FNSドキュメンタリー大賞
北朝鮮を巡る報道が相次ぐ今、朝鮮学校のこどもたちは何を思い、何を学んでいるのか。
教師は、保護者は、なぜ朝鮮学校で学ばせようと思うのか。
朝鮮学校の100日を追った。

第12回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『アンニョンハセヨ―朝鮮学校は今―』 (テレビ静岡)

<10月3日(金)3時05分〜4時00分放送>
 静岡県に1校しかない「朝鮮学校」。今、北朝鮮一辺倒の教育が変わりつつある。金日成・金正日両氏の肖像画を取り外し、これまで閉鎖してきた学校を開放、日本人にも理解をしてほしいと門戸を広げている。

 10月3日(金)3時05分〜4時00分放送の第12回ドキュメンタリー大賞ノミネート作品「アンニョンハセヨ―朝鮮学校は今―」(テレビ静岡)では、北朝鮮を巡る報道が相次ぐ今、こどもたちは何を思い、何を学んでいるのか。教師は、保護者は、なぜ朝鮮学校で学ばせようと思うのか。これまでなかなか知ることができなかった朝鮮学校の100日を追った。

<番組内容>
 静岡県に1校しかない「静岡朝鮮初中級学校」は、39年前、静岡市に開校した。現在、県内に住む在日韓国・朝鮮人の小学生と中学生61人が学んでいる。こどもたちの国籍は、朝鮮籍・韓国籍・日本国籍とさまざまで、朝鮮籍が7割を占める。7年前から年に1回、公開授業を行ってきたが、この日以外は、詳しい授業内容を取材することはできなかった。しかし今回、初めて100日間にわたり取材することができた。

 今、朝鮮学校では幾つもの課題を抱えている。年々生徒数が減少し、今年の新入生は5人。日本の学校に通う子どもが大半を占めていること、日本に帰化する在日が増えていることが考えられる。そこには、以前のような北朝鮮一辺倒の教育をする朝鮮学校には我が子を送りたくないという親が増えていること、金日成・金正日両氏の肖像画が飾られていると、新しく韓国からやってきたこどもたちが入学を躊躇するなどの理由があった…。

 今回、日本の学校と授業内容が最も違う「社会科」の授業を撮影した。小学3年生では、「自分たちがなぜ日本に住んでいるのか」を知るため、おじいさん・おばあさんの住んでいた場所・そして強制連行について学んでいた。日本人は、朝鮮学校に通っている人を「北朝鮮出身」と思いがちだが、ほとんどが今の韓国出身であることが分かる。授業を聞いたこどもたちは、昔、朝鮮が日本の植民地であったこと、日本人がしたくない仕事を、在日朝鮮人はさせられていたことを聞く。こどもたちは、日本のことを「今はそんなに悪くないけど…」と複雑な心境を話す。

 今年、朝鮮学校の教科書が10年ぶりに変わった。これまで革命史など、北朝鮮の考えに沿った教育が行われてきたが、北朝鮮一辺倒から朝鮮半島統一を意識した内容に変わりつつある。そして、これまで「南朝鮮」と呼んできた韓国を初めて「大韓民国」と表記するようになった。

 最も戸惑っているのは、現場の教師たち。社会科の教師は「これまでは、南朝鮮のことを敵対視した授業がされてきました。資本主義の国は悪い。イコール日本も悪いということになっていた。とにかく教科書に“大韓民国”という言葉が出てきたことが驚きです。」と、昔、自分が朝鮮学校に通っていた頃のことを話し出す。

 変わりつつある朝鮮学校。しかし、財政難の問題、進学の問題など、抱える課題は多い。

 静岡県には高校、大学がないため、朝鮮学校の教育を受けるには、他県で寄宿生活を送るしかない。国立大学の受験資格がまだ朝鮮学校には与えられていないという問題もある。それでも我が子を朝鮮学校に通わせる理由は何なのか?それは民族教育へのこだわりだけではなかった…。

 新入生の母親は「自分も朝鮮学校に通っていたので当たり前です。でも、教科書が変わる。新しい未来がある。」と変わりゆく学校に期待する。

<ディレクターからのコメント>
 「北朝鮮が拉致の事実を認めた去年9月、全国の『朝鮮学校』には、無言電話や嫌がらせのメールが相次ぎました。こどもたちは、教師は、保護者は、どう受け止めたのか、本当の思いを知りたくなりました。『今だからこそ、学校の密着取材をしたい。』それが番組の取材を決めた理由です。これまで、知ることができなかった学校に、入ることができた…。その思いを番組の導入に込めています。
 日本の保育園に通っていた新入生5人。朝鮮学校に入学して始めて朝鮮語を学ぶわけですが、見るものすべてが初めての新入生5人と、私たちスタッフ・そして視聴者の目線は同じではないか。新入生と一緒に、朝鮮学校とは何か見つめたかったのです。
 在日韓国・朝鮮人たちが日本にどれだけいるのか、なぜ住んでいるのか。歴史の事実を知る朝鮮学校のこどもたちと、歴史を知らない日本のこどもたちとでは、大きなギャップがあると感じました。この差がお互いの壁となり、疎遠になっている理由だと思います。
 今回、取材に制限はありませんでした。開かれていると感じました。朝鮮学校という知らない世界・そして、これまで在日の人々が口にしなかった事実を、ぜひ、感じてください。変わりつつある朝鮮学校を見てください。そして、この番組をきっかけに、日本のこどもたちと朝鮮学校のこどもたちがもっともっと素直に話せるようになって欲しいと思います。」

<ナレーション> 李 麗仙
<プロデューサー> 佐伯 裕
藤原一史
<取材・構成> 橋本真理子
<撮影> 山崎有希乃
小野田直巳
<音声> 山本洋久
<編集> 川村新一
<効果> 長田 渉
<デザイン> 西川清美
<映像アドバイス> 大村義治

2003年9月24日発行「パブペパNo.03-279」 フジテレビ広報部