FNSドキュメンタリー大賞
残された川での日々を、ダム計画を忘れて生きようとする76歳の古老、
ダム反対運動の先頭に立ち、流域の市会議員のバッジをつかんだ55歳の漁師…
ダム事業に翻弄される中、川で生きる漁師たちのそれぞれの生きる姿を描く渾身のドキュメンタリー!

第12回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『尺鮎の里〜ダムに揺れる川漁師たち〜』 (テレビくまもと制作)

<9月2日(火)深夜26時28分放送>
 日本三急流の一つである球磨川(くまがわ・熊本県)は、尺鮎の川としても知られる。その球磨川に注ぐ最大支流が、ダム建設計画のある川辺川。この川の漁師の中に名人と名高い76歳の古老がいる。その昔、反対運動を展開したが黙殺された。古老は今、残された川での日々を、ダム計画を忘れて生きようとしている。一方、55歳の漁師は反対運動の先頭に立ち、流域の市会議員のバッジをつかんだ。9月3日(水)放送の第12回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品『尺鮎の里〜ダムに揺れる川漁師たち〜』(テレビくもと制作)<深夜2時28分〜3時23分>では、川で生きる漁師たちのダム事業に翻弄されながらも力強く生きる姿を描く渾身のドキュメンタリーだ。

 熊本県の南を流れる球磨川は、日本三急流の一つとしてその名を知られる一方で、体長30センチを超す尺鮎の生息する川として釣り師たちの人気が高い。その球磨川に注ぐ最大支流が、ダム建設計画(昭和41年発表)のある川辺川。国の調査で水質日本一にもなった川が育てるアユは、型・味ともに球磨川以上といわれ、地元の人たちは日本一の清流と胸を張る。
 海に漁師がいるように川にも漁師がいる。川辺川・球磨川(球磨川水系)の恵みを糧に暮らしている漁師たちは、ダムの影を感じながら生きてきた。その一人、掟義広(おきてよしひろ)さん(76)は、昭和2年に川辺川と球磨川が合流する相良村(さがらむら)で生まれた。父親が病気がちだった掟さんは、一家の暮らしを支えるため12歳で川漁師となった。以来65年、川辺川や球磨川でアユを追いかけて生きてきた。名人・達人と呼ばれる掟さんは、ダム計画を知ったとき“川の水が減る”ことを直感し、5、6人の漁師仲間とダム中止を訴え行動を起こす。しかし、行政からも周囲からも黙殺された。その後、掟さんが、反対運動の先頭に立つことはなかった。

 球磨川が流れる人吉市でアユを捕る吉村勝徳さん(55)は、ここ数年のダム反対運動の先頭に立つ。平成13年、ダム反対派と容認派で分裂する球磨川漁協の会合に、国が提示した16億5000万円の漁業補償締結案が諮られた。投票の結果、反対派が補償案を拒み、国は漁業権の強制収用の手続きに入った。吉村さんは国土交通省に乗り込み抗議するが、国の対応と態度に憤る。

 早い段階の反対運動で行政に不信感を抱いた掟さんが、再びダム中止を視野に行動したことがある。カワウソ探しだった。10年ほど前の話だ。ニホンカワウソは昭和54年の目撃を最後に姿を消し絶滅が心配されている国の特別天然記念物。そのカワウソを掟さんは自分の漁場付近で目撃していた。『カワウソが見つかればダムが中止できる』と1年ほど探し回った。地元の新聞記者やニホンカワウソ研究会との共同捜索、村の広報誌での呼びかけなど運動は広がり、熱を帯びたが、カワウソの確認には至らなかった。

 一方、吉村さんは反対運動の中で、次のステップを踏み出した。一人の漁師としてではなく、住民の代表である議員として訴えれば、国の対応も違うだろうと考えた。周囲の勧めもあり平成15年の統一地方選で人吉市議に初出馬、当選し議員バッジを手にした。
 こうした中、ダム計画は大きな局面を迎えた。建設目的の一つ“利水事業”が、事実上、白紙に戻った。国の利水事業に反対し、農家の代表として裁判を引っ張ってきたのは、元相良村教育長の梅山究(うめやまふかし)さん(72)。かつて掟さんたちと一緒にカワウソを探した。判決前の集会で梅山さんは「公共事業は法にかない、理にかない、情にかなうものでなければならない」と、下筌ダム闘争をくりひろげた故室原知幸氏の言葉をかりて訴えた。判決は農家側の逆転勝訴だった。

 ダム反対運動の大きなうねりの中で、掟さんはこうつぶやく。「完成までは生きていない。どうってことはない」。それは衰える川での残りの日々を思い描き、自分を納得させるかのような古老の漁師の言葉だった。そして「三途の川でもアユを捕る」と笑う。
 清流のダム計画は、川に関わる人々の人生を揺さぶってきた。人々はそれぞれのやり方でダムと対峙し、関わり、自らの道を歩む。

<ナレーション> 尾谷いずみ
<構成> 香月 隆
<撮影> 村中洋生
手石方律夫
渕上洋平
<VTR> 森本真理
山口由己
<編集> 可児浩二
<MA> 森 仁(U2)
<AD> 池辺里奈
<ディレクター> 本田裕茂
<プロデューサー> 伊藤典昭
<制作> TKU テレビくまもと

2003年8月27日発行「パブペパNo.03-251」 フジテレビ広報部