FNSドキュメンタリー大賞
高知県は森林率84%と全国一。しかし、直接的な経済価値を見いだせなくなった山々が荒れている。
森林を元気にするキーワードは「間伐」。山をよみがえらそうと男たちが立ち上がった!

葉山林産企業組合に集う“素人間伐隊”の奮闘ぶりなどを追いながら「山の叫び」に耳をそばだて、「環境」のありようを考える。

第12回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『聴け!山の叫び―土佐・森林防衛隊がゆく―』 (高知さんさんテレビ)

<10月15日(水)2時28分〜3時23分放送>
 高知県は森林率84%と全国一だ。その一見、緑豊かな山々も一歩わけ入るとそこは“暗黒”が支配する。「環境の世紀」といわれる21世紀、森林は水と空気を育む生命の源泉だ。しかし、直接的な経済価値を見いだせなくなった故郷の山々が荒れている。
 森林を元気にするキーワードは「間伐」だ。山をよみがえらそうと男たちが立ち上がった。10月15日(土)放送の第12回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品『聴け!山の叫び―土佐・森林防衛隊がゆく―』<2時28分〜3時23分>(高知さんさんテレビ)では、葉山林産企業組合に集う“素人間伐隊”の奮闘ぶりなどを追いながら「山の叫び」に耳をそばだて、「環境」のありようを考える。

<手をこまねいていると…>

 21世紀は「環境の世紀」といわれる。前世紀が「殺戮と環境破壊」の100年であったことへの反省が込められている。
 緑の山々は水を育み、光合成により酸素を生み出す生命の源泉である。高知県は森林率84%で全国一を誇る。人工森林率は佐賀に次いで全国2位。多くの高知県民が森林を生活と生業のフィールドとしていた。
 かつて土佐の木材は高級材として全国にその名を馳せた。しかし、東京オリンピックの年、昭和39年(1964)、わが国の林業は転機を迎える。木材完全輸入自由化を契機に木材価格は一途に下がり、現在、昭和55年(1980)比較で3分の1と低迷している。
 そのせいか、土佐の山々を覆うスギ、ヒノキなどの木々が異変を起こしている。多くの山人たちは経済価値の下がった山林を見捨てた。
 山を健全に育てる必須の条件は「間伐の実行」である。しかし、県内の半分近くの森林には、まだ間伐の手が入っていない。このまま手をこまねいていると山の保水力は衰え、洪水と渇水を誘引する。動植物の生態系や、環境全体にも重大な影響を及ぼす。国土の荒廃は私たちの生存そのものを脅かすのだ。

<一歩山にわけ入ると…>

 空から眺めると故郷・土佐の山々は美しい緑に覆われているように映る。だが、一歩、
森の中にわけ入ると至る所で暗黒が支配する。保水力を失ってしまった「涸れ谷」と呼ばれるがれき群が目につく。そこに人間に見放された病める山を発見する。
 山が衰えると川が弱くなる。川が衰退するとやがて海が死ぬ。私たちは、大いなる循環の中で、一人一人の生を享受しているのだ。
 山を蘇よみがえらせるためには人間は何をしなければならないのか。それは、「間伐の実践」であるという。素人にはせっかく植えた木を切るのはもったいないのではないか、という思
いもよぎるが、それは違うのだ。「透かし切り」とも呼ばれる間伐を適切に行い、森に太陽の光を誘い入れ、下草を育て、雨水をしっかりと受け止め、川から海へと戻していく循環の仕組みを目的意識的に作っていかなければならないのだ。
 森林県・高知はその対策においても先進のモデルを示さなければならない。平成14年4月、「間伐対策室」を立ち上げ、広く県民にその重要性を訴えるとともに、15年度にはわが国初の森林環境税の新設を決めた。また、林野庁でも150万ヘクタールを目標とする緊急間伐5カ年対策を掲げ、総合対策に本格的に乗り出した。いま「間伐」は山を荒廃から救うキーワードともいえる。

<葉山・間伐隊の実践を軸に>

 こうした動きに呼応して、おらが山を復活させようと男たちが立ち上がった。高知県高岡郡葉山村がつくった「葉山林産企業組合」に集まる“にわか間伐隊”の面々である。元サラリーマンや元トラック運転手、調理師学校を卒業したばかりの若者など顔ぶれは多彩。ちょっと心細い気持ちもよぎったが、働く場を故郷に求めたUターン組が多く、山への愛着は人一倍強い。彼らの山の再生に挑む行動と心意気にスポットを当てながら、私たちも「山の叫び」に耳をそばだてた。森とヒトの関係を通して「環境」を考えるきっかけを見つけようとしたかったのだ。
 「間伐」といっても、ただ闇雲にチェーンソーを振り回せばよいわけではない。全体的な伐採計画の立案に加え、何より程度の差はあれ、自己負担を伴う山林オーナーの理解、同意が必要だ。ちょっぴり苦手な営業活動も欠かせない。それに、急峻な高知の山での作業は危険と隣り合わせの緊張と過酷な労働を要求する。撮影中にも「あわや」という場面に何度も遭遇した。
 こうした葉山・間伐隊の仕事ぶりを縦軸に、「間伐をしすぎて枯れてしまったヒノキの林」や、過疎地ゆえ“不在地主”の山や境界がはっきりしないため間伐が進められない県中央部の事例。山の荒れが原因で水量豊かな川が年々衰えていくさまを見かねて、ついに漁協が山のオーナーになった県東部の芸陽漁協の話なども紹介していく。
 また、全国的にはまだ珍しい「森林救援隊」と呼ばれる高知のボランティア組織も活動している。多くの参加者が地球環境を心配し、それぞれ信念に基づいて汗を流している。「シンク・グローバリー。アクト・ローカリー」(地球的に考え、行動は足下から)というバーバラ・ウォードの言葉が思い出された。

<緑のダムを目指し>

 取材を始めて一年弱。平成15年の仕事始めにメンバーの一人が姿を消した。その理由をたずねると「仕事はいやではなかったが…」と言葉を濁した。どうやら、出来高払いで収入が一定しない上、子供が生まれ、お金もかかることが原因らしい。
 その一方で、平成14年春の間伐チーム発足直後にけがをして休んでいたメンバーが復帰した。さらに、山林作業に経験豊富なメンバーの新規加入で、態勢は強化された。土佐・森林防衛隊のフロントラインをあずかる彼らのリハーサルは終わった。
 森林の保全、間伐を取り巻く未来は決して光あふれる状況ばかりではないが、「環境を守る闘い」が終わることはない。「緑の砂漠を緑のダムへ」―。

<「山」取り巻く課題を愚直に…>

 地下足袋をはいて何度も山に足を運び、山に働く男たちとの対話を重ねた大井清孝ディレクターは、「山で生きることを決意した男たち、間伐に汗を流す人物群を通して愚直に山の抱える問題をとらえようとしました。そのはるか向こうに、大いなる循環の中にいきとしいけるものの舞台としてある<環境>の二文字が透けて見えれば、ドキュメンタリーのねらいは達成されると思います」とメッセージを語る。
 また、番組を企画した鍋島康夫プロデューサー「森林は水と空気を育む生命の源泉ですが、田舎町に住んでいるぼくたちでも、自然との距離がますます遠くなっているように思いました。すべてが人工物で造られた都会に住んでいる人たちは、そういう実感すら喪失しているのではないでしょうか。それにしても、高知の山は急峻でした。何度も深い谷底に転落しそうになりました。環境とヒトとの関係も気がつかないうちにそこまで追いつめられているかもしれませんね」と話した。

<プロデューサー>(企画) 鍋島康夫(高知さんさんテレビ)
<ディレクター>(取材・構成) 大井清孝(フリー)
<撮影・編集> 新谷卓史
<ナレーション> 吉田鉄太郎(高知さんさんテレビ)
野村 舞(高知さんさんテレビ)
<CG> 服部淳一(高知さんさんテレビ)
<制作> 高知さんさんテレビ

2003年9月29日発行「パブペパNo.03-283」 フジテレビ広報部