2016.11.17

第25回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『槻木(つきぎ)の里の風だより』
(制作:テレビ熊本)

7年ぶりの小学校再開 山里に吹く新風

<11月29日(火)26時55分~27時50分>


 舞台は九州山地の小さな山里。高齢化率は約8割、子どもは一人もいなかった。そんな世間でいうところの「限界集落」に、ある一組の家族が移住してきた。父親の仕事は地域の活性化を任された「集落支援員」。マニュアルなんてない仕事に手探りの毎日だ。長女は7年ぶりに再開された「たった一人の小学校」に通っている。久しぶりにこだまする子どもの声とチャイムの響き…静かな山里に吹きはじめた新しい風を追った。

 槻木(つきぎ)集落は九州山地の小さな山里。山仕事で栄えた昭和30年代には1500人もの人が暮らし、集落内には小学校が二つあった。しかし、林業の衰退などで若い家族は次々と里を離れ、今や人口128人、高齢化率はおよそ8割に上る。住民の半数以上を高齢者が占める場合、ときに「限界集落」と呼ばれるが、その定義に当てはめるならば、ここは「超・限界集落」といってもいいくらい過疎高齢化が進んでいた。
 私がそんな槻木集落のことを知ったのは、ある新聞記事だった。見出しは「限界集落の小学校再開へ」。7年ぶりの小学校再開を2カ月後に控えたタイミングだった。

「限界集落」と聞くと、廃れていく一方の暗いイメージを持たれがちだが、槻木集落の印象は違った。70歳、80歳を超えても山仕事に行く人が多く、地域の寄り合いも頻繁にある。若者がいないからこそ、自分たちで自立して生活をしようとされていた。しかし、そんな中でも近年は車を運転できない高齢のご夫婦が病院へ行けなかったり、買い物ができなかったり…と日常生活で不便なことも増えつつあった。それを補おうと、町の非常勤職員として「集落支援員」制度が導入されたのである。
 公募の結果、福岡に住む上治英人さんが選ばれ、一家4人で移住をした。上治さんの長女・南凰ちゃんは当時7歳。南凰ちゃんを迎えるため休校していた小学校が7年ぶりに再開されることになった。一度は幕を閉じた学び舎の復活…「再開校式」を兼ねた南凰ちゃんの入学式には集落のほとんどの住民が出席、目頭を押さえるおばあちゃんもいた。そして、住民に見守られながら南凰ちゃんのたった一人の学校生活が始まる。
「集落支援員」という仕事にマニュアルなんてない。地域の活性化という、一朝一夕には成し遂げられない大きな課題を前に上治さんは手探りの毎日だ。小学校再開が話題となって槻木に興味を持ち、空き家を見に来る人も出始めたがなかなか結果には結びつかない。「こういう田舎に憧れはあるけれど、暮らしていける仕事がない」、返ってくる答えはいつも同じ、いまだ移住者はゼロだ。集落支援員は総務省の制度で任期や仕事内容は自治体ごとに決められている。上治さんの場合は1年ごとの更新で明確な任期はない。「成果を出さなければいつまでここにいられるか…」上治さんに焦りが見え始めていた。

 移住から2年目の夏。上治さんは、かつて暮らしていた福岡県の都市部の親子を招き槻木を体験してもらうキャンプを計画する。張り切って準備を進めるのだが、やる気が空回り気味、また新たな壁にぶつかることになってしまう…。
 こうした過疎高齢化の問題は槻木集落に限った話ではない。国の統計では、いわゆる「限界集落」に相当する地区は全国で1万箇所を超えるという。今回番組では地方の過疎化が進んだ背景として「集団就職」に着目し、ある一人の男性を訪ねた。15歳で集団就職のため槻木を離れ、横浜市で会社を経営する68歳の黒木和さんだ。「何もない槻木で育ったからこそ、がむしゃらに頑張れた」と振り返る黒木さん。故郷が「限界集落」と呼ばれることに落胆の色を隠せない。一方で、去りゆく友を見送りムラに残った人の心境も複雑だ。「もう山では食っていけん。息子には同じ山仕事はさせようとは思わん…」こうして人が減る一方のふるさと…それぞれの思いを描く。
 移住から3年目の春、上治家にはひとり家族が増えた。集落にとって実に20年ぶりとなる赤ちゃんが誕生したのだ。そして、もうひとつ、槻木の里にうれしい知らせが舞い込む…。
 高齢化率はいまだ8割近くで、小学校の児童は南凰ちゃんひとりだけ。時代の流れはなかなか止まらないが、山里を吹き抜ける風は確かに変わり始めている。「限界集落」に移り住んだ集落支援員の家族と、そこに生きる人たちの思いを紡いだ「変化の2年間」の記録である。

ディレクター・寺田菜々海(テレビ熊本 報道部)コメント

「今や全国各地で学校の統廃合が進み、ふるさとの学びやが消えていっています。私の母校もそのひとつです。そんな時代の流れにまるで逆行するかのような異例の学校再開。“なぜ?”そして“これからムラはどう変わっていくのか”…誰も見たことのない挑戦を、私も母校を失った一人として見つめていきたいと思い追いかけてきました。槻木集落の取り組みはまだ道半ばで、何か大きな成果を残せているわけではありません。しかし、集落支援員一家の移住でこれまでとは違う風が吹きはじめているのは確かです。どこの農山村も抱えているであろう、過疎高齢化の問題に立ち向う一例として槻木集落のことを知っていただき、山村に生きる人々の思いに触れていただきたい…そして“ふるさと”について考えるようなきっかけにこの番組がなれれば幸いです」


番組概要

◆番組タイトル

第25回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『槻木(つきぎ)の里の風だより』
(制作:テレビ熊本)

◆放送日時

11月29日(火)26時55分~27時50分

◆スタッフ

プロデューサー
徳永幹男
ディレクター
寺田菜々海
構成
徳丸望
編集
可児浩二
撮影
古江智宏
手石方律男

2016年11月16日発行「パブペパNo.16-457」 フジテレビ広報部
※掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。