チェーンメールとなり、
450億円から500億円ともよばれる佐賀銀行での取り付け騒ぎと発展した。
この騒ぎの裏側にある佐賀商工共済破綻の構図とは?
理事でもあり組合員でもある一人の人物を追い、その問題の真相に迫る…。

第13回ドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『共済に消えた責任 〜佐賀 地方経済からの報告〜』
(制作:サガテレビ)


<8月18日(水)3時13分〜4時08分放送>
【8月17日(火)27時13分〜28時08分】



 昨年のクリスマス、噂はチェーンメールとなり、佐賀銀行は450億円から500億円ともいわれる取り付け騒ぎに直面した。しかし、この背景には県民の金融不信があるのだった。クリスマスから遡ること4ヶ月前。負債総額58億円、33億円の債務超過額で佐賀商工共済協同組合」が突然破産したのだった…。

 サガテレビ制作、第13回ドキュメンタリー大賞ノミネート作品『共済に消えた責任 〜佐賀 地方経済からの報告〜』では、共済の理事であり、同時に30数年来でおよそ500万円を積み立てた一人の組合員を追って、その破綻の真相に迫る。


<あらすじ>
 去年12月25日、クリスマスで賑わう佐賀の街にデマが走った。「佐賀銀行が破産するらしい…」ある若い女性が友人から聞いたうわさだった。この女性は携帯電話のメールを別の友人に送信した。「緊急ニュースです!…」で始まるこのメールがとんでもない騒ぎを引き起こすことになる。

 健全な経営を続けているとされていた佐賀県の地銀、佐賀銀行の倒産など誰も信じないかに思われた。しかし、夕方になると各支店には預金を下ろす人の長い列。結局450億円から500億円が流出する「取り付け騒ぎ」に発展した。

 実は背景には県民の金融への不信感があった。

 さかのぼること4ヶ月前。県内の個人事業者の助け合いを目的にした協同組合「佐賀商工共済協同組合」が突然破産した。負債総額は58億円、このうち債務超過額は33億円に上る。被害者は数千人。

 佐賀商工共済は佐賀県内の個人事業者の助け合いを目的におよそ40年前に設立された組合で、「日掛け」「月掛け」「心がけ」をうたい文句に、日々の売上の中から1000円、2000円をコツコツ積み立てる仕組だ。わざわざ組合まで足を運ぶ必要はなく、毎日集金人が組合員の店を1軒1軒回って、お金を集めてくれることから、ありがたい存在だった。中には数十年をかけて数千万円を積み立てた人もいる。

 昔の頼母子講(たのもしこう)の流れをくむ佐賀商工共済、長い年月を経て、お互い信頼の絆でつながっていた組織だけに、組合員は安心してお金を預けていた。歴代の理事長には国会議員や大物県議会議員が名前を連ね、県庁のOBが専務理事につく慣習になっている。「佐賀商工共済協同組合」という名前から、「県の機関ではないか」、「もしもの時は県が助けてくれる」そんな勘違いをしていた人も多かったという。


 しかしそこには大きな落とし穴があった。あくまでも協同組合のため、金融機関とは違って預金保険制度は適用されず預金は保護されない。

 「まさかつぶれるはずがない」「もしもの時でも誰か保証してくれる」そんな幻想は一夜にして吹き飛んだ。

 主人公、西据廣(にし すえひろ)は、うどん屋を経営している。昭和50年の開店と同時に組合に入り、鳥栖地区で組合員の拡大に尽力した人である。昭和50年代の後半からは組合の理事を務めている。佐賀商工共済におよそ500万円を積み立てていただけでなく、他の組合員からは理事としての責任も追及された…。

 実は、佐賀商工共済は債務超過に陥っていることを隠しつづけていた。そのことは組合員にはもちろん、一般の理事にも知らされることはなかった。毎年、総会や理事会に提出される決算書は堅実に黒字経営を続けているというもの。それに対して、何も知らない理事からは疑問の声は全く挙がらなかった。しかし、西のもとには「理事が知らないはずはないだろう」「知らなかったでは済まされない」と怒りの声が寄せられた。中小企業等協同組合法では、理事の過失があった場合は「損害賠償を請求できる」とされている。

 破産後に開かれた組合員への説明会では、現理事長だけでなく、粉飾決算が始まった当時の理事長、陣内孝雄参議院議員への責任追及の声が高まった。あくまでも「粉飾決算が行われていることは知らなかった」と話す陣内氏に対し、明日の事業資金、老後の資金を失った組合員からは厳しい声が飛んだ。

 国債や株など有価証券の運用に失敗し、債務超過を膨らませるなど、組合のずさんな体質が次第にあきらかになってきた。また、監督官庁である県も、組合が粉飾決算を行っていることを知りながら放置していたこともわかった。

 「理事としてどこかで見抜けなかったのか…」西は、自責の念にかられると同時に「いったい本当の責任はどこにあるのか」「自分達が感じていた安心感の根拠は何だったのか」考えはじめた。

 組合員にとって最大の関心は積み立てたお金が、いつ、どれくらい返ってくるかということ。裁判所主催の債権者集会では2割程度になるのではないかとの見通しが説明されたが、具体的な金額や配当の時期は明らかになっておらず、組合員救済の目途はたっていない。

 助け合いの精神から始まった組合。お互いの信頼で成り立っていた組織は、自分のお金を預ける場所として安心感をもたらしていた。しかし、「お互いの信頼」は、いつしか「トップの肩書きへの信頼」に変り、組合のチェック機能を失わせていた。信頼をしていた組合の実態は誰も知る由はなかった。そして破産…。

 責任の所在もあいまいで、救済の目途も立たない、その上長引く不況で相次ぐ倒産…。
 こうした社会状況から県民の不信感は一気に高まった。40年以上前から積み重ねてきた「信頼」があっさり崩れてしまったことで、「誰も信じれらない。お金は自分で守るしかない」急激に高まった県民の金融機関への不安は、携帯電話のチェーンメールを通じて、佐賀銀行の取り付け騒ぎへと走らせた。

 佐賀商工共済の破産が意味するものとは…。一体誰が責任をとってくれるのか…。問題の真相と理事でもあり組合員でもある主人公の複雑な思いを追った…。




<制作担当者のコメント:報道制作部 峰松輝文>
 『佐賀商工共済の破産は県内経済の足元を直撃しただけでなく、佐賀銀行の取り付け騒ぎという思わぬ事態に発展した。政治不信といわれて久しいが、地方の経済活動においては長い長い年月をかけて積み重ねてきた「信頼」が生きていた。
 しかし共済の破産であっという間に崩壊することとなる。経済ニュースでは、報じられることのない「地方」で起きたことではあるが、日本中どこにでもその火種はあるのではないかと思う。まさに「信頼」だけで成り立っていた日本的な組織が、あっさり崩壊し、そして他の金融機関の信頼まで揺るがした。
 「誰も、どこの金融機関も信用できない…」
 このことは、日本経済、社会の崩壊にもつながりかねない。佐賀商工共済の破産は「地方」から警笛を鳴らしているようにも感じる。』




<番組タイトル>第13回ドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『共済に消えた責任〜佐賀地方経済からの報告〜』
<プロデューサー>横尾正之(サガテレビ)
<ディレクター>峰松輝文(サガテレビ)
<構成>徳丸 望(構成作家)
<撮影>溝口勝秀(エスプロジェクト)
<編集>植木健彦(メディア21)
中竹 充(メディア21)
<MA>大川淳市(メディア21)
<音響効果>萩尾仰紀(メディア21)
<ナレーション>寺瀬今日子(青二プロダクション)
<制作著作>サガテレビ

2004年06月02日発行「パブペパNo.04-143」 フジテレビ広報部